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第二章──義(ただしさ)の誓い、過去の刑吏
22話
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静かに話終えた清は高揚な表情を浮かべていた。
「されど……その傷、お主の身に深々と残る刺し傷……まことに不思議。生きておることこそ奇怪なり。拙者、かつて罪人の首を刎ねし者にて候。心得ておる……その傷、常ならば命絶え果てておろう。なにゆえ、今なお生き長らえておるのじゃ?」
「根音、根子……こちらへ参れ」
おそるおそる二人は顔を出し、灰塊に頭を下げた。
「この者どものおかげにてございまする。姿かたちは幼き者なれど、花護人なる人ならぬ存在。手前が従える従者にてござります。花仕舞師たる手前の命、彼の者たちの不思議なる力にて、辛うじて繋ぎ止められておりまする。称号を授かっておりましたればこそ、姉さまに斬られしその時、直ちに姿を現し、命を繋ぎ留めてくれ申した。されど、癒しの力は持たぬようで……ただ命を保つのみ。ゆえに、彼の者らなければ、手前はもはや生きること叶いませぬ……」
清は微笑み、根音と根子の頭を撫でた。
「ありがとね……根音、根子」
二人は撫でられると根音は当たり前と言わんばかりの顔を見せ、根子は頬を赤らめ清の背後から抱きついた。
「さようなことが……しかし、かような傷を目の当たりにしては……信じるほかあるまいの……」
灰塊は偽りなき目をしたまま話す清の言葉を信じた。
「この命、ただ繋がれしにあらず……本懐を果たすために授かりしものと心得ておりまする」
「本懐……と申されるは、まさか……」
灰塊が控えたような声で尋ねる。
「左様……手前の姉、静を、手前が手にて仕舞うこと。それこそ、手前の本懐にてございまする。それが……『義』にございまする」
灰塊は黙って聞いている。
「その道においては、人も、鬼も、物の怪も無用。時の移ろいも、他の正義も関わりませぬ。手前が胸に定めし筋、己が想いに偽りなく在らば、それこそが『義』。たとえ物の怪、鬼と罵られようとも、手前は決してそれを曲げませぬ。これぞ、『義』にございます」
「……それこそが『義』、と申すか……」
灰塊は時に圧倒され、時に癒され清の言葉に飲み込まれていく。
「『義』とは……果たして不変なるものか……それとも、移ろうものか……」
しかし、灰塊は未だ、答えに迷う。
「灰塊殿とて、常にその時、その時の『義』に生きてこられた。今なお、それを通されておる。迷うことなど何もござりませぬ。信ずる道こそ、灰塊殿の『義』にございまする。手前は、そう信じておりまする」
「……それこそが……『義』……」
灰塊は削る石を眺めながらポツリと呟いた。
「ふふふ……おかしゅうござんすねぇ……『義』に身を委ねたつもりで、真面目な顔して語り尽くすお姿……ほんに滑稽。でき損ないのその言葉、義には非ず……それは『偏』でありんすよ。そもそも『義』とは全体を見て判断すべきもの。なのに、自分都合で歪めて、正しさも見失って、自分だけの正義に酔って……あれでよう語れますわ。ほんま、笑けてしまいんす……」
カタン──ズゥ……カタン、コトン、スッ……
カタン──ズゥ……カタン、コトン、スッ……
霧の中から忌まわしき道中下駄の外八文字の歩む音が聞こえ、その場が澱みはじめた……。
「されど……その傷、お主の身に深々と残る刺し傷……まことに不思議。生きておることこそ奇怪なり。拙者、かつて罪人の首を刎ねし者にて候。心得ておる……その傷、常ならば命絶え果てておろう。なにゆえ、今なお生き長らえておるのじゃ?」
「根音、根子……こちらへ参れ」
おそるおそる二人は顔を出し、灰塊に頭を下げた。
「この者どものおかげにてございまする。姿かたちは幼き者なれど、花護人なる人ならぬ存在。手前が従える従者にてござります。花仕舞師たる手前の命、彼の者たちの不思議なる力にて、辛うじて繋ぎ止められておりまする。称号を授かっておりましたればこそ、姉さまに斬られしその時、直ちに姿を現し、命を繋ぎ留めてくれ申した。されど、癒しの力は持たぬようで……ただ命を保つのみ。ゆえに、彼の者らなければ、手前はもはや生きること叶いませぬ……」
清は微笑み、根音と根子の頭を撫でた。
「ありがとね……根音、根子」
二人は撫でられると根音は当たり前と言わんばかりの顔を見せ、根子は頬を赤らめ清の背後から抱きついた。
「さようなことが……しかし、かような傷を目の当たりにしては……信じるほかあるまいの……」
灰塊は偽りなき目をしたまま話す清の言葉を信じた。
「この命、ただ繋がれしにあらず……本懐を果たすために授かりしものと心得ておりまする」
「本懐……と申されるは、まさか……」
灰塊が控えたような声で尋ねる。
「左様……手前の姉、静を、手前が手にて仕舞うこと。それこそ、手前の本懐にてございまする。それが……『義』にございまする」
灰塊は黙って聞いている。
「その道においては、人も、鬼も、物の怪も無用。時の移ろいも、他の正義も関わりませぬ。手前が胸に定めし筋、己が想いに偽りなく在らば、それこそが『義』。たとえ物の怪、鬼と罵られようとも、手前は決してそれを曲げませぬ。これぞ、『義』にございます」
「……それこそが『義』、と申すか……」
灰塊は時に圧倒され、時に癒され清の言葉に飲み込まれていく。
「『義』とは……果たして不変なるものか……それとも、移ろうものか……」
しかし、灰塊は未だ、答えに迷う。
「灰塊殿とて、常にその時、その時の『義』に生きてこられた。今なお、それを通されておる。迷うことなど何もござりませぬ。信ずる道こそ、灰塊殿の『義』にございまする。手前は、そう信じておりまする」
「……それこそが……『義』……」
灰塊は削る石を眺めながらポツリと呟いた。
「ふふふ……おかしゅうござんすねぇ……『義』に身を委ねたつもりで、真面目な顔して語り尽くすお姿……ほんに滑稽。でき損ないのその言葉、義には非ず……それは『偏』でありんすよ。そもそも『義』とは全体を見て判断すべきもの。なのに、自分都合で歪めて、正しさも見失って、自分だけの正義に酔って……あれでよう語れますわ。ほんま、笑けてしまいんす……」
カタン──ズゥ……カタン、コトン、スッ……
カタン──ズゥ……カタン、コトン、スッ……
霧の中から忌まわしき道中下駄の外八文字の歩む音が聞こえ、その場が澱みはじめた……。
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