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第四章──智(さとし)の学び舎、深き迷いの医学者
49話
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「ここにてございます……清さま」
根子が案内した場所は『孤風医学庵』。
「これは……姉さまの薫り……」
清は微かに漂う香りに懐かしさを滲ませ笑みが溢れそうになる。静の顔が浮かんだ刹那、憎しみが込み上げてくる。
──否、此の薫りは懐かしきにあらず。まこと、憎悪の薫りなり──
冷たい表情で父君、母君に狂気の刃を突き立て命を奪い、花仕舞師の称号欲しさに、実の妹の胸を貫いたその穢れた姉の愚行。それ以前の記憶を搔き消すほどの憎悪。ぎりりと唇を噛み、拳を握り締める。
「清さま……ここに静さまがお越しあそばされたやもしれませぬ……」
根音も察し、清に声をかけた。
「承知しておる……わが行く先には必ずや姉さまの影あり。何を企てるや……われを仕舞ひ、称号を取り戻すつもりか……」
「清さま……」
不安げに根子が見上げる。
「参りませう……答へはそこにこそあらん……それに、舞師としての本分を見失はぬためにも……花紋の痣を持つ者を導かねばならぬ……」
清たちは門をくぐる。
「御免下さりませ……御免下さりませ……」
清が声をあげると静かに丸眼鏡の色白の男が出てきた。
「これは……いかがあそばされた? かような場所まで……」
清は左手の甲をちらりと確認する。手の甲には花紋様の痣が滲み出ている。しかし、これまでに見たどの花紋様とも違う、異質な気配がした。形はあるのだか、まるで墨を水面に垂らしたように水墨模様にぼやけている。
「根音、根子……あの痣……いささか異様にてはござらぬか?」
「はい……あれは奇しき紋様にてございます。何故……? まさか、静さまと……」
根子も異質と感じとったようだ。
「われも……さう思ふ……」
清がそっと答えた。
「──? いかがなされましたか? この左手に、何か……?」
丸眼鏡の男は左手の甲を擦る。
「いや、手前は清、宿清と申す。そしてこちらは根音、根子。手前ら、ある使命を胸に旅をいたしておりまする」
「使命の旅と……それは、穏やかならぬ響きにてございますな……」
──此の御方こそ清殿。静殿とはまた異なる趣を備へ給ふ。されど、何ゆゑこの二人は、かくも一筋縄には解けぬ因果を纏ひおはすや──
「我は孤風と申す。長き旅、さぞお疲れにてあらせられませう。ここは医術にも通じておりますゆゑ、まずは疲れを癒されよ」
男は花識とは名乗らず、孤風と名乗り、清たちを快く受け入れる振りをした。
──まずは静殿の御施し、然るべく果たさねばならぬ──
花識は心の中で呟いた。
花識は部屋へと案内する。そこは静たちが療養していた。
「ゆるりと話すにはここしか空きませぬ。先ずは所用を果たして参りますれば、しばし此処にてお待ち下されませ」
花識は一度席を立つ。静の香りに包まれた部屋に通され、清は顔を露骨にしかめた。すでに心は嫌悪感で溢れそうになっていた。
根子が案内した場所は『孤風医学庵』。
「これは……姉さまