僕、魔女になります‼︎

くりす

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第8章〜パーティ決定〜

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 月兎先生と稲葉先生の引率のもと僕と姉さんは学長室の前までやってきた。
 月兎先生が慣れた手つきで学長室のドアをノックをする。
 「学園長?紲名玲及び紲名明日花両名を連れてきました。」
 「入りな。」
 中から学園長らしき人物の声が返ってきた。
 「「「「失礼します。」」」」
 月兎先生を先頭にして僕ら4名は学長室へ入る。
 学長室へ入ると高価な絨毯が敷かれており、値段も聴きたくないような高級感のある絵画や調度品がバランスよく配置されているのが目にとまる。
 そんな部屋の主が僕らに声をかけてくる。
 「わざわざ、呼び出したりして面倒をかけたね。」
 僕と姉さんは声の主へと視線が移す。
 声の主はもちろん、この学園長である。
 その容姿は薄く茶色がかった肩に届くくらいの長さで切り揃えられている黒髪に、見る人の本質を瞬時に見抜きそうな鋭い目付きをした貫録を感じさせる雰囲気のある女性である。服装は月兎先生や稲葉先生が着用している教師用の服装のズボンタイプを更に金の装飾等でランクアップさせた感じである。
 ただ、この学園長の1番の異常性は世界大戦を終戦させた人物の一人のため実年齢は80を超えるはずだが、その見た目はどう見ても30代後半にしか見えない。
 そのため、見た目と雰囲気がイマイチ噛み合っていない感じである。
 確かに『魔法使い』の多くはその保有している魔素が多い影響で、成人してからの老化スピードが一般人より遅くなり長命になる傾向がある(魔物や犯罪者等の戦闘による戦死は除く)のは有名だが、この人場合にはそれが常軌を逸している。
 そんな学園長が稲葉先生に用事を告げる。
 「稲葉先生、来てもらって早々で申し訳ないないが昨日話した通り、例のペアも読んできてもらえるかい?」
 「了解しました。それでは、一旦失礼致します。」
 そう返事をした後、稲葉先生は部屋から出て行った。
 それを見送った僕は僕と姉さんがここに呼ばれた理由を学園長に尋ねる。
 「一体何の要件で僕と姉さんを読んだの?」
 「ここで学生生活をしている間は、祖母ではなく学園長として接するように言ってたと思うんだがね?」
 そう学園長こと紲名桐葉(きずな きりは)は僕と姉さんの母方の祖母(父さんは婿養子なので僕らと祖母は同じ苗字になっている)である。ちなみに、母さんと比較すると親子ではなく姉妹にしか見えない。
 ちなみに、学園長の魔法属性は『土』であり、その強さと功績から『大地の母』と呼ばれている。瑞樹さんが僕と姉さんの魔法属性を『結晶』と『砂』と考えたのも納得できるものだ。
 そんな学園長からに指摘されたため、僕は改めて学園長に質問する。
 「失礼しました。それで僕と姉さんは一体どのような理由で呼び出されたのでしょうか?」
 「その件については、稲葉先生が戻ったら説明するよ。今説明しても2度手間になるだろうしね。それより先に、ちょっと確認しておくけど、玲が男という事実はバレないように気をつけてるんだろうね?」
 「それについては、バレないよう努力していくつもりです。」
 僕は学園長の確認にされた事柄に素直に返答した。
 「それは上々。知ってるとは思うが、世間での魔女や魔法への関心は決して小さくはない。この学園は魔女の育成校の中でも有名だからメディアに注目されやすい。もし、アンタが男だとバレたらいくら私でも庇いきれだろうね。まぁ、可能な限りはフォローしてやるつもりだ。アンタたち2人の魔女としての才能は興味深いし、特に明日花の魔法属性『想像』は他の魔女と比較しても圧倒的な才能だろうしね。」
 そう、学園長の言うように僕の姉さんこと紲名明日花の魔法属性は『想像』、つまり自身がイメージしたものを全て魔法として創造することができる。
 もちろん、魔素量と術式に問題がないことが前提であるが、流石はルアと共にこの新しい世界を創り出した張本人なだけあってチートに近い魔法属性である。
 ただ、欠点もいくつかある。
 まず、現状の姉さんの実力だと創造することしかできない、要するに法術での改変をすることができないので魔術しか使うことができない。
 また、ありとあらゆる魔術が姉さんの選択肢になる都合上、咄嗟に最善の選択をすることが難しいという点である。その一瞬が命取りになることもあるかもしれない。
 (ーーまぁ、それらの欠点を踏まえても充分チートな気はするけどね…。)
