花仕舞師

RISING SUN

文字の大きさ
27 / 159
第三章──礼(うやまい)の尊き僧侶、静かなる教え

27話

しおりを挟む
「うっすらと、朧げに感ずるは月影か……それもまた、満ち欠けを繰り返すものと見ゆる……」
 零闇れいあんは感じていた。つく杖は道を確かめるようで、それでいて力強い。進める歩は弱々しいが、それでいて迷いがない。この世に産声をあげた時から、光は失われていたが、そのお陰で耳は誰よりも響きを心に奏でる。

 カタン──ズゥ……カタン、コトン、スッ……
 カタン──ズゥ……カタン、コトン、スッ……

「このような夜更けに、珍しき足音を響かせるものよ……」
 目の前までその道中下駄を履き外八文字で歩く音が鼓膜を強く振動させ、ピタリと止まる。
「そなたの後ろに、なお影が見ゆるぞ……一つ、二つ、三つか? いや……足音は二つ……。奇なることよのう。さて、盲目なるこの手前に、何用あって参られしや?」
「さすがにてあらせられますな……いかに隠れようと、隠し通すは難きことでございましょう……。ただ、此処におるは妾と花化従のみ……」
 下駄を鳴らす花化従の背後の闇からそっと語りかけてくる。
「左様か……されど、なお一つ、影を感じ申す……。気のせいと申すには、あまりにも確か……されど足音は二つ……。これは手前の思い違いかの」
「音のみならず、伝わるものにてございますか……恐ろしき御方にてあらせられます……」
「そなたの胸、足音よりもなお深く、心の響きがざわめいておる……その悪意、手前に向けられしや? いや……違う……はっきりと他の誰ぞへ向けられておるのが視える……」
「左様にございますか……遅ればせながら、名を名乗りましょう。我は宿静やどりやしずと申す……花仕舞師を逐われし者にてございます……」
 零闇は奥に潜む者と会話をした。人外なるものは無用と言わんばかりに……長い黒髪を揺らめかす宿静と名乗る人物と対話した。
「さて……手前、零闇に何の用ぞ?」
「はい……そろそろ冥府への……お迎えの刻が参りましょうかと……。されば、零闇殿の死期、まさに近しにございます」
「ほう……それほどまでにお分かりか? いやはや、手前の知らぬこと、いまだ多きものよのう……」
 零闇は口元を綻ばせた。
「左様……これぞ花仕舞師のみの力にてございますれば……」
「然るか……時は無常よのう……。僧の身なれど、いまだ達観には至らずとも、仏の御許へ参らねばならぬとは……」
 夜風が淋しく零闇を包み込んでいた。左手の甲にはぼんやりと花紋様が赤く浮かび上がってくる。
「零闇殿を安らかに送らせていただきます……ただし、その前に一つ願いがござりまする……。今、我がめいを受けし者、零闇殿のもとへ向かうよう仕向けておりますゆえ……」
 静は願い事を零闇に話す。そして──欠けた月の輝きを覆い隠すような夜雲やぐもが広がっていった。

 数時間後──

 ──己が誇りを花に託し、奪われし輝き。 高き天を見上げし者に咲くは、傲慢の花──

「此にて花尽はなついえ──」
 舞い終え、背を向ける静。
「その舞で何を目指さる? 拙僧にはそなたの舞……行き着く先、漆黒の闇にしか見えぬが……」
わらわが望むは漆黒の闇、その先なり……覚悟なき者にては、仇花を舞うこと叶うべからず」
「左様か……」
 零闇にはその強き覚悟を受け止める他なかった。
「頼み申す……零闇殿……我が本懐のため、あの者、必ずや死すべし……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

処理中です...