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第四章──智(さとし)の学び舎、深き迷いの医学者
48話
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「何を言ひ出すかと思へば……」
静はそっと孤風に近づく。
「半死となり給ふ意味、よもや御存じあらぬか。永劫の苦しみを纏ひ、姿こそ人なれど、もはや人に非ず。これなる舞を止むるは、我が非道の振る舞ひ……すなはち禁忌なり」
静は囁く。
「心得てをり申す……されども、そなたの道、さらには愚妹と申されし妹君の道、花仕舞師の道までも見届け、まことを記したく候。この『半死奇談』、改め『花死奇談、真綴』として……」
孤風は真摯に座し、頭を下げ懇願した。静は深く息を吸う。それはさらなる決意の表れ。
「あい、承知仕りぬ……」
静は舞を止めた。焦りの冷や汗を流す花化従。
「静さま……っ! 禁忌にてござりまする……何卒、そればかりは……御容赦くだされませ……これ以上は、どうか……っ」
花化従が頭を下げるのを忘れ静に詰めよった。しかし揺るがない静。眉ひとつ動かさない。
「控へよ……花化従。妾もまた禁忌を犯し、一族を追われし身。加へて、あのでき損ないの妹より『花切ノ契』さへ受けし身。今さら禁忌のひとつふたつ、何をか変へん」
静は禁忌さえ我が身と言わんばかりに凛と構える。
「な、何を仰せに……御身は正気にてあらせらるるか……? 御身にかかる夥しき負担、痛みのすべて……また静さまを苛むこと、火を見るより明らかにて候……お願いにてござりまする……どうか、そればかりは……今一度……お思ひ直しくだされませ……」
「黙れ……花化従!」
控えよと言われても、黙れと言われても……花化従はとまらなかった。無礼を承知で静の襟を掴み心に痛みをほとばしらせる。静の身体を考えれば真の愚昧。静の身を案ずれば案ずるほどにまるで自身の身を削られる思い……。
「よい……先生の御心は、妾が本懐の一片とも成り得ん。それならば痛みの代償、いかなるものも妾が身にて引き受けるのみ……」
静の心は揺らがない、揺るげない。
「静さま……それは……それはあまりにも……酷にてござりんす……っ! 何卒……何卒堪忍してたもれ……っ、堪忍してたもれ……」
「静さま……それはあんまりでありんす…………堪忍してたもれ……」
花化従は襟を掴んだまま項垂れた。そしてそれは花傀儡、みな同じ思ひだった。
「花化従よ、そして皆々よ……今一度、問ふ。妾が本懐こそ、妾を突き動かす力。そのためならば、この身を獄に沈めるもまた悦びなり。道を見誤るな。それこそが、そなたらが仕ふべき主の道、仇花に堕ちてなお貫くべき理……しかと胸に刻め……」
花化従をはじめ花傀儡たちは押し黙り聞いている。静は孤風を見る。
「孤風殿……半死の決意、確かに承り候。これよりそなた、『花識』と名乗り、この世の有り様、しかと見届けよ。それがそなたの務めなり」
孤風は頭を深く下げた。
「かしこまりて候」
「ただし……決して他言無用。さあ、清が参る。その前に施しを致さねばならぬ……花識、こちらへ……」
静は耳打ちをする。
「花識……ここより先こそ真実の地。否応なしに抗へぬ。半死と成り果てしならば、それこそが運命なり……」
静は高らかに宣言す。
──答えを欲し、答えに溺れた。見失った真理は、今なお胸を穿つ。惑いこそ、我が業なりとさとる──
「此にて花尽ず、舞途絶えしゆゑ、半死の獄永劫に続き、痛みなき身と共に彷徨ふのみ……」
静の言葉が各々の心に刻まれ、仕舞われることなく終演した。
静はそっと孤風に近づく。
「半死となり給ふ意味、よもや御存じあらぬか。永劫の苦しみを纏ひ、姿こそ人なれど、もはや人に非ず。これなる舞を止むるは、我が非道の振る舞ひ……すなはち禁忌なり」
静は囁く。
「心得てをり申す……されども、そなたの道、さらには愚妹と申されし妹君の道、花仕舞師の道までも見届け、まことを記したく候。この『半死奇談』、改め『花死奇談、真綴』として……」
孤風は真摯に座し、頭を下げ懇願した。静は深く息を吸う。それはさらなる決意の表れ。
「あい、承知仕りぬ……」
静は舞を止めた。焦りの冷や汗を流す花化従。
「静さま……っ! 禁忌にてござりまする……何卒、そればかりは……御容赦くだされませ……これ以上は、どうか……っ」
花化従が頭を下げるのを忘れ静に詰めよった。しかし揺るがない静。眉ひとつ動かさない。
「控へよ……花化従。妾もまた禁忌を犯し、一族を追われし身。加へて、あのでき損ないの妹より『花切ノ契』さへ受けし身。今さら禁忌のひとつふたつ、何をか変へん」
静は禁忌さえ我が身と言わんばかりに凛と構える。
「な、何を仰せに……御身は正気にてあらせらるるか……? 御身にかかる夥しき負担、痛みのすべて……また静さまを苛むこと、火を見るより明らかにて候……お願いにてござりまする……どうか、そればかりは……今一度……お思ひ直しくだされませ……」
「黙れ……花化従!」
控えよと言われても、黙れと言われても……花化従はとまらなかった。無礼を承知で静の襟を掴み心に痛みをほとばしらせる。静の身体を考えれば真の愚昧。静の身を案ずれば案ずるほどにまるで自身の身を削られる思い……。
「よい……先生の御心は、妾が本懐の一片とも成り得ん。それならば痛みの代償、いかなるものも妾が身にて引き受けるのみ……」
静の心は揺らがない、揺るげない。
「静さま……それは……それはあまりにも……酷にてござりんす……っ! 何卒……何卒堪忍してたもれ……っ、堪忍してたもれ……」
「静さま……それはあんまりでありんす…………堪忍してたもれ……」
花化従は襟を掴んだまま項垂れた。そしてそれは花傀儡、みな同じ思ひだった。
「花化従よ、そして皆々よ……今一度、問ふ。妾が本懐こそ、妾を突き動かす力。そのためならば、この身を獄に沈めるもまた悦びなり。道を見誤るな。それこそが、そなたらが仕ふべき主の道、仇花に堕ちてなお貫くべき理……しかと胸に刻め……」
花化従をはじめ花傀儡たちは押し黙り聞いている。静は孤風を見る。
「孤風殿……半死の決意、確かに承り候。これよりそなた、『花識』と名乗り、この世の有り様、しかと見届けよ。それがそなたの務めなり」
孤風は頭を深く下げた。
「かしこまりて候」
「ただし……決して他言無用。さあ、清が参る。その前に施しを致さねばならぬ……花識、こちらへ……」
静は耳打ちをする。
「花識……ここより先こそ真実の地。否応なしに抗へぬ。半死と成り果てしならば、それこそが運命なり……」
静は高らかに宣言す。
──答えを欲し、答えに溺れた。見失った真理は、今なお胸を穿つ。惑いこそ、我が業なりとさとる──
「此にて花尽ず、舞途絶えしゆゑ、半死の獄永劫に続き、痛みなき身と共に彷徨ふのみ……」
静の言葉が各々の心に刻まれ、仕舞われることなく終演した。
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