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第二章──義(ただしさ)の誓い、過去の刑吏
21話
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「姉さま……! な、何をなさっておられるのです……!?」
ゆらりと立ち上がる静は清の方を向き、冷たい視線を投げた。
「ふふ……でき損ないの妹よ……そなたに、何が成せよう? まともに舞うことすら叶わぬ身が……この妾の称号を奪わんとは……片腹痛とうして、嗤えて仕方なきじゃ」
清は睨み返す。動かぬ身体は晴の亡骸にも寄り添うこともできず、静に立ち向かうこともできない。
「そ、それほどまでに……逆恨みでござりますか? されど、なにゆえ母上を……その手にかけるなど……」
笑いを噛み殺す静。笑っているようで、静の瞳は決して乱れていない。冷たく、ただ目的を貫く者の目だった。
「清よ、母上ばかりではないぞ。その奥にては、父上も既に息絶えておる。愚かなる顔で目を見開き、間抜けな様にて、転がっておるわ。……あっけないものよ、父の威厳とは一体何ぞや、と、嗤いたくもなろうというものよ」
どこまでも両親を罵倒する静。
「なっ……父上まで……手にかけられたと……!?」
静が放つ狂気が憎悪を絶えず膨らませ、震える清。
「たかだか一度の失態で称号を剥奪され、果ては花切ノ契まで結ばされると言う。かの至高の舞を披露せし妾に対してぞ!? わかるか、でき損ないの妹よ……この虚しさ、この恨みが──!」
「そのようなこと、わかりませぬっ! 仮に、納得できたとしても……あまりにも酷き仕打ちにござりますっ! なにも、そこまでなされずとも……!」
痛みのない胸に憎しみがさらに広がる。
「ふっ……そこまでと申すか……」
静は怒りを滲ませている。突き刺した刃を抜き取り、晴を足蹴にし、摺り足で清に近づく。ぬっと美しく顔を近づける。いつもの変わらぬ花のような香りが清の鼻腔に届く。血に染まり憧れの象徴だった香りが、この瞬間から憎しみの香りに変わる。
「赦しませぬ……! 花仕舞師の称号を剥がされ、一門を逐われしがゆえに、父母にまで刃を向けるなど……断じて赦されぬことにござりますっ! 姉さま……! われは生涯、そなたを赦さぬ! いずれ必ず……われの手で……えっ……!?」
清は自分の胸元を見た。静は清の胸に刃先を立てる。そしてその刃先が清の醜い傷跡にゆっくり、じわりと入り込んでくる。
「妾を舞いにて送るか……仕舞うか……この妾を──花徳護神ノ天上花仕舞師たる、この妾を、並み以下の舞しか舞えぬ者が、仕舞えると申すか……? 嗤わせるでないわ!」
「かならず超えてみせる……そして仕舞ってみせまする……姉さまの命、しかとわれが……!」
清は突き刺さっていく刃に屈することなく憎しみを滲ませる。口から血を吐き出し目を血ばらせる。
「成せぬことを、口にするでないわぁあああっ……!」
突き刺された刃は一気に押され……静の狂気の刃に清の身体は貫かれた。
清は憎しみの感情に包まれたまま、意識を失いかける。
──何ゆえ、そこまで……そこまでして花仕舞師の称号に執着なさる……? 父上を、母上を……さらにはこのわれまでも……手にかけてまで、そこまで大切なものか……この花仕舞師の名が、そこまで……! 赦せぬ……赦せぬ……断じて赦し申さぬ──!!──
バタンッ──
清は冷たい回廊に背中から倒れ込む。すでに静の姿を確認することはできなくなっている。ただ静の穢れた笑い声だけが鼓膜を響かせ、清に芽生えた憎悪の感情を叩き鳴らしていた。静の笑いが回廊を巡り満たし、その音の奥に、仕舞いではなく清と静、姉妹の悲哀の幕が開く響きがあった。
ゆらりと立ち上がる静は清の方を向き、冷たい視線を投げた。
「ふふ……でき損ないの妹よ……そなたに、何が成せよう? まともに舞うことすら叶わぬ身が……この妾の称号を奪わんとは……片腹痛とうして、嗤えて仕方なきじゃ」
清は睨み返す。動かぬ身体は晴の亡骸にも寄り添うこともできず、静に立ち向かうこともできない。
「そ、それほどまでに……逆恨みでござりますか? されど、なにゆえ母上を……その手にかけるなど……」
笑いを噛み殺す静。笑っているようで、静の瞳は決して乱れていない。冷たく、ただ目的を貫く者の目だった。
「清よ、母上ばかりではないぞ。その奥にては、父上も既に息絶えておる。愚かなる顔で目を見開き、間抜けな様にて、転がっておるわ。……あっけないものよ、父の威厳とは一体何ぞや、と、嗤いたくもなろうというものよ」
どこまでも両親を罵倒する静。
「なっ……父上まで……手にかけられたと……!?」
静が放つ狂気が憎悪を絶えず膨らませ、震える清。
「たかだか一度の失態で称号を剥奪され、果ては花切ノ契まで結ばされると言う。かの至高の舞を披露せし妾に対してぞ!? わかるか、でき損ないの妹よ……この虚しさ、この恨みが──!」
「そのようなこと、わかりませぬっ! 仮に、納得できたとしても……あまりにも酷き仕打ちにござりますっ! なにも、そこまでなされずとも……!」
痛みのない胸に憎しみがさらに広がる。
「ふっ……そこまでと申すか……」
静は怒りを滲ませている。突き刺した刃を抜き取り、晴を足蹴にし、摺り足で清に近づく。ぬっと美しく顔を近づける。いつもの変わらぬ花のような香りが清の鼻腔に届く。血に染まり憧れの象徴だった香りが、この瞬間から憎しみの香りに変わる。
「赦しませぬ……! 花仕舞師の称号を剥がされ、一門を逐われしがゆえに、父母にまで刃を向けるなど……断じて赦されぬことにござりますっ! 姉さま……! われは生涯、そなたを赦さぬ! いずれ必ず……われの手で……えっ……!?」
清は自分の胸元を見た。静は清の胸に刃先を立てる。そしてその刃先が清の醜い傷跡にゆっくり、じわりと入り込んでくる。
「妾を舞いにて送るか……仕舞うか……この妾を──花徳護神ノ天上花仕舞師たる、この妾を、並み以下の舞しか舞えぬ者が、仕舞えると申すか……? 嗤わせるでないわ!」
「かならず超えてみせる……そして仕舞ってみせまする……姉さまの命、しかとわれが……!」
清は突き刺さっていく刃に屈することなく憎しみを滲ませる。口から血を吐き出し目を血ばらせる。
「成せぬことを、口にするでないわぁあああっ……!」
突き刺された刃は一気に押され……静の狂気の刃に清の身体は貫かれた。
清は憎しみの感情に包まれたまま、意識を失いかける。
──何ゆえ、そこまで……そこまでして花仕舞師の称号に執着なさる……? 父上を、母上を……さらにはこのわれまでも……手にかけてまで、そこまで大切なものか……この花仕舞師の名が、そこまで……! 赦せぬ……赦せぬ……断じて赦し申さぬ──!!──
バタンッ──
清は冷たい回廊に背中から倒れ込む。すでに静の姿を確認することはできなくなっている。ただ静の穢れた笑い声だけが鼓膜を響かせ、清に芽生えた憎悪の感情を叩き鳴らしていた。静の笑いが回廊を巡り満たし、その音の奥に、仕舞いではなく清と静、姉妹の悲哀の幕が開く響きがあった。
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