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第三章──礼(うやまい)の尊き僧侶、静かなる教え
29話
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辿り着いた先は──それは古き朽ち果てそうな寺『礼尊寺』。棟門は崩れかけ、切妻屋根の瓦は所々割れ苔がむしている。いくつかある層塔は風化し、倒れたものもあり、形を成したものは皆無に等しい。今にも倒壊しそうな本堂は軋みをその風に奏でる。時間に取り残された姿はあとは崩れ去り消え去るのを待つのみ……そう朧な風が伝えてきた。
「清さま、ここにてございまする」
相い変わらず大人ぶった口調に根音は苛立つ。
「まこと似合わぬわ……この跳ねっ返りのじゃじゃ馬め……」
根子はきっと睨みただ一言……
「ガキ……」
そう言うとふんと鼻をならしそっぽを向いた。何度なだめてもこの二人は変わらないらしい。
「よい加減になされ……まこと、おまえたちは……いかに花護人とて双子の兄妹。仲よう致されよ……」
清は自分の状況を苦々しく想いながら二人をなだめた。
──われにそれを言う資格があるのだろうか? ただ姉さまに憎悪を纏ったわれに──
しかし、その憎悪を感じる度に異常なほど魂が喜ぶ清がいる。悲しみも痛みもすべてが失われている。あるのは喜びと憎悪のみ。恐怖さえ心の片隅に存在しない。
「もはや時は惜しゅうございます。参りましょうぞ……」
清は敷地内に入っていく。よく見ると敷地内には下駄の足跡。三枚歯で踏み固めたもの。あの下駄の重みにこの地は悲鳴をあげたに違いない。
「花化従の足跡……そして疑いなく、姉さまがここに来たりし証……」
清が肩を震わす。
「清さま……もしや、すでに……」
根子が震え、根音は清の着物の裾をしっかり握っている。
「案ずるなされ……おいらが清さまを御護り申す……」
根音の男らしい言葉も心許ない。清はぽんと二人の頭を撫で向かう。
「心強うございます……われは二人なくして生きられぬ。深く感謝いたす……ありがとう……」
そう、伝えると躊躇うことなく、清は進む。それが何を意味しているのかもわからずに……。
カツ……カツ……カツ……
杖をつく音が聞こえる。
「ほう……この感覚……あの折に覚えし影は、そなただったか……」
目の前に現れた盲目の僧侶が清たちの前に姿を現した。
「そなたが清殿か……この目は視えずとも、心の揺らぎは視える……末恐ろしき『傲』の気配……この地を覆うその『傲』、いかに為すや……さて、試させてもらおうぞ……」
彼は清に感じる心をそのまま口にした。背後にそびえる本堂からカラランと崩れ去りそうな音がした。
「なにゆえ、わが名を知っておられる!?」
清は戸惑った。
「数日前、ある者より知らせを受け申した……拙僧は零闇にてございまする……やがて仏の御許へ旅立つべき時と、その者に告げられましてな……」
「それは……宿静と申す者か?」
清は躊躇うことなくと尋ねた。しかし、零闇は答えなかった。
零闇の左手の甲には花紋様の痣があったが、すでに消えかけていた。
「清さま、ここにてございまする」
相い変わらず大人ぶった口調に根音は苛立つ。
「まこと似合わぬわ……この跳ねっ返りのじゃじゃ馬め……」
根子はきっと睨みただ一言……
「ガキ……」
そう言うとふんと鼻をならしそっぽを向いた。何度なだめてもこの二人は変わらないらしい。
「よい加減になされ……まこと、おまえたちは……いかに花護人とて双子の兄妹。仲よう致されよ……」
清は自分の状況を苦々しく想いながら二人をなだめた。
──われにそれを言う資格があるのだろうか? ただ姉さまに憎悪を纏ったわれに──
しかし、その憎悪を感じる度に異常なほど魂が喜ぶ清がいる。悲しみも痛みもすべてが失われている。あるのは喜びと憎悪のみ。恐怖さえ心の片隅に存在しない。
「もはや時は惜しゅうございます。参りましょうぞ……」
清は敷地内に入っていく。よく見ると敷地内には下駄の足跡。三枚歯で踏み固めたもの。あの下駄の重みにこの地は悲鳴をあげたに違いない。
「花化従の足跡……そして疑いなく、姉さまがここに来たりし証……」
清が肩を震わす。
「清さま……もしや、すでに……」
根子が震え、根音は清の着物の裾をしっかり握っている。
「案ずるなされ……おいらが清さまを御護り申す……」
根音の男らしい言葉も心許ない。清はぽんと二人の頭を撫で向かう。
「心強うございます……われは二人なくして生きられぬ。深く感謝いたす……ありがとう……」
そう、伝えると躊躇うことなく、清は進む。それが何を意味しているのかもわからずに……。
カツ……カツ……カツ……
杖をつく音が聞こえる。
「ほう……この感覚……あの折に覚えし影は、そなただったか……」
目の前に現れた盲目の僧侶が清たちの前に姿を現した。
「そなたが清殿か……この目は視えずとも、心の揺らぎは視える……末恐ろしき『傲』の気配……この地を覆うその『傲』、いかに為すや……さて、試させてもらおうぞ……」
彼は清に感じる心をそのまま口にした。背後にそびえる本堂からカラランと崩れ去りそうな音がした。
「なにゆえ、わが名を知っておられる!?」
清は戸惑った。
「数日前、ある者より知らせを受け申した……拙僧は零闇にてございまする……やがて仏の御許へ旅立つべき時と、その者に告げられましてな……」
「それは……宿静と申す者か?」
清は躊躇うことなくと尋ねた。しかし、零闇は答えなかった。
零闇の左手の甲には花紋様の痣があったが、すでに消えかけていた。
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