 そのような理由で学園長は僕と姉さんがこの魔法学校に入学(仮)することを許可したのだろう。そうでなければ、僕を魔法学校に入れるメリットが考え難い。バレた時のデメリットの方が大きそうだし…。
 ちなみに、姉さんだけなら他の人とペアで入学させる方法も有効だろうが、姉さんが全力で拒否した。僕以外とペアを組んでまで、『魔女』を目指す気はないらしい。弟名利に尽きるものだ。
 そんなことをしているうちに僕らがいる学長室に新たな来訪者が来たことを告げるノックの音がする。
 「学園長、例のペアを連れて来ました。」
 「ああ、入りな。」
 「「「失礼します。」」」
 学園長の許可を得て稲葉先生は件の生徒2人を連れて入室してくる。
 僕と姉さんは入ってきた2人の生徒に視線を移す。
 片方は精巧な人形のような可愛さと美しさを兼ね備えた人物で、背丈は160弱くらいで比較的にスレンダーな体型である。髪の方はセミロングのシルバーブロンドで、意思の強さを感じさせるサファイアブルーの瞳をしている。
 もう一方はと言うと、身長は170程度だろうか、こちらは姉さんより出る所がしっかりと自己主張しており、眼を奪われような存在感を放っている。そして軽やかに纏まった煌びやかな金色の長髪に、優しさを感じさせるエメラルドグリーンの瞳をしており、面倒見が良く、品のあるお姉さんのような容姿である。
 ちなみに2人とも制服はスカートタイプである。
 「紹介してやるよ。桐崎咲夜(きりさき さくや)と結月朱莉(ゆづき あかり)だ。それで、こっちの2人はアタシの孫で双子の紲名明日花と紲名玲だ。同じ講義を受けてるんだから面識はあるかもね。」
 学園長の紹介を聴き、紹介された僕ら4人は顔を見合わせる。
 (ーー正直、まだクラスメイトの名前なんて清水さんと瑞樹さんぐらいしか把握してない…。向こうは今日の仮想戦闘でこっちの名前ぐらいなら知ってるとは思うけど…。そんなことより今、僕が聴きたいことは…。)
 「それで学園長は僕たち4人に何の用なんですか?」
 僕は僕ら4人が呼び出された用件を学園長に尋ねた。
 (ーー何となく予想はついてしまうけど…。)
 「ああ、結論から言うと、アンタたち4人でパーティを組んでもらおうと思ってね。」
 「理由を聴かせていただけますか?」
 「特に理由はないよ。ただ、アンタたちがパーティーを組めば面白そうだと思ったからかね。ちなみに、根拠は女のカンと言うやつだね。」
 要するに、ただの思い付きということだろう。流石は、4人1組のパーティ制という新制度を実行した張本人なだけはある。思い付いたら即行動に移すタイプなのだろう。しかも、タチが悪いことに大抵のことは実現できる力もある。
 「お互いのことも良く知らないのにパーティを組めというのは、いくら学園長でも強引過ぎるでしょう?」
 僕はそのように学園長に意見した。実際、相手のことが分からないのにパーティを組みたいとは誰も思わないだろう。
 それに対して学園長は不敵な笑みを浮かべると言い返す。
 「別に強制するつもりはないが、お互いのことを良く知らないのにパーティを組まないと決めるのも相手に失礼になるだろう?」
 「うぐっ、だったらどうするんですか?」
 「簡単だよ。お互いを知ってから判断すれば良いのさ。」
 「…つまり?」
 「実際に戦ってから決めようということだね。桐崎も結月もそれでいいだろう?」
 学園長が桐崎さんと結月さんに尋ねた。
 「私は学園長の指示なら従います。」
 「私も咲夜ちゃんが良いなら異論はありません。」
 この2人の意見を聴いた学園長は僕に視線を移す。
 「ということだが、異論はあるかい?」
 「そういうことでしたら、わかりました。ただ、1つ聴きたいことがあるのですが…。」
 「何だい?言ってみな。」
 学園長からの許可を得て僕はさっきから気になっていたことを質問する。
 「桐崎さんってもしかして、あの桐崎千華(きりさき ちか)の娘さんですか?」
 桐崎千華とは『剣の巫(つるぎのかんなぎ)』と呼ばれている世間的にも有名な非常に『強い魔女』である。この世界の僕は何度かテレビ等のメディアで見かけた記憶があった。
 そのため、僕は桐崎さんを見た時に何処と無く桐崎さんと桐崎千華が似ているように感じた。
 当の桐崎さんは急に話題にされて驚いたのか、体が少し強張ったように見える。
 「ああ、そうだよ。千華とは知り合いでね、ちょっと色んな事情があって、うちの学園に入学することになったのさ。ちなみに、結月は桐崎の幼馴染らしいよ。」
 「なるほど。」
 「質問は以上かい?だったら、仮想訓練棟に行こうじゃないか。私もアンタたちの戦いがどうなるか気になるし、立ちあってやるよ。」
 そういった学園長の発言により、この部屋に居る全員で仮想訓練棟に向かうことになった。

