僕、魔女になります‼︎

くりす

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第10章〜僕が『魔女』を目指す理由〜

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 色々な事がありすぎた1回目の実戦試験の翌日の午前。
 僕と姉さんは学生寮にある自分たちの部屋で午後から予定している作戦会議の前に、僕と姉さんはお互いの考えや意見を擦り合わせる。
 「それで玲は咲夜ちゃんのことを知った上でどうしたいの?」
 そんな姉さんの質問を聴いた僕は、その質問に込められた意図を何となく理解しつつも確認のため姉さんに問う。
 「姉さん。それって、どういう意味なのかな?」
 「玲のことだから、予想は出来てると思うけど…。今回の試験で、もし私たちが課題を達成した上で、最優秀な成績を取った場合のリスクの話よ。」
 僕の問いに姉さんは真剣な表情で答える。
 姉さんの言いたいことは、要するに今回の試験で優秀な成績を取ることで他の生徒からの注目を集めることで、僕が男性であることがバレるリスクが上がる可能性があると言うことである。
 これは確かに重要な問題と言っていい。
 確かに今回の試験で優秀な成績を取ることによって、支給される賞品以外にも早期に『魔女』の資格を取得する機会は増えるかもしれないし、狙ってみる価値は充分にある。
 でも、この学園に在籍している生徒たちから注目される機会が増え、万が一にも僕の正体が明らかになってしまうと『魔女』を目指すどころではないだろう。
 これらの点を踏まえて、姉さんは僕に今回の試験にどのように臨むのかと聴いてきた訳でだ。
 それに対して、僕は自分の考えを言う前に姉さんの意向を聴いてみる。
 「姉さん的には、試験で最優秀賞を目指すのは反対なの?」
 そんな僕の質問に姉さんは即答する。
 「私は別に反対はしないわよ。私は玲の判断に合わせるわ。玲が目指してみたいのなら、私も全力を尽くすつもり。ただ、そのリスクについては確認しようと思っただけ。」
 姉さんは大きなリスクがあるのを承知で、それでも僕の意見を尊重してくれるようだ。
 「なんか意外。姉さんだったら反対すると思ってた…。」
 僕が率直な感想を述べると姉さんは当たり前のことを言うように応える。
 「私は常に玲のやりたいことを応援するわよ。だって…。」
 「だって?」
 「私がやりたいことは玲がやりたいことを支えることだもの!」
 (ーーこんなことを言ってくれると弟冥利に尽きるね。)
 そんな姉さんの考えを聴いて、僕はどうするのか決断する。
 「それじゃあ、昨日も言ったようにやれるだけやってみようか。」
 「了解。でも1つ確認していい?」
 「何かな?」
 「何を理由にして、その判断をしたのか教えてほしいの。」
 姉さんが僕の決断した理由を聴いてきた。
 それに対して、僕は自分の考えを少し整理した後、姉さんに僕の考えを伝える。
 「うーん、理由は大きく分けて2つあるんだけど…。先ず、試験を受ける前に月兎先生が全力でやるように言ってたから、多分だけど学園側からしても僕らが全力を出しても問題ないと判断してると思うというのが1つ目の理由だね。」
 「言われてみれば確かに。問題になると判断してるなら事前に忠告ぐらいして来るはずよね。」
 (ーー若しくは、僕たちが最優秀になることはないようになっているかだけど…。流石にそんなことはないと思いたい。)
 僕がそんなことを考えていると、姉さんが話の続きを促してくる。
 「それで?2つ目の理由何なの?」
 「うん、それはね…。」
 ちょっと緊張しながらも、僕は説明に姉さんした。それを聴いた姉さんは嬉しそうに笑みを浮かべると口を開く。
 「やっぱり…、玲は優しい子ね。」
 「……よし。ちょうどいい時間だし、そろそろ昼ご飯でも食べに行こうか。」
 姉さんの言葉に少しだけ気恥ずかしい感じがしたので、それを誤魔化すために本当はちょっと早いが昼ご飯の提案をした。
 「それもそうね。お昼にでもしましょうか。」
 僕の気持ちに気付いているのだろう姉さんは僕の提案に賛成してくれた。
 こうして、僕と姉さんは少し早めの昼ご飯に向かった。

