花仕舞師

RISING SUN

文字の大きさ
48 / 159
第四章──智(さとし)の学び舎、深き迷いの医学者

48話

しおりを挟む
「何を言ひ出すかと思へば……」
 静はそっと孤風に近づく。
「半死となり給ふ意味、よもや御存じあらぬか。永劫の苦しみを纏ひ、姿こそ人なれど、もはや人に非ず。これなる舞を止むるは、我が非道の振る舞ひ……すなはち禁忌なり」
 静は囁く。
「心得てをり申す……されども、そなたの道、さらには愚妹と申されし妹君の道、花仕舞師の道までも見届け、まことを記したく候。この『半死奇談』、改め『花死奇談、真綴はなしきだんまことのつづり』として……」
 孤風は真摯に座し、頭を下げ懇願した。静は深く息を吸う。それはさらなる決意の表れ。
「あい、承知仕りぬ……」
 静は舞を止めた。焦りの冷や汗を流す花化従。
「静さま……っ! 禁忌にてござりまする……何卒、そればかりは……御容赦くだされませ……これ以上は、どうか……っ」
 花化従が頭を下げるのを忘れ静に詰めよった。しかし揺るがない静。眉ひとつ動かさない。
「控へよ……花化従。妾もまた禁忌を犯し、一族を追われし身。加へて、あのでき損ないの妹より『花切ノ契』さへ受けし身。今さら禁忌のひとつふたつ、何をか変へん」
 静は禁忌さえ我が身と言わんばかりに凛と構える。
「な、何を仰せに……御身は正気にてあらせらるるか……? 御身にかかる夥しき負担、痛みのすべて……また静さまを苛むこと、火を見るより明らかにて候……お願いにてござりまする……どうか、そればかりは……今一度……お思ひ直しくだされませ……」
「黙れ……花化従!」
 控えよと言われても、黙れと言われても……花化従はとまらなかった。無礼を承知で静の襟を掴み心に痛みをほとばしらせる。静の身体を考えれば真の愚昧ぐまい。静の身を案ずれば案ずるほどにまるで自身の身を削られる思い……。
「よい……先生の御心は、妾が本懐の一片とも成り得ん。それならば痛みの代償、いかなるものも妾が身にて引き受けるのみ……」
 静の心は揺らがない、揺るげない。
「静さま……それは……それはあまりにも……酷にてござりんす……っ! 何卒……何卒堪忍してたもれ……っ、堪忍してたもれ……」

「静さま……それはあんまりでありんす…………堪忍してたもれ……」
 花化従は襟を掴んだまま項垂れた。そしてそれは花傀儡、みな同じ思ひだった。
「花化従よ、そして皆々よ……今一度、問ふ。妾が本懐こそ、妾を突き動かす力。そのためならば、この身を獄に沈めるもまた悦びなり。道を見誤るな。それこそが、そなたらが仕ふべき主の道、仇花に堕ちてなお貫くべき理……しかと胸に刻め……」
 花化従をはじめ花傀儡たちは押し黙り聞いている。静は孤風を見る。
「孤風殿……半死の決意、確かに承り候。これよりそなた、『花識はなしき』と名乗り、この世の有り様、しかと見届けよ。それがそなたの務めなり」
 孤風は頭を深く下げた。
「かしこまりて候」
「ただし……決して他言無用。さあ、清が参る。その前に施しを致さねばならぬ……花識、こちらへ……」
 静は耳打ちをする。
「花識……ここより先こそ真実の地。否応なしに抗へぬ。半死と成り果てしならば、それこそが運命さだめなり……」

 静は高らかに宣言す。
 
 ──答えを欲し、答えに溺れた。見失った真理は、今なお胸を穿つ。惑いこそ、我が業なりとさとる──

「此にて花尽はなついえず、舞途絶えしゆゑ、半死の獄永劫に続き、痛みなき身と共に彷徨ふのみ……」
 静の言葉が各々の心に刻まれ、仕舞われることなく終演した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

処理中です...