 仮想訓練棟に着いた僕ら7名は、特に何かを話すことなく技術職員の指示の下、僕と姉さん、それに桐崎・結月ペアはそれぞれ『揺り籠』に案内される。
 そして、僕と姉さんにとっては本日2度目の仮想世界である。
 仮想世界へのダイブ前の説明だと、今回の仮想戦闘は清水さんたちと闘ったのと同じルール、同じフィールドである。
 ただ1つ、違うのは闘う相手だけである。
 「両ペア、準備はいいかい?」
 仮想世界にダイブを終えた僕たちに学園長が声をかけた。
 僕ら4人は各々問題がないと返事をする。
 それを聴いた学園長は戦闘開始の合図を出す。
 「それじゃあ、戦闘開始!」
 こうして、僕と姉さんペアと桐崎・結月ペアとの戦闘が始まった。

 開始の合図と同時に僕と姉さんは『身体活性化』を用いて、身体能力や動体視力、反射神経を強化して相手の出方を伺う。
 それに対して、桐崎・結月ペアも行動を起こす。
 「えっ?」
 それは僕の声なのか、それとも姉さんの声なのか、或いは2人の声なのかは分からない。ただ、それが気にならない程の出来事を僕と姉さんは目撃している。
 その原因は桐崎さんにある。
 そもそも、空気中の魔素は濃度が低いため普通の手段では目視することが出来ない。
 ただし、魔力制御等で魔素の濃度が高い状態を作り出すと、その魔素の濃度に応じて薄い水色から濃い青色へと色が変わっていく。
 だが、桐崎さんが纏っているオーラは白に近い銀色だったのだ。
 さらに、桐崎さんのオーラは実際に視認できているにも関わらず、僕の『魔力感知』でも一切感知することができないのである。要するに、彼女のオーラは純粋な魔力ではない、何か特異なエネルギーということになる。
 そんな今まで見たことも聞いたこともない現象に僕も姉さんも驚きを隠せていない。
 一方で桐崎はその隙を咎めるかのように、一気に加速して僕らに向かって距離を詰めて来る。
 その行動を見て僕は姉さんを庇うような形で桐崎さんを迎え撃つ。
 しかし、桐崎さんは僕との距離が5メートルを切ると同時に、僕から見て左へ軽く跳躍する。
 すると、僕の視界に魔法を展開させた結月さんの姿が映る。意識を桐崎さんに集中させ過ぎいた所為で、僕は結月さんが魔法を使ったことに気付くのに遅れてしまう。
 そして魔法が発動した次の瞬間には、結月さんが僕の目の前に移動していた。
 (ーー瞬間移動?いや、違う!)
 結月さんの長い髪が尾を引くように動いていたことから、瞬間移動ではなく高速で距離を縮めてきたのが分かる。
 「はぁ!」
 僕の目の前まで移動してきた結月さんは小さく息を吐きながら、高速移動してきた勢いを乗せた右腕で僕に向けて振り抜いてくる。
 「くっ!」
 『身体活性化』で反射神経を強化していたおかげで僕は何とかこの結月さんの攻撃を左へステップすることで躱すことができた。
 しかし、それは躱すことができたのではなく結月さんによって誘導されたと思い知ることになる。
 「!?」
 何故なら、僕が回避した先には既に桐崎さんが回り込んで来ていた。
 『魔力感知』で桐崎さんを感知できなかった為、僕は無防備に近い状態で桐崎さんの接近を許してしまった。
 だが、僕の後ろで状況を把握していた姉さんが魔法で迅速にフォローをしてくれる。
 「フレイムバレット!」
 僕を巻き込まないように圧縮された炎の弾丸が桐崎さんに襲い掛かる。
 しかし、姉さんによって放たれた炎の弾丸は桐崎さんに当たる直前、彼女の纏っているオーラに触れた途端にその姿が跡形も残らず霧散した。
 (ーーえっ?何が起きた?)
 目の前の現象に理解することが出来ずに桐崎さんが接近して来た勢いで僕を押し倒す。
 そして僕は桐崎さんと衝突した瞬間に、その衝撃とは別の違和感を感じる。
 (ーーなんだ?この違和感?)
 僕がそんなこと感じている一方で、桐崎さんは衝突した勢いで馬乗り状態に持ち込み僕の動きを封じた後、僕に攻撃するために右腕を大きく引いた同時に、目の前の出来事に驚き動きを止めた。
 「えっ…?なんで男の人がいるんですか?」
 その言葉を聞いて、僕は自分の現状と先程感じた違和感の正体に気付いた。
 (ーー嘘だろ!?変身の魔法が解除されてる!)
 何故かは分からないが、僕に掛かっていた変身魔法がその効力を失っために僕の姿が男に戻っていたのである。
 もちろん、体当たり程度の衝撃で変身魔法が解除される訳がない。そんな柔な変身強度で学園長が入学を許可するはずがない。
 だからこそ、この現状を理解出来ず混乱しているのである。
 