 そして、その日の午後。
 明日にある2回目の実戦試験への対策会議を行うために、僕と姉さんは図書館の談話室に着いていた。
 事前に朱莉さんから連絡があった時間より15分程の余裕がある。
 そのため、僕と姉さんは桐崎さんと朱莉さんの到着を図書館に置いてある戦略や戦術についての本を目に付いたものを流し読みしながら待っている。
 しばらくすると、談話室の扉がガチャリと開く。音のした方を見てみると朱莉さんが1人だけで入室きた。
 「あれ?朱莉さん1人だけ?桐崎さんは一緒じゃないの?」
 僕は思ったことをそのまま朱莉さんに尋ねた。
 すると、朱莉さんは少し申し訳なさそうに苦笑いを浮かべながら僕の疑問に答えてくれる。
 「ごめんなさい、咲夜ちゃん、この話し合いに出たくないみたい。『デバイス』で連絡しても応答してくれないから今何処に居るのかもわからない状態なの。」
 どうやら、朱莉さんの説得は上手くいかなかったらしい。
 (ーーまぁ、昨日の今日でそう簡単に機嫌が戻ったりはしないか。よし、だったら…。)
 「それだったら、僕が桐崎さんを探して話してみるよ。姉さんと朱莉さんは2人で明日の試験対策を考えてよ。」
 その僕の意見に姉さんが反応を示す。
 「でも、大丈夫なの?」
 「何が?」
 「いや、だって玲と咲夜ちゃんが2人だけで話してるところを見たことないし…。」
 「うっ。まぁ、それは事実だけど。でも、僕が一番適任のはずだよ。だって…、今回の試験での桐崎さんのペアは僕なんだし。」
 姉さんに図星の指摘をされるが、僕は自分の考えを口にした。
 それを聴いた姉さんと朱莉さんは嬉しそうに笑みを浮かべながら僕に声をかけてくる。
 「それもそうね。それじゃあ、私たちは私たちの試験に集中することにするわね。」
 「玲ちゃん。咲夜ちゃんのこと宜しくお願いね。」
 「了解。」
 そんな2人の言葉に僕は短く応えると、図書館を後にする。

 (ーーさて、勢いで出てきたのは良いけど、桐崎さんは何処にいるんだろう…。)
 図書館を出て直ぐに僕は桐崎さんの行方について考えてみるが、全く見当がつかない。
 (ーー少なくとも、学園の敷地内のはず…。近いところから回っていくしかないかな。)
 そんなことを考えながら、取り敢えず辺りを見回していると僕の視界に学園内で一番大きい講義棟が映る。
 その瞬間、僕の脳内にバチっと軽く痺れるような感覚が走る。
 (ーーなんだろう、今の感覚は?講義棟の屋上に桐崎さんがいる気がする…。)
 ただ視界に入ったから何となくそう考えただけなのか、それとも女神であるルアの導きなのかはわからないが僕は桐崎さんがそこにいる気がした。
 (ーー他に行くアテもないし、高い場所から探せば見つかるかもしれないから、行くだけ行ってみよう。)
 僕はその感覚を信じて講義棟の屋上に向かった。

