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予感①

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チュンチュン


 鳥の囀りが聞こえてきて、嫌でも起きなければいけない時間になったのだと悟る。
 ふ、と瞼を開くと、窓から少し薄暗い空が見えた。生憎今日は、天気が悪いようだ。そんな中健気に鳴く鳥達は素晴らしいと、寝ぼけた頭で考える。
 ふと、昨夜の電話で抱いた疑念を思い出した。
僕が呼び出された事を知っているのは、髙野先生とクラスメイト、職員室に居た人達。そして、副会長。

「…さいあく」
 朝から何でこんなに気分が悪くならなきゃいけないんだろう。よりによって、副会長もだなんて…
 全部、僕がぼーっとしてたのが悪いんだけど。

「やめたやめた」
 嫌な考えを払拭するように頭を振りかぶった。
今、こんな事を考える暇はない。新歓に集中することが第一なんだから。
 其れに、何だか嫌な予感がするんだ。
是迄の新歓でも、いろんなトラブルはあった。けれど是迄とは違うような気がする。この学園全体に、大きな事が、説明するのが難しいけど、兎に角、とてつもなく、大きな闇が近づいている気がするんだ。

僕の気の所為だったら良いけれど_____



***




コンコンコン
 いつも通り、生徒会室に入る為にノックをする。
しかし、いつも聞こえてくるはずの返事が全く聞こえてこない。もう一度ノックをしても返事が返ってこなかったから、扉を開けて中に入ることにした。
するとどうだろう、いつもは皆揃っていて、秋人が一番最後に来るはずなのに、誰一人居ないではないか。
 その事を不思議に思いながらも、取り敢えず自分の席に座った。



_____十分が過ぎた頃だろうか。
他のメンバー達の話し声が聞こえてきた。

「まさか……、……………。」
「…………、が………」
「「……に…………な!」」
「……………」

 少ししか聞こえなかったが、内容からして、彼らの所属する族に関する事だと分かった。彼等の身に何かが起こった訳では無いという事に安堵し、同時に、一人取り残されていることを悲しく思った。
 少ししてから、控えめなノック音が聞こえる。そして、何気に初の、はーい、という返事をした。

「遅いよぉ」
 彼等が入って来てすぐ、僕は悪態をついた。いつも最後に来る僕が言えた事じゃないけど。
「ZERØ内で問題が起こりまして、其れを片付けていました。遅れてすみません。」
副会長に謝られると何か罪悪感が凄いな。
 因みに[ZERØ]とは、僕を除く生徒会役員と、学園内の生徒の三分の一が所属する族だ。教師の中にも所属している人が居るとか居ないとか。
「いーよいーよ」
「普段から遅い僕がぁ、言えたことじゃあないからねぇ」
 そんな僕の自虐ネタに反応する事なく、会長が新しく話題を提示した。酷い。
「其れにしても、まさかアイツが現れるとはな。」
「アイツ?」
誰のことだろうか?
「…美、來」
健ちゃんの言葉を聞いて、ドクン、と胸が鳴った。
「「そうそう美來だよ!!」」
「強くて」
「綺麗な」
「「あの美來!!」」

 [美來]は、僕が族潰しとして活動するときに使う名だ。ある時急に名前を聞かれて、流石に本名を名乗ることは出来ないから、咄嗟に口にしたのが"ミライ"だった。ミライに誰かが漢字を当てて、気付いたら美來になっていた。
 ミライだなんて…僕には未来など無いのに。夢を見るのも大概にしろと、当時の自分に言いたい。
「…小鳥遊は、何か美来に関する情報を持っていませんか?」
「知らないよぉ?第一僕は~、どのグループにもぉ所属してないからねぇ」
 この学園には、会長達の所属する[ZERØ]の他に、風紀委員と学園の三分の一が所属する[VARIETY]というグループもある。この二つのグループで、族No.1を争っているらしい。風紀委員が風紀を乱してどうするんだと言いたいけれど、さっきも言った様に、僕はどのグループにも所属していないから、僕には関係無い。

「「そうだよれいれい」」
「しゅうちゃんは所属してないんだよ」
「どのグループにも」
「「だから~」」
「「僕等ZERØの仲間になったら良いじゃん!!」」
まさかのお誘い。
「そうだ秋人。俺達の仲間になれ!」
「秋人…………な、かま」
双子庶務だけじゃなく、会長も健ちゃんも、お誘いしてきた。
「ムリムリぃ、だって運動神経よくないも~ん」
 だけど、僕は仲間になる事は出来ない。族潰しだから、情報屋だからとか言う理由じゃなくて、単に、僕の演じているチャラ男の運動神経は、そこそこ良い位だからだ。僕は、喧嘩になると理性が消えかけるから、もし抗争とかが起こった場合、チャラ男の演技が出来るとは到底思えない。
「…ですが私達は、運動神経が良くないからと言って、貴方を追い出すようなことをしませんし、何より、ZERØには貴方以外の生徒会メンバーが所属しています。だから貴方に、形だけでも所属してほしいのです。私達生徒会は、貴方を仲間だと思っているから。」
 珍しく副会長が熱弁していて、形だけなら良いんじゃないかと思ってしまった。
「……副会長がそこまで言うならぁ、考えておくよ~」


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