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第三章──礼(うやまい)の尊き僧侶、静かなる教え
27話
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「うっすらと、朧げに感ずるは月影か……それもまた、満ち欠けを繰り返すものと見ゆる……」
零闇は感じていた。つく杖は道を確かめるようで、それでいて力強い。進める歩は弱々しいが、それでいて迷いがない。この世に産声をあげた時から、光は失われていたが、そのお陰で耳は誰よりも響きを心に奏でる。
カタン──ズゥ……カタン、コトン、スッ……
カタン──ズゥ……カタン、コトン、スッ……
「このような夜更けに、珍しき足音を響かせるものよ……」
目の前までその道中下駄を履き外八文字で歩く音が鼓膜を強く振動させ、ピタリと止まる。
「そなたの後ろに、なお影が見ゆるぞ……一つ、二つ、三つか? いや……足音は二つ……。奇なることよのう。さて、盲目なるこの手前に、何用あって参られしや?」
「さすがにてあらせられますな……いかに隠れようと、隠し通すは難きことでございましょう……。ただ、此処におるは妾と花化従のみ……」
下駄を鳴らす花化従の背後の闇からそっと語りかけてくる。
「左様か……されど、なお一つ、影を感じ申す……。気のせいと申すには、あまりにも確か……されど足音は二つ……。これは手前の思い違いかの」
「音のみならず、伝わるものにてございますか……恐ろしき御方にてあらせられます……」
「そなたの胸、足音よりもなお深く、心の響きがざわめいておる……その悪意、手前に向けられしや? いや……違う……はっきりと他の誰ぞへ向けられておるのが視える……」
「左様にございますか……遅ればせながら、名を名乗りましょう。我は宿静と申す……花仕舞師を逐われし者にてございます……」
零闇は奥に潜む者と会話をした。人外なるものは無用と言わんばかりに……長い黒髪を揺らめかす宿静と名乗る人物と対話した。
「さて……手前、零闇に何の用ぞ?」
「はい……そろそろ冥府への……お迎えの刻が参りましょうかと……。されば、零闇殿の死期、まさに近しにございます」
「ほう……それほどまでにお分かりか? いやはや、手前の知らぬこと、いまだ多きものよのう……」
零闇は口元を綻ばせた。
「左様……これぞ花仕舞師のみの力にてございますれば……」
「然るか……時は無常よのう……。僧の身なれど、いまだ達観には至らずとも、仏の御許へ参らねばならぬとは……」
夜風が淋しく零闇を包み込んでいた。左手の甲にはぼんやりと花紋様が赤く浮かび上がってくる。
「零闇殿を安らかに送らせていただきます……ただし、その前に一つ願いがござりまする……。今、我が命を受けし者、零闇殿のもとへ向かうよう仕向けておりますゆえ……」
静は願い事を零闇に話す。そして──欠けた月の輝きを覆い隠すような夜雲が広がっていった。
数時間後──
──己が誇りを花に託し、奪われし輝き。 高き天を見上げし者に咲くは、傲慢の花──
「此にて花尽──」
舞い終え、背を向ける静。
「その舞で何を目指さる? 拙僧にはそなたの舞……行き着く先、漆黒の闇にしか見えぬが……」
「妾が望むは漆黒の闇、その先なり……覚悟なき者にては、仇花を舞うこと叶うべからず」
「左様か……」
零闇にはその強き覚悟を受け止める他なかった。
「頼み申す……零闇殿……我が本懐のため、あの者、必ずや死すべし……」
零闇は感じていた。つく杖は道を確かめるようで、それでいて力強い。進める歩は弱々しいが、それでいて迷いがない。この世に産声をあげた時から、光は失われていたが、そのお陰で耳は誰よりも響きを心に奏でる。
カタン──ズゥ……カタン、コトン、スッ……
カタン──ズゥ……カタン、コトン、スッ……
「このような夜更けに、珍しき足音を響かせるものよ……」
目の前までその道中下駄を履き外八文字で歩く音が鼓膜を強く振動させ、ピタリと止まる。
「そなたの後ろに、なお影が見ゆるぞ……一つ、二つ、三つか? いや……足音は二つ……。奇なることよのう。さて、盲目なるこの手前に、何用あって参られしや?」
「さすがにてあらせられますな……いかに隠れようと、隠し通すは難きことでございましょう……。ただ、此処におるは妾と花化従のみ……」
下駄を鳴らす花化従の背後の闇からそっと語りかけてくる。
「左様か……されど、なお一つ、影を感じ申す……。気のせいと申すには、あまりにも確か……されど足音は二つ……。これは手前の思い違いかの」
「音のみならず、伝わるものにてございますか……恐ろしき御方にてあらせられます……」
「そなたの胸、足音よりもなお深く、心の響きがざわめいておる……その悪意、手前に向けられしや? いや……違う……はっきりと他の誰ぞへ向けられておるのが視える……」
「左様にございますか……遅ればせながら、名を名乗りましょう。我は宿静と申す……花仕舞師を逐われし者にてございます……」
零闇は奥に潜む者と会話をした。人外なるものは無用と言わんばかりに……長い黒髪を揺らめかす宿静と名乗る人物と対話した。
「さて……手前、零闇に何の用ぞ?」
「はい……そろそろ冥府への……お迎えの刻が参りましょうかと……。されば、零闇殿の死期、まさに近しにございます」
「ほう……それほどまでにお分かりか? いやはや、手前の知らぬこと、いまだ多きものよのう……」
零闇は口元を綻ばせた。
「左様……これぞ花仕舞師のみの力にてございますれば……」
「然るか……時は無常よのう……。僧の身なれど、いまだ達観には至らずとも、仏の御許へ参らねばならぬとは……」
夜風が淋しく零闇を包み込んでいた。左手の甲にはぼんやりと花紋様が赤く浮かび上がってくる。
「零闇殿を安らかに送らせていただきます……ただし、その前に一つ願いがござりまする……。今、我が命を受けし者、零闇殿のもとへ向かうよう仕向けておりますゆえ……」
静は願い事を零闇に話す。そして──欠けた月の輝きを覆い隠すような夜雲が広がっていった。
数時間後──
──己が誇りを花に託し、奪われし輝き。 高き天を見上げし者に咲くは、傲慢の花──
「此にて花尽──」
舞い終え、背を向ける静。
「その舞で何を目指さる? 拙僧にはそなたの舞……行き着く先、漆黒の闇にしか見えぬが……」
「妾が望むは漆黒の闇、その先なり……覚悟なき者にては、仇花を舞うこと叶うべからず」
「左様か……」
零闇にはその強き覚悟を受け止める他なかった。
「頼み申す……零闇殿……我が本懐のため、あの者、必ずや死すべし……」
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