 僕が講義棟の屋上へと続く扉を開けると、そこには大きな青空の下、太陽に照らされている街並みの風景の中に溶け込むように僕が探していた人物である桐崎さんが街を見渡している。
 扉が開いた音に気付いたのか、こちら側に視線をゆっくりと向け、やがて僕と眼が合った。
 桐崎さんは少し驚いた表情をすると、僕に声をかける。
 「よく私がここに居るって分かりましたね。」
 「うん。まあ、何となく桐崎さんがここに居る気がしたから来てみただけなんだけどね。」
 (ーーでも、本当に居るとは…。何だったんだろう、さっきのアレは?)
 桐崎さんの疑問に僕は答えながらも、彼女がここに居た事実に内心では驚いていた。
 「つまり、偶々なんですね。」
 「まぁ、そうなるかな。」
 「そうですか。でも、来たのが貴方で良かったのかもしれません。」
 桐崎さんがちょっと意味深に聞こえることを言葉にする。
 「それって、どういうことかな?」
 「いえ、仮に朱莉が来た場合、何だかんだ説得されて図書館に連れて行かれる気がするので。」
 全く意味深な要素がなかった。
 「その朱莉さんと姉さんの2人は今頃、稲葉先生との試験に向けて作戦を考えてると思うよ。」
 そう僕が何気なく桐崎さんに2人の状況を説明すると桐崎さんは少し驚いた表情を見せた後、僕に詮索するようにジトッとした視線を向けながら尋ねてくる。
 「朱莉さん、ですか。私の知らない内に大分親しくなりましたね。」
 「いや、これは朱莉さんがもうパーティなんだからそう呼んで欲しいって言ってきたから下の名前で呼んでるだけだよ。」
 (ーー何故だろう。特に、僕に非があるわけでもないのに僕が何か悪いことした気分だ。)
 そんなことを考えながらも桐崎さんに理由を説明すると、彼女は多少は納得してくれたのか、少し考え込む仕草をした後、雰囲気が柔らかくなる。
 「なるほど。確かに朱莉ならそう言っても不思議ではないですね。すみません、勝手に変な解釈をするところでした。」
 「誤解されないで良かったよ。」
 「それにしても、朱莉は随分と貴方を信用していますね。」
 (ーー朱莉さんが僕を信用してる?まぁ、嫌われてはいないと思うけど、そこまで信用されてるのかな?)
 「そうなの?」
 特に心当たりがないので、僕は素直に疑問符を浮かべる。
 「そうですよ。そうじゃないと、知り合って1ヵ月も経ってない男性に私のことを勝手に話したりはしません。」
 (ーー思いっきり心当たりあったじゃん!)
 「えっと、それについては何と言えばいいのかなぁ。」
 「いえ、別に気にしてないので大丈夫です。ただ、どうして朱莉が貴方に話したのか不思議に感じただけですよ。」
 (ーー言われてみれば確かに気になる。どうして、朱莉さんは僕に桐崎さんのことを話したんだろう?)
 だが、ここで幾ら考えても答えは出ないだろう。
 桐崎さんも同じなのか、考えることを諦めたように短く息を吐くと桐崎さんの結論を述べる。
 「まぁ、考えても答えは出ないでしょうし、彼女にも彼女なりの考えがあったと思います。」
 「そうだね。ところで、朱莉さんからは他に何か話をしたの?」
 「ええ、その話も含めて昨日色々教えてくれました。明日花さんがどうして、あんな事を言ったのかも…。」
 そう言った桐崎さんは少しだけ申し訳なさそうな顔を浮かべる。
 「そっか。」
 「はい、ところで折角ですから、私についてもう少し話を聴いてもらってもいいですか?」
 桐崎さんが急に話題を変えてきた。
 それに僕はちょっとだけ驚きながらも、桐崎さんに応える。
 「うん。聴かせてくれるなら教えて貰えるかな。」
 僕の返事を聴いた桐崎さんは嬉しそうに薄く笑みを浮かべると、口を開く。
 「ありがとうございます。では、早速ですが、私は貴方のことが最初に会った時から嫌いでした。」
 (ーーえっ?)
 張本人を目の前にしての嫌い宣言に僕は驚きを隠すことは不可能だった。
 そんな絶句している僕を気にすることなく、桐崎さんは言葉を続ける。
 「いえ、正確に言うなら妬んでました。理由は、私と貴方は同じ魔法使いの中でもイレギュラーな存在なのに、私が持っていないものを貴方が持っていたからです。」
 (ーーそれって、もしかしなくても…。)
 桐崎さんの言葉を聴いていく中で、僕は朱莉さんから聴いた言葉を思い出していた。
 「貴方も知っての通り、私はこの魔法属性のせいで、とても大切な母から価値がないと言われて、それからはロクに会話することもなくなりました。それでも、こんな私に学園長は『魔女』を目指すチャンスを与えてくれました。私はその機会をモノにして、再び母と仲良くなろうと誓いました。」
 桐崎さんは感情を押し込みながら、ゆっくりと言葉を紡いだ。
 僕は桐崎さんの言葉に耳を傾けることに集中する。
 「そんな時に貴方と出会い、私は貴方について知り、貴方が私と同じイレギュラーでありながら、私と違って家族に期待されながら仲睦まじい姿を見て、どうして私じゃないのかと貴方を妬んでしまいました。」
 桐崎さんはそこまで言い終えた後、静かに深呼吸をし、言葉を続ける。
 「でも、本当に私が嫌いなのは、貴方に非はないと分かっているにも関わらず、貴方を理不尽に嫌い、昨日に至っては貴方の都合も考えず、ただ自分のことだけ考えて発言してしまった自分自身です。」
