僕、魔女になります‼︎

くりす

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第4章〜前例なき学校生活〜

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 入学(仮)の日。
 
 僕と姉さんは今、魔女育成校にある講義棟の最上階(6階)にある集会室で指定された席に座っている。
 これから学生生活についての説明を受けるためらしい。
 ちなみにだが、僕は今、女性のみ入学できる学校に居るため女性の姿になっている。これはウィッグやメイクなどによる女装ではなく、僕自身の魔法属性である変身魔法を予め学校長を中心に関係者から許可を得て使用している。
 申し訳ないが、魔法属性についての説明については今回も割愛させてもらう。
 容姿については、もちろん双子の姉さんを参考にしつつ、自分が動く際の違和感を減らすために、髪は肩に掛からない程度の長さで体型も姉さんより幾分凹凸を少なくしている。
 魔法による変身は学生生活を送るために必要不可欠だが、実は他にもメリットがあったりする。
 
 さて、話を戻そう。
 この集会室は、ざっと数えてみると200人弱分の席数がありそうだ。
 僕たち新入生の人数は確か20人のはず。そのため、かなり空席が目立っている。
 (ーー正直、この部屋に集まる必要性がない気もする…。)
 そんなことを考えてながら時間が経つのを待っていると、集会室に入るときに席を指示してきた女性が入ってきた。
 どうやら、そろそろ説明が始まりそうだ。
 「それでは時間になりますので、説明のほどをさせていただきます。」

 女性は如何にも仕事が出来そうなOLみたいな雰囲気でセミロングの黒髪とメガネが良く似合っている。
 服装については学生に支給されている藍色をベースにした学生服をランクアップさせたような先生用の制服をキチッと着こなしている。学生服にはスカートタイプとズボンタイプの2種類があるが、こちらの女性はどうやらズボンタイプらしい。
 ちなみに、僕もズボンタイプを選択している。流石に、スカートを履く勇気はあるわけない。

 「本来なら、貴方たち生徒の副担任である私ではなく主担任である月兎(つきうさ)先生が説明すべきなんですが、どうやら寝坊でもしているのか遅れてきそうなので…。」
 そう告げると、先生は短く溜息をついた。
 「あれほど、遅れないように言っていたのに…。まぁ、予想通りなんですけどね。」
 席が先生に近かったために小声でも聞こえてしまった。
 (ーー先生も大変そうだけど、そんな遅刻するような先生が主担任って不安しかない…。というか今昼過ぎなんですけど…。)
 そんなことを考えながら横に居る姉さんの方を見る。
 すると姉さんも同じ考えなのだろう、こちらを見ながら苦笑いを浮かべていた。
 軽く周りの生徒たちを見渡すと、聞こえていた生徒たちの大半は少し不安そうな表情をしている。
 そんな空気に気付いたのか、先生はわざとらしく軽い咳をした。
 「コホン。さて、先ずは私の自己紹介から始めましょうか。」
 僕ら生徒たちは先生の発言に耳を傾ける。
 「私の名前は稲葉睡蓮(いなばすいれん)といいます。昨年度、主担任である月兎先生とともにこの学園で『魔女』の資格を……、うん?」
 稲葉先生は何かに気が付いたのか説明を中断する。
 その姿を見て、僕は半ば条件反射で周辺の状況に意識を張り巡らす。
 すると、僕たちの居る講義棟に向かって移動している人物が1人居ることが分かった。
 (ーー今は3月だから、殆どの学生は春休みによる一時帰省か魔女の資格を得るために試験の準備をしているはず。つまり、この人物は学生以外の学校関係者ということになる。というか、この人から放出されてる魔力量が不自然なくらい多いな。まるで、こちらに気づいてもらう為にわざとやってるような。)
 そんな風に考えていると、その人物は講義棟近くで立ち止まった。次の瞬間、その人物から放出されている魔力が瞬間的に揺らいだ。
 (あれっ?今のは、もしかして。)
 僕がある疑問を考え出すとほぼ同時に、稲葉先生はおもむろに溜息を軽く吐いた後に、その人物がいる方向の窓へ歩き出し、窓を開ける。

