花仕舞師

RISING SUN

文字の大きさ
29 / 159
第三章──礼(うやまい)の尊き僧侶、静かなる教え

29話

しおりを挟む
 辿り着いた先は──それは古き朽ち果てそうな寺『礼尊寺れいそんじ』。棟門むねもんは崩れかけ、切妻屋根の瓦は所々割れ苔がむしている。いくつかある層塔そうとうは風化し、倒れたものもあり、形を成したものは皆無に等しい。今にも倒壊しそうな本堂は軋みをその風に奏でる。時間に取り残された姿はあとは崩れ去り消え去るのを待つのみ……そう朧な風が伝えてきた。
「清さま、ここにてございまする」
 相い変わらず大人ぶった口調に根音は苛立つ。
「まこと似合わぬわ……この跳ねっ返りのじゃじゃ馬め……」
 根子はきっと睨みただ一言……
「ガキ……」
 そう言うとふんと鼻をならしそっぽを向いた。何度なだめてもこの二人は変わらないらしい。
「よい加減になされ……まこと、おまえたちは……いかに花護人はなもりびととて双子の兄妹。仲よう致されよ……」
 清は自分の状況を苦々しく想いながら二人をなだめた。

 ──われにそれを言う資格があるのだろうか? ただ姉さまに憎悪を纏ったわれに──

 しかし、その憎悪を感じる度に異常なほど魂が喜ぶ清がいる。悲しみも痛みもすべてが失われている。あるのは喜びと憎悪のみ。恐怖さえ心の片隅に存在しない。
「もはや時は惜しゅうございます。参りましょうぞ……」
 清は敷地内に入っていく。よく見ると敷地内には下駄の足跡。三枚歯で踏み固めたもの。あの下駄の重みにこの地は悲鳴をあげたに違いない。
「花化従の足跡……そして疑いなく、姉さまがここに来たりし証……」
 清が肩を震わす。
「清さま……もしや、すでに……」
 根子が震え、根音は清の着物の裾をしっかり握っている。
「案ずるなされ……おいらが清さまを御護り申す……」
 根音の男らしい言葉も心許ない。清はぽんと二人の頭を撫で向かう。
「心強うございます……われは二人なくして生きられぬ。深く感謝いたす……ありがとう……」
 そう、伝えると躊躇うことなく、清は進む。それが何を意味しているのかもわからずに……。

 カツ……カツ……カツ……

 杖をつく音が聞こえる。
「ほう……この感覚……あの折に覚えし影は、そなただったか……」
 目の前に現れた盲目の僧侶が清たちの前に姿を現した。
「そなたが清殿か……この目は視えずとも、心の揺らぎは視える……末恐ろしき『おごり』の気配……この地を覆うその『傲』、いかに為すや……さて、試させてもらおうぞ……」
 彼は清に感じる心をそのまま口にした。背後にそびえる本堂からカラランと崩れ去りそうな音がした。
「なにゆえ、わが名を知っておられる!?」
 清は戸惑った。
「数日前、ある者より知らせを受け申した……拙僧は零闇にてございまする……やがて仏の御許へ旅立つべき時と、その者に告げられましてな……」
「それは……宿静と申す者か?」
 清は躊躇うことなくと尋ねた。しかし、零闇は答えなかった。
 零闇の左手の甲には花紋様の痣があったが、すでに消えかけていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

処理中です...