花仕舞師

RISING SUN

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第二章──義(ただしさ)の誓い、過去の刑吏

20話

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 それは二年前まで遡る。清は大怪我にみまわれ床に伏せていた。数日間、意識を失っていたらしく記憶が曖昧になっていた。ただ母はるから聞いた言葉ともうひとつ朧気ながら信じられない光景だけは覚えている──。

 ──清よ……そなたが花仕舞師を継ぐのじゃ。静は禁忌を犯し、称号を剥がされ申した──

 しっかり思い出そうとすればするほど記憶の輪郭がぼやけ、闇に沈んでいく。
「あれは夢にござったのか……? われの目の前にて、誰かのために姉さまは壮麗なる舞を舞われた。これまで見たことなき舞……見惚れてしもうた……まるで、われまで清められるようで……されど……」
 清はなんとか絞り出せた靄のかかった記憶から導き出せたのは花仕舞師にとってあるまじき行為……。

 ──姉さまは舞を止めてしまった……それは花仕舞師にとって最大の禁忌……──

「姉さま……なぜ……」
 清はぼんやりと静のことを思っていた。あのすべてを完璧にこなし、史上最高と言われた静が清の前で禁忌を犯した。

 カタン──ズゥ……カタン、コトン、スッ……
 カタン──ズゥ……カタン、コトン、スッ……

道中下駄が不気味に響く。仄かに揺らめく灯籠の灯りが障子を映すと朧気な陰が浮かび上がる。それは一尺あまりの道中下駄を履き、頭には煌びやかな飾りを纏う影。
「誰でござるか?」
 声をかける。
「起きるでありんすよ……上段の間に……静さまがお待ちでありんす……」
 清ははっとする。
「!?──姉さま!?」
 声の方を向くげ影は消えていた。自由が効かない身体をなんとか起こす清。
「こ、これは……な、何……」
 清の胸元は晒し布が幾重にも巻かれている。清は焦りを押さえながらも晒し布をゆっくりとほどいていく。そして目にしたものは絶するような傷痕。身体の正面からみればほぼ胸元を覆いつくしている。乳房も膨らんでさえいるが女として大切な機能はなさないだろう。生々しく抉れたような傷。出血こそないが触ればきっと強烈な痛みが伴うはず……しかし……。

 ──痛みを覚えぬ……これほどまでに深手を負うたというに……何ゆえ……?──

 清はふらつきながらも立ち上がる。晒し布を無理やり巻き、着物を羽織よろめきながら部屋を出る。清は禁忌を犯した静のことが気がかりで各部屋を探し回る。
「姉さまは何処じゃ……? 何処におられるの……? そう言えばさきほど上段の間と……」
 その時、奥隅の灯りのつく部屋で罵り合う声が微かに聞こえる。徐々に声が甲高くなっていく。そして──

 バンッッ──バリバリッ、ドサッ──

 部屋の障子窓が勢いよく外れ晴が勢いよく転がるように飛び出してきた。
「やめなされませ、静っっ!! ……あああああっ……!!」
 それはなんとか必死に止めようとする姿。そして晴が転がり出てきた後を揺れるような人影が出てきた。手には血の滴る懐剣を持っている。その姿はまるで何かに取り憑かれた者のように……そう、姿は人だがそれは物の怪と呼ぶに相応しいほど。
「母上──!! 姉さま──!! 姉さま! 何を……何をなさるおつもりで……!!」
 思うように身体は動かないがそれでも二人に駆けようとする清。
「あぁ……清……た、助けてたもれ……」
 その声にすがるような声を出す晴。静も清を見る。凍てつくような目。
「なにゆえ目覚めた……いや、好都合よのう……」
 静は冷めた声を出すと晴の喉元に刃を当てた。そして二言、口にした。一言目は晴の耳元で晴だけに聞こえるように。
「余計なることを申されては厄介ゆえ……」
 そして、思い切り晴の喉笛を切り裂く。血飛沫が舞う。
「ひいぃぃぃ……」
 そして二言目は清にも聞こえるように……。
「なにゆえ、清に花仕舞師を継がせた……あのような未熟者に──!!」
 口をパクパクとさせ清に手を伸ばす晴。しかし喉を切られ声が出せない。なんとか這いずり清の元へ向かおうとする晴。しかし──
 無情にもその背後から跨がり静は刃を晴の背中に躊躇いもなく突き立てた。
 何かを伝えようとした晴の言葉は清に伝わることは……なかった。
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