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第四章──智(さとし)の学び舎、深き迷いの医学者
45話
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「そして……先生……。申し上げにくきことながら……左の御手の甲に花紋様の痣、浮かびおり候」
孤風は、静の言葉に導かれるように自身の甲を見た。
「なにゆえ……私には何も見えませぬが……」
「左様……それは花仕舞師のみに見ゆる力……それは即ち、先生の灯火、消えゆく兆しにて候。この力、見えぬがゆえに、恐れられる所以にてございまする」
孤風は笑った。
「真を知れば、好奇心は湧き立つ。されど、その好奇心を容れる器が、もはや持たぬとは……何たる皮肉ぞ……」
孤風は静の詞に抗うこともなく着物の裾をぎゅっと握り締めた。震えているがそれは死への恐怖ではなく、智を蓄えることなできない虚しさゆえ。
「先生……そろそろ……」
静はそっと線香花火を取り出す。
「これより灯すこの花火、先生の命を示すものにて候」
静は線香花火を携えすっと立ち上がり、側に控える花化従に言葉をかける。
孤風はぐっと息を呑む。左手の甲がじんわりと熱くなるのを感じた。やがて、その瞬間身体中から力が抜け、息苦しくなり身体が痺れだした。意識が遠退く。
「なるほど……話を聞いたがゆえに、つぶさに受け止める己がここにおる……」
孤風は目を閉じた。
──このままにてよいのか──? 斯くて儚く散るか……否、我は未だ……されど、後悔という穢れを残さず、異なる道を選ぶこと能わんや──
孤風は心の中で自問自答を繰り返す。
「先生……間もなく、我が愚妹、先生を訪ね参りましょうぞ。我が愚妹もまた、先生を安らかに仕舞うため……されど……」
耳元で微かに静は囁いた。
「な、何と申された!? それは……いかなる意味にて候……?」
孤風は目を見開き焦るように尋ねる。
「……ゆえに、そのでき損ないに舞を許すわけには参らぬのです……」
孤風に届いたその言葉は孤風の身体中を巡る血液を沸かせた。ざわめく。心がまだ、諦めを覚えきれない。
──未だ静殿、すべての真を語り尽くしてはおらぬ……知りたし、知りたし、なおこの身を委ねるわけには参らぬ。もしや永遠の詞あるならば、たとえ命を擲つとも縋り申さん……永遠……それすなわち『半死』にてあらば──
孤風の魂が恐ろしきことを考え始める。
「いざ、仇花霊々の舞にて候。花傀儡筆頭、花化従、此れに──」
面を着けた花化従が線香花火に息を吹き掛け火を灯す。
「あれこそ、我が灯火……なんと儚く、淡き炎よ……」
しかし、言葉とは裏腹に力が漲るのを感じる孤風。
──私に、その覚悟、果たして在るや──
仇花灯ノ籠ノ番人左手が突如闇の中から現れ静から花火を受け取った。刻刻と舞の儀が整う。静が息を吸い込み、花現身の言葉を唱えようとする。
「先生……ここより先、もはや舞を止めることは叶いませぬ……これぞ、絵姿に描かれし真の姿にて候」
静が孤風に舞の始まりを粛々と伝えた。
──道は霞み、迷いの中に、囚われし心は彷徨う。何もかも見えぬ夜の底──
誰にも止めてはならぬ舞が始まった。
孤風は、静の言葉に導かれるように自身の甲を見た。
「なにゆえ……私には何も見えませぬが……」
「左様……それは花仕舞師のみに見ゆる力……それは即ち、先生の灯火、消えゆく兆しにて候。この力、見えぬがゆえに、恐れられる所以にてございまする」
孤風は笑った。
「真を知れば、好奇心は湧き立つ。されど、その好奇心を容れる器が、もはや持たぬとは……何たる皮肉ぞ……」
孤風は静の詞に抗うこともなく着物の裾をぎゅっと握り締めた。震えているがそれは死への恐怖ではなく、智を蓄えることなできない虚しさゆえ。
「先生……そろそろ……」
静はそっと線香花火を取り出す。
「これより灯すこの花火、先生の命を示すものにて候」
静は線香花火を携えすっと立ち上がり、側に控える花化従に言葉をかける。
孤風はぐっと息を呑む。左手の甲がじんわりと熱くなるのを感じた。やがて、その瞬間身体中から力が抜け、息苦しくなり身体が痺れだした。意識が遠退く。
「なるほど……話を聞いたがゆえに、つぶさに受け止める己がここにおる……」
孤風は目を閉じた。
──このままにてよいのか──? 斯くて儚く散るか……否、我は未だ……されど、後悔という穢れを残さず、異なる道を選ぶこと能わんや──
孤風は心の中で自問自答を繰り返す。
「先生……間もなく、我が愚妹、先生を訪ね参りましょうぞ。我が愚妹もまた、先生を安らかに仕舞うため……されど……」
耳元で微かに静は囁いた。
「な、何と申された!? それは……いかなる意味にて候……?」
孤風は目を見開き焦るように尋ねる。
「……ゆえに、そのでき損ないに舞を許すわけには参らぬのです……」
孤風に届いたその言葉は孤風の身体中を巡る血液を沸かせた。ざわめく。心がまだ、諦めを覚えきれない。
──未だ静殿、すべての真を語り尽くしてはおらぬ……知りたし、知りたし、なおこの身を委ねるわけには参らぬ。もしや永遠の詞あるならば、たとえ命を擲つとも縋り申さん……永遠……それすなわち『半死』にてあらば──
孤風の魂が恐ろしきことを考え始める。
「いざ、仇花霊々の舞にて候。花傀儡筆頭、花化従、此れに──」
面を着けた花化従が線香花火に息を吹き掛け火を灯す。
「あれこそ、我が灯火……なんと儚く、淡き炎よ……」
しかし、言葉とは裏腹に力が漲るのを感じる孤風。
──私に、その覚悟、果たして在るや──
仇花灯ノ籠ノ番人左手が突如闇の中から現れ静から花火を受け取った。刻刻と舞の儀が整う。静が息を吸い込み、花現身の言葉を唱えようとする。
「先生……ここより先、もはや舞を止めることは叶いませぬ……これぞ、絵姿に描かれし真の姿にて候」
静が孤風に舞の始まりを粛々と伝えた。
──道は霞み、迷いの中に、囚われし心は彷徨う。何もかも見えぬ夜の底──
誰にも止めてはならぬ舞が始まった。
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