 「その言い方だと姉さんの発言の意図が分かってるように聞こえるんだけど。」
 (ーー姉さんが僕の正体がバレるリスクの話をしていた時には、僕と姉さんの2人だけだったはず…。)
 「ああ、それについては朱莉の推測の受け売りです。私たちのパーティが最優秀な成績を取ることで貴方の秘密が明らかになってしまうリスクがあると明日花さんは判断してあのような発言をしたと思うと朱莉が言っていましたが、正解なんですか?」
 「うん。姉さんはそのリスクを先ず理解してもらいたかったらしいよ。」
 (ーーそれにしても、朱莉さんは姉さんの言葉の真意を理解してたんだな。)
 僕は朱莉さんの理解力の高さに驚きを感じながら、桐崎さんに応えた。
 すると桐崎さんは再度口を開く。
 「やっぱりそうでしたか。それなのに私は自分が少しでも早く『魔女』になることしか考えられず、パーティメンバーの事情を考えることが出来ていませんでした。他人のことを考えられない自分勝手な人が『魔女』になれるはずがありません。やはり、私に価値はないのかもしれませんね。」
 「そん…。」
 そんなことない、と僕は咄嗟に言いかけたが直ぐに言葉に出すのを辞めた。
 (ーー桐崎さんに期待している人がいない筈ない!実際、学園長も桐崎さんの力に可能性があると思ったから入学させた訳だし、それに朱莉さんは桐崎さんのことをちゃんと信頼しているのは、この1ヵ月弱で僕にだって分かる!でも、今桐崎さんにかける言葉はこれじゃない気がする…。今、僕が桐崎さんに言うべきことは…。)
 僕は自分の中で桐崎さんに言うべきことを考え、その言葉を口にする。
 「それだったら、桐崎さんに『魔女』になれる価値があると一緒に証明しよう!」
 僕は自分らしくないかなと思いながらも、普段より大きな声で桐崎さんに提案した。
 その提案に桐崎さんは驚きの色を浮かべながらも僕に尋ねてくる。
 「どういう事ですか?」
 「要するに明日の試験で最高の成績を取ろうってことだよ。そうすれば、桐崎さんが『魔女』になれる可能性があることを皆に証明できると思う。一応、作戦も考えてるよ。もちろん、桐崎さんの協力が必要不可欠だけどね。」
 (ーー今の桐崎さんに必要なのは、彼女自身が自分に自信を持てるようになることのはず!だったら、今回の試験はそのチャンスになる!)
 僕はそんなことを考えながらも桐崎さんに僕の案を説明した。
 それを聴いた桐崎さんはその蒼く輝いている瞳に薄っすらと涙を纏わせながら再度、今まで聴いたことのない大きな声で僕に尋ねてくる。
 「どうしてそこまでしてくれるんですか!?貴方にとってはメリットよりもデメリットが大きいはずです!私なんかにそこまでする理由は何ですか!?」
 (ーー僕がそこまでする理由か…。姉さんにも同じことを聴いてきたな。)
 だから僕は姉さんに言ったことをそのまま口にする。
 「そんなの、ただ単に僕が桐崎さんの願いの実現に協力したいと思ったからだよ。」
 (ーー実際、桐崎さんが『魔女』になれるかは、僕には分からない。けど、桐崎さんの『魔女』になりたいと願いは本当だと思う。)
 僕はこの時、ルアと別れる時に彼女が僕に言った言葉を思い出していた。
 ルアは僕が想うように未来を紡いで欲しい、と言った。
 (ーーそして今、僕は桐崎さんに『魔女』になって欲しいと思っている。)
 そんなことを考えながら、僕は再度口を開く。
 「桐崎さんの力になりたい。それだけじゃ理由として不足かな?」
 それを聴いた桐崎さんは少しの間ポカンとすると、今度は小さく笑いながら応える。
 「何ですか、その理由は。本当に貴方は変わった人ですね。」
 「確かに、僕は自分でも変わってると思うよ。何せ、魔法を使える世界で唯一の男なんだから。」
 僕がそんな風に桐崎さんの言葉を返すと、彼女は普段の表情の中にも何処吹っ切れた雰囲気で応える。
 「そう言えば、そうでしたね。分かりました。それでは、私の願いを実現するために協力をお願いしますね。」
 「了解。僕のできる限り力で桐崎さんの願いに協力するよ。」
 そんな僕の言葉を聴いた桐崎さんは僕の予想していなかった言葉を言い放つ。
 「はい、私たち4人が『魔女』になるという願いのために頑張りましょうね。」
 「えっ?」
 予想外の言葉に今度は僕がポカンとしてしまった。
 そんな僕の様子を見て、桐崎さんはイタズラに成功した子どものような笑顔で話しかけてくる。
 「私の願いは、私が『魔女』になることではなく、私たちのパーティ全員が『魔女』になることです。たった今、そう決めました。」
 (ーー確かに、桐崎さんの口から彼女の願いを聴いた訳ではないからね。仕方ないか。)
 その桐崎さんの言葉を聴いて、僕も覚悟を決める。
 「分かった。全員で『魔女』になれるように力を尽くすよ。」
 「約束ですよ。」
 桐崎さんはそう言うと、嬉しそうに笑顔を浮かべて、僕の方に右手を差し出して、握手を求めてくる。
 僕は彼女の手を握って、彼女の願いに協力することを自分に誓う。
 (ーーかなり難しい願いだけど、きっと実現できるはず!)

 こうして、僕が『魔女』を目指す理由が1つ増えることになった。
 
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