 (ーーどうしてこうなった?)

 こうして、長い回想を経て冒頭の状況に至ることになる。

 その時の僕に気付く余裕はなかったが、姉さんや結月さんも僕が男の姿になっていることに驚き、動きが止まっていたらしい。
 そんな混乱の中にいた僕たち4人に突然、声が聞こえてくる。
 「そこまで。両ペア、戦闘を終了とする。」
 声の主はこの戦闘を企画し立会いを務めていた学園長であった。

 学園長の発した終了の合図の後、僕ら4人の意識は仮想世界から現実世界に戻される。
 その後、僕ら4人は技術職員に案内され学園長や月兎先生、稲葉先生と合流する。
 ちなみに、今の僕の姿は魔法のおかげで女性のままであった。仮想世界で変身魔法が解除されても、現実世界では解除されていなかった。
 学園長たちと合流した後、詳しく説明すると学園長に言われた為に、僕たちは学長室に戻ることになる。

 学長室に戻った後、学園長が口を開く。
 「さてと、こうなることは予想はしていたが、どっちから説明しようかね。」
 どうやら、学園長はこうなることを見越して僕たちに闘わせた確信犯のようだ。僕たちは黙って学園長の説明に耳を傾ける。
 「そうさね。まず、玲の方から説明しようか。私の孫である玲はさっき見た通り、本来は男なのさ。それも今迄の人類にはいなかった魔法が使える男という、かなり珍しい、ね。そして、その魔法属性が都合の良いことに『変化』だったから、余計な混乱を生まない為に、必要な人にだけ事情を説明して、玲には女に変身したまま、学校生活を送ってもらっていたんだよ。もちろん、月兎先生も稲葉先生も事情は把握しているよ。後、一応言っておくが明日花は正真正銘の女だよ。」
 この説明を受けて、桐崎さんと結月さんは僕に視線を移す。
 正直、かなり居心地が悪い。
 悪気はないけど、人を騙していたわけだし…。
 そんな僕の気持ちに気付いたのかは分からないが、学園長が説明を続ける。
 「さて、次は桐崎について説明しようか。彼女は俗に言う『特異体質』の1つなんだよ。詳しく言うとだね…。」
 どうやら、学園長の説明を聴くところによると桐崎さんは体内にある自身の魔素を一定以上の魔素濃度で放出すると、放出された魔素が桐崎さんの魔法属性の影響を本人の意志に関係なく影響を受けてしまう。
 つまり、彼女が『身体活性化』等で体に魔素を放出すると自動的に魔法属性の影響を受けてしまい、本来の身体能力の強化等を行うことができないらしい。そのため、『身体活性化』は体内に魔素を留めて行う必要がある。
 ちなみにだが、この桐崎さんの体質は『異能型』に属すことになり、人数は少ないが他にもこのような体質の人は存在しているらしい。
 そして、肝心の桐崎さんの魔法属性だが、『魔法無効化』と言う属性である。これは言葉通り魔法属性の影響を受けた魔素に魔法が接触すると、その魔法のなんらかの干渉して無効化することができる。ただ、魔法を無効化している仕組みが正確に把握できておらず仮の名称として『魔法無効化』と学園長が命名したらしい。
 また、魔法属性の恩恵の影響なのか、魔素を纏うことで『魔力感知』でも感知されなくなる。そのため先の戦闘で桐崎さんを感知できなかった上、姉さんの魔術も打ち消されたわけである。
 しかし、魔法属性のデメリットとして桐崎さん自身は『魔力感知』どころか『魔弾』、『魔力障壁』を使うことができないのである。
 (ーー要するに、桐崎さんは魔法自体には大きなアドバンテージを持てるけど、体外での『身体活性化』もできない所為で純粋な近距離戦だと不利になるから、対魔法使いの1対1だと初見殺しじゃないと勝ち目がない感じかな。)
 ちなみに学園長が言うには今回僕たちに闘わせた理由として、万が一に何も知らずに他の生徒たちの目の前で僕と桐崎さんが接触することで、僕の正体がバレる可能性があるため、事前に僕らにお互いのことを知ってもらおうという考えもあるらしい。
 
