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一章 入学旅行一日目

1-16b 班ミーティング2

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 決勝バトルに出場する班は、課題4のバトル結果から、総得点が多い二つの班が選ばれる。課題には関係ないが、選ばれたチームはほぼ強制的に決勝バトルを披露しなければいけない。そういう決まりらしい。

 この決勝バトルは特に、毎年多くの観覧者で賑わう。新入生の中でも高ポイントを取得した精鋭が競うため、かなり見ごたえのあるバトルになるからだ。わざわざこの決勝バトルを見に遠方から来る人もいるぐらいで、そのため、バトル会場も競技場の中で最も大きいメインコートで行われる。観覧スペースには6万人ほどが収容可能で、毎年8割がた観客席が埋まってしまうと、『クク・アキ』の中でもチラリと紹介されていた。
 それらを思い出し、霧は渋面じゅうめんを作った。
 アデルが言うように、霧たち24班は多分、決勝戦に進むことになるだろう。それを思うと憂鬱ゆううつで、霧は溜息をつきながら愚痴ぐちをこぼした。

「あ~やだやだ。できるだけ目立たず入学旅行を楽しみたかったのに、決勝バトルまで進んでしまったら嫌でも目立ってしまう。ねえアデル、体調不良であたしだけ欠席でもいい?」

「駄目に決まってるでしょ。入学旅行は班行動が鉄則よ」

 アデルの即答に、霧がへなへなと背を丸める。それを見つめながら、トリフォンが口を開いた。

「まあまあ、今はとりあえず決勝バトルのことは考えず、目の前の課題4に集中しようではないか。のぉ、みんな」

「そうね。私たちの対戦相手は第17班。表現対象はこの6種類でしょ。各自1種類の対象物を選ぶことになるから、今のうちにどの対象物を担当するか、決めておきましょうよ」

 アデルはそう言って、先程テーブルの上に置いた一枚の紙を指し示た。
 それは新入生のために競技場が用意してくれた、課題用の説明案内リーフレットだ。新入生たちは皆、受付でこの説明案内リーフレットや競技場内の地図などをもらっている。速やかに課題に取り組めるように、という競技場側の配慮だ。
 その紙には、課題4における対象物のイメージが取りやすいように、写真のような画像が印刷されている。
 霧はバッグにしまいこんでいたその紙を取り出し、あらためて確認した。

(これ、写真……だよな? フルカラーだ。う~ん、この『クク・アキ』には、どんなカメラがあるんだろ。ハッ、待てよ、辞典魔法を応用したら、画像なんてカメラなくても撮れるんじゃない? 印刷技術、の方は、本がたくさんあるところを見ると、かなり進んでいるだろうし……さすがだ、『クク・アキ』……夢とはいえ素晴らしすぎる……)

 うなっている霧を横目で見たあと、アデルもまた、その写真入りの紙を見つめた。ツアーメイトの他の面々も、写真を見つめて考え込んでいる。
 そこに紹介されている対象物は、以下の6つ。

 頭頂が尖った個性的な帽子。
 水晶のような美しい石の塊。
 可愛いふわふわしたぬいぐるみ。
 実用的な椅子。
 優美な形の弦楽器。
 一辺が20㎝ほどの、黒い立方体。

 誰も何も言わないので、霧が最初に口を開いた。

「あたしは何でもいいよ。どれも面白そうだし、残ったのをもらう」

「さすが、余裕ね」

「えへへ、それほどでもぉ……」

「嫌味よ。には通じなかったかしら。あ、違った、珍獣、だったわよね」

「ははは、そう、珍獣」

「ひどいよアデル、キリのどこが珍獣なのさ。キリも自分をおとしめるような言い方はいけないよ。そんなに可愛いのに」

「『可愛い』の基準がおかしいリューエストは置いといて。だってさ、あたしが取った1万ポイントて、やっぱおかしいでしょ? あたし自身が一番、驚いてるよ。今までそんな点数、取ったことある人いる?」

「ないわ。でもこの世界は常に前に進んで更新を続けてるもの。何があっても不思議はない。見てなさい、キリ、私だって、そのうちもっと高得点、取ってやるんだから。負けないわよ」

「うふふ、アデルったら、負けず嫌いなんだから。本当はキリさんの表現に、心打たれたくせに。ねえ、キリさん、わたくしは点数関係なく、バトルで披露されたあなたの表現がとても好きですわ。美しさの中に、うれいが秘められていて……切なくて、心が震えましたの。この後またキリさんの表現に触れられると思うと、とても楽しみですわ」

 リリエンヌはそう言って、ふんわり笑った。光を集めたかのような美しい蜂蜜色の巻き毛が風に揺れ、宝石のようなエメラルドグリーンの瞳がキラキラと輝く。
 霧はこんなに美しい少女にたたえられたことに動揺して、泡を吹いて倒れそうになってきた。

「そそそ、そんな、リ、リ、リ、リリエンヌさん、あたあたあたたたしなんか、そんな大した奴でなくてですね、何かの間違いで生まれてきたようなそんなあたしに、さささささ、さん付けいらないので、キリ、って呼んで下さいまし、そうして下さいまし、ぜぜぜ、是非!」

「まあ、嬉しいですわ、キリ。とても光栄です。どうかわたしくのことも、リリーって呼んで下さいませ」

「ちょっとリリー、キリを甘やかしちゃダメ! 『何かの間違いで生まれてきた』なんて言うような卑屈ひくつダリアには、厳しくいかないと! いい、キリ、あなたは誇り高いダリアの一族! 生まれただけで宝なのよ! きもめいじなさい!」

「うんうん、よく言った、アデル! 生まれただけで宝、同感だね! でも、僕はキリに厳しくなんて、しないよ。リリーちゃんと一緒にキリを甘やかすからね! 『間違いで生まれてきた』なんて二度と言わないで済むように、ベロベロのデロンデロンの激甘作戦で行くよ。ほら、あ~ん、キリ、ナッツ入りのチョコレートだよぉ、甘いよぉ~」

 そう言って差し出したチョコレートを、リューエストはポロリとテーブルの上に落とした。

「ど、ど、どどどど、どうしたの、キリ! お腹、痛いの?! 食べ過ぎた?!」

 霧は、ボロボロと涙を流し、静かに泣いていた。

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