 すると、その人物が開いた窓に向かって大きく跳躍した。
 しかし、勢いよく跳んだものの流石に6階までに届く訳なく3階を越えた辺りで勢いがなくなった。
 (ーー何がしたいんだ?このままだと、地面に逆戻りでは?)
 そう思った瞬間、その人物の落下が停止したかと思うと、もう一度窓に向かって跳躍した。
 (ーー嘘だろ⁉︎)
 そして、その人物は僕の驚きを無視して稲葉先生の開けた窓の窓枠を掴むと、そのままの勢いで集会室に入って来た。
 「いや~、ギリギリ間に合った~。ありがと、スイちゃん♪」
 「間に合ってませんし、そもそもスイちゃんではなく、稲葉先生と呼んでください、月兎先生!」
 なんという事だろう。僕たち新入生が居る集会室に非常識な方法で入って来た人物の正体は、僕たちの主担任である月兎先生らしい。
 彼女は明るい紫色のロングヘアーで、稲葉先生と同じ制服を着ている。ただ、稲葉先生のズボンタイプとは異なり、こちらはスカートタイプである。そして、大分豊かな胸部をお持ちのようだ。
 ちなみにだが、この世界では魔力の影響のためか日本人だとしても魔女の場合、様々な髪色になっていることも珍しくはない。
 (ーーなんなんだ、この先生。)
 そんな至極当然な疑問を僕たちが持っていると稲葉先生が更に言葉を続ける。
 「というか、許可なく魔力を用いた行動は原則禁止されているのは月兎先生もご存知でしょう!」
 「いや~、ゴメンゴメン♪でも、稲葉先生も私がこうやって入るのは予想出来ていた上で窓を開けてくれたんでしょ?」
 「それは、そうですが…。」
 「じゃあ、稲葉先生も魔力の使用を認めてるようなもんじゃん♪それに、学園長はそんな細かいことは気にする人ではないでしょ?」
 「まぁ、そうかもしれませんが…。」
 「じゃあ、問題ないじゃん♪」
 「うぅ、納得いかない…。ところで、どうして遅刻したんですか?」
 「フツーに寝坊だけど?ほら、稲葉先生もご存知の通り、私って目覚まし時計が意味を為さないじゃん?」
 「今、思いっきり昼過ぎなんですけど…。」
 ちなみにだが、この説明会の開始時刻は13時からである。
 「凄くグッスリ眠れたからね♪」
 「いや、おかしいでしょ…。」
 そんなやり取りを完全な蚊帳の外状態の僕たち生徒たちの視線に気付いたのか、稲葉先生は気を取り直すように先程と同じように咳払いをする。
 「コホン。まぁ、いいでしょう。取り敢えず、月兎先生に説明をお願いしてもよろしいでしょうか?」
 「全然オッケー♪まかせてちょーだい。」
 (ーー正直、稲葉先生にお願いしたい…。)
 そんな僕の儚い願いは叶う事なく、月兎先生は僕たちの前に立ち説明を始めた。