 「それじゃあ、ついでに残った2人の明日花と結月の魔法属性についても説明しておこうか。」
 姉さんは以前説明したように『想像』なので、ここでの説明は省略させてもらう。
 そして、残った結月さんの魔法属性だが学園長の説明によると『増幅』らしい。
 先の戦闘では通常の『身体活性化』に加えて、この『増幅』の魔法で瞬間的に地面を蹴った際の移動に使うエネルギーを増幅させることで高速移動を可能にしたという。
 他にも、事前に腕に魔法を展開しておくことで、腕で殴った時の相手に与えるダメージを増やすこともできるらしい。
 また、瞬間的な強化だけでなく一定時間の間、身体能力を増幅させることもできるとのこと。ただし、同じ魔力量による身体能力の増加量は瞬間的ものと比較すると当然だが効果時間が長い分、効果は薄くなるらしい。
 ここまで聞くと使い勝手が良さそうな魔法に聞こえるが、この世界では実はそうとも言えない。
 これは他の身体強化系の魔法の多くに言えることだが、自分以外から強化系の魔法を掛けてもらうと、どれくらい強化されたのか把握しきれずに体を思う通りにコントロールできなくなる可能性がある。これは、戦闘という精密な動きが重要な時においては致命的な隙を生みかねない。
 そのため、結月さんの『増幅』という魔法で身体能力を強化して充分な効果を発揮できるのは結月さん本人だけとなる。
 もちろん、相手に与えるダメージを増幅させる魔法は他の人に使っても効果を発揮しやすいので決してパーティに貢献できない訳ではない。
  
 「まぁ、お互いの情報についてはこんなもんだろう。」
 僕ら4人の説明を終えた学園長は僕ら4人を学長室に呼び出した本題を再度聴いてきた。
 「それじゃあ、お互いのことが良く分かった上でパーティを組むのか聴かせてもらおうか?」
 その学園長の発言を受けて僕ら4人は顔を見合わせる。
 (ーー僕の事情を知っている人たちとパーティを組めるのは、僕からするとかなりありがたいことに違いはないけど…。)
 そんなことを考えながら僕が姉さんへ視線を向けると、姉さんもパーティを組むことに今のところ異論はなさそうな雰囲気である。
 一方で桐崎さんと結月さんのペアはと言うと、結月さんは特に異議を唱えそうではないので問題はなさそうだが、桐崎さんが何か言いたそうな表情をしている。
 そんな桐崎さんの様子に気付いたのか学園長が声をかける。
 「おや?桐崎は何か言いたいことでもあるのかい?」
 声をかけられた桐崎さんは少し考えるように右手を顎に添えた後、意を決したかのように言葉を発する。
 「私としては、男性である紲名玲さんとパーティを組むのは正直不安があります。まだ、彼のことを信用できていませんし、そもそも私には彼らとパーティを組むメリットを感じれません。」
 (ーーやっぱり。急に信用はしてくれないよね。別に何らかの悪意があった訳ではないとは言え、騙していたのは事実だし。それでも、当の本人を目の前にして、ここまで言うとは、流石に予想外だ。)
 桐崎さんの発言を受けて、僕はどうしたものか考える。別に彼女たちが望んでもいないのに無理矢理パーティを組もうとは考えてはいない。
 ただ、僕の横で姉さんが桐崎さんの言葉の所為で内心穏やかではなさそうである。今のところは表面上には出さないように努めているのだろうが、これ以上桐崎さんが何か言うとその内容次第では話が更に拗れそうである。
 そうならないためにも、何を言うべきか考えていると思わぬ方向から救い手が差し出される。
 「でも、私は紲名さんたちの実力は他の人たちよりも高い筈だし、実力の高いペアとパーティを組んだ方が私たちが強くなるのを期待できるんじゃない?少しでも早く『魔女』を目指すなら決して悪い話ではないと私は思うんだけど、咲夜ちゃん?」
 「えっ?」
 桐崎さんもまさかパートナーである結月さんから意見を言われるとは予想外だったのか驚いた表情を向ける。たしかに、今迄の結月さんを見ていると桐崎さんの意志を尊重しているように感じていた。
 そんな驚いている桐崎さんに学園長が逃げ道を更に塞ぐ。
 「それにアンタ自身の魔法属性で他のペアがパーティを組みたがると思うのかい?アンタの魔法属性についてはアンタ自身が一番理解してるんだろう?」
 「うっ、それは確かにそうですけど…。」
 学園長の言ったことは、本人も自覚があるのか強く言い返せないでいる。
 実際、話を聴いた限りでは今の桐崎さんの魔法属性と言うより戦闘スタイルは『魔法無効化』のオーラを纏って『身体活性化』で体内から身体能力を引き上げてからの近接戦闘しかできないので、サポートのある集団戦でもない限りは、殆どの魔法使いなら対処しようと思えば対処できるだろう。
 それを指摘された桐崎さんは結月さんや学園長の言ったことに納得したのか小さな溜息を吐くと口を開く。
 「わかりました。私はもうパーティを組むことに異論はありません。ですから、紲名さんたちが良ければパーティを組みたいと思います。」
 「と、言うことらしいがアンタたち2人はどう思ってる?」
 学園長は桐崎さんの説得を終えると今度は僕たちにも意見を聴いてきた。
 これに対して、姉さんが先に答える。
 「私自身は玲が良ければ、特に異議を言うつもりはないけど、強いて言うならパーティを組む以上は桐崎さんにはちゃんと玲のことを認めてもらいたいんだけど?」
 姉さんはどうやら先程の桐崎さんの発言を根に持っている様子。
 (ーーこのままにしておくと話が拗れて、場合によってはパーティの件も有耶無耶になりそう気がする。)
 そう考えた僕は面倒なことになるのを嫌って桐崎さんが何か言う前に発言する。
 「姉さん、僕は別に気にしないから。それにいきなり信用するのは流石に無茶だと思うよ。その辺はパーティとして組んでから時間をかけて信用してもらうしかないよ。」
 「むう。玲はパーティを組むのは不満はないの?」
 「僕は桐崎さんたちとパーティを組むのは特に不満はないよ。僕の事情を知ってくれてる方が、僕としては気が楽だし。」
 「はぁ。玲がそう言うなら私もそれでいいわ。」
 「ありがとう、姉さん。」
 僕の説得が功を奏して姉さんを宥めることができた。
 それを見ていた学園長が話を纏める。
 「それじゃあ、アンタたち4人はパーティを組むということで決定だね。月兎先生、稲葉先生、そう言うことだから処理の方を任せるよ。」
 「「了解しました。」」
 ずっと成り行きを見守っていた月兎先生と稲葉先生は返事をした後、学長室を出て行く。
 (ーー結局、学園長の思惑通りに話が進んだ気がするなぁ。)
 僕は先生たちが退室して行くのを見ながら、そう考えていた。
 そんな僕に結月さんが声をかけてくる。
 「そう言うことだから、これからよろしくね、紲名玲さん、紲名明日花さん。」
 結月さんはそう言いながら右手を差し出してきた。
 僕はそれに応えるために右手を出して、結月さんの手を握りながら言葉を出す。
 「こちらこそ、よろしく。」
 桐崎さんはそんな僕らの様子を険しい表情で見つめていた。
 (ーー中々、前途多難な予感がするけど…。まあ、なんとかなる信じよう。)

 こうして、僕と姉さんは桐崎咲夜と結月朱莉とパーティを組むことになった。
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