 「じゃあ、まずは自己紹介からしようか♪私の名前は月兎リトっていうの。稲葉先生と一緒に今年度『魔女』の資格を得たから、この『徳島魔法科大学校』を卒業することになってまーす♪ちなみに~、今年齢は20歳だよ♪それから~」
 「月兎先生、自己紹介はそれくらいにして、そろそろ本題の説明をお願いします。」
 「えー?まだ言いたいことあるのに~。まぁ、仕方ないか♪よし!最初にみんなの配布物と今日のスケジュールを確認しようか♪」
 稲葉先生の軌道修正のおかげか、ちゃんと説明を始めた月兎先生。
 「まぁ、配布物と言っても1つしかないけどね~♪えーっと、みんな、ちゃんと自分の端末が手元にあるか確認してもらっていいかな?一応、配られた端末がみんなの学生証にもなってるし、財布にもなってるからね♪」
 月兎先生はそう言うと、入室前に渡されたスマホのような携帯端末の操作説明を始めた。
 月兎先生の言う通りの操作を行うと端末には、自分の顔写真付きの学生証画面になった。
 「ちゃんと自分の学生証の画面になってるか確認できた~?もし、操作や問題があった人は挙手してくれるかな?」
 月兎先生がそう言ったが、挙手をした生徒はいなかった。どうやら、誰も問題なさそうだ。
 「オッケー♪みんな大丈夫そうだねー♪他の操作方法はマニュアルのアプリがあるから、それで確認してね♪ちなみに端末を紛失等した場合、速やかにこの講義棟1階にある事務室に報告するようにね。」
 (ーー個人情報どころか財布機能とかもあるからな、当然だよな。)
 「次に、今日のスケジュールについて説明するよー。」
 僕の思っていたより、だいぶスムーズに説明を続ける月兎先生。
 「といっても、今日することは、大学にある施設や大学での規則等の簡単な説明とこれから生徒であるみんなが使う寮に移動して寮長に挨拶するくらいだけどね♪その後、各部屋で事前に送った荷物の整理をしてもらうのが今日1日の流れかな。」
 割とザックリとしたスケジュールだ。まぁ、タイトなスケジュールよりは全然マシだろう。
 「じゃあ、次に大学にある施設と大学での規則等の説明をしようと思いまーす♪先ず、施設の説明からだけど…。」
 そう言うと、月兎先生は後ろにあるモニターへと身体を向ける。それに合わせて、予めノートパソコンのある場所に移動していた稲葉先生がパソコンを操作する。すると、モニターに大学の敷地全体図が表示される。
 大学の敷地は大きく4つのエリアに分かれている。
 「先ず、今私たちが居る講義棟がある南西エリアだけど、このエリアには講義棟の他にも講師たちの研究室とかがあるよ。」
 月兎先生の説明に合わせて、稲葉先生がパソコンを使ってモニターに表示する情報を操作する。
 これだけを見ると、かなり息が合っているコンビに見える。
 「次に北西エリアだけど、ここは主に仮想空間での実戦訓練をするための施設があって、主な魔法の実戦訓練はこの施設を使うことになるかなぁ。後は、図書館があるから必要に応じて利用してね♪」

 月兎先生の言うように、この世界では魔法技術の進歩によって仮想空間を用いて魔法だけではなく格闘技などの練習をすることができる機械が存在する。その機械の名前は『夢の箱庭(別名:ドリームガーデン)』と言う。噂によると製作チームの中心人物の魔法属性を参考にして命名されたらしい。『夢の箱庭』の登場により、多くの場合で危険が伴う魔法の練習が仮想空間を用いていることで安全に行うことができるようになり、魔法技術の進歩に大きく貢献しているらしい。

 「それで、北東エリアだけど…、ここは生徒である君たちの寮があるよ♪後、食堂とか浴場とかあるから生活の中心になるエリアかなぁ。ちなみに、浴場は大きなお風呂と個室風呂がそれぞれあるから、好きな方を利用していいよ♪」
 (ーー個室風呂があるのは個人的に凄く助かる。それがないと、社会的に考えてまともに入浴することができないからね。)
 「そして最後になるのが南東エリア。ここは、生活物品を中心に書物とか色々販売しているショッピングエリアみたいな感じになってまーす♪他にも、身体のトレーニング用に体育館や運動場があるよ♪まぁ、みんな知ってると思うけど、仮想空間での魔法とか身体技術の練習には便利だけど、身体能力は一切向上しないからね。そのため身体を鍛える時は体育館等を利用して身体作りにも励むよーに♪これで施設についての説明は終わりでーす。細かいことは各自で配布された端末『デバイス』にあるアプリ等を用いて調べること!」
 凄くあっさりとした施設の説明が終わった。まぁ、長々と話されても眠くなるだけなので、むしろ有難い。
 (ーーさて、月兎先生の説明したスケジュールだと次は大学規則についての説明があるはず…。)

 「じゃあ、次に大学でのルールを基本的な所だけ説明します!詳細は『デバイス』を参照するよーに♪」
 スケジュール通りに説明を始めた月兎先生。稲葉先生も、月兎先生の説明に合わせてパソコンを介してモニターを操作している。……視界の隅でどことなく稲葉先生がホッとした仕草をしたのは気のせいだろうか。
 「先ず最初にみんなに理解して欲しいのは、この大学での進学や卒業等についてだけど…。先ず、この大学での卒業条件は至ってシンプルで学生生活中に『魔女』の資格を取得することだよ♪ちなみに、『魔女』の資格を取得した年度に卒業するようになってまーす。そして、卒業以外で大学を出て行くことは基本的に退学扱いになるよ♪」
 この条件は、他の多くの魔女育成大学でもそのような制度を導入している。
 「後、みんな知ってると思うけど『魔女』の資格を取得するための試験は1年に8月と3月の2回あって、受験条件として原則『魔女見習い』を取得してから1年経過していること。ちなみに、『魔女見習い』の試験は7月と2月にありまーす♪そして、とても重要だから改めて確認しておくけど~、この1年、正確には来年の4月までに『魔女見習い』を取得出来なかった子は強制的に退学扱いになるから、みんな頑張ってね♪」
 (ーーこの『魔女見習い』の試験が『魔女』になるための最初の関門だろうな。)
 そんなことを考えていると知らずに、月兎先生はマイペースに説明を続ける。
 「さて、次は君たちの学生生活についてだけど、この大学生活中は8月の夏休みと3月の春休みを除いて、原則さっき説明した大学敷地内のみで生活してもらいます!外出や外泊が必要な場合には、事前に申請しておくように♪」
 「ちなみに、申請する場所はこの講義棟1階事務室です。『デバイス』の紛失等で行く所と同じ場所ですね。」
 稲葉先生が月兎先生の説明を補足してくれる。
 「それで、次に魔法等を含む魔力を用いた行動についてだけど…。これは、原則として先生等の許可のない使用は禁止されているから注意するよーに!まぁ、当然と言えば当然だよねー♪他の規則としては…、」
 月兎先生が毎月の成績に応じて支給される『デバイス』へのポイントが決まることや、大学内での買い物はこのポイントを用いることなどの説明を続けているが、これらの説明はこの大学のホームページ等にも記載されている情報なので、生徒たちの多くは説明を軽く聞き流している。
 それよりも、僕も含む多くの生徒の疑問に思っているのは、今年だけの異例措置である3月から学生生活を送る新制度についてだろう。
 この事について、大学も詳しい説明はしていないので、気になってしまうのは当然と言える。
 「それじゃあ、みんな知ってることを長々と説明したので~、そろそろ、みんなが気になっているだろう新制度の内容ついて説明しようか♪」
 月兎先生のその言葉によって、弛緩し始めていた生徒たちの雰囲気に一気に緊張が走る。もちろん、僕も例外ではない。
 「うんうん♪やっぱり、みんな気になってたんだね♪よろしい!では、説明しよう!」
 生徒たちの反応が気に入ったのか、月兎先生は妙に芝居掛かった話し方になった。
 「みんなの知っての通り、本校では2人1組のペア制を導入しているよね。だけど、みんなにはこのペア制ではなく、別の制度で学生生活を送ってもらいます!それは…。」
 月兎先生の発言を固唾を飲んで聴いている僕ら生徒一同。
 そして、月兎先生の口から新制度の正体が明らかになる。
 「4人1組でのパーティ制です!」
 こうして、おそらく生徒たちの誰もが予想していなかったであろう、全く前例のない学校生活の内容が明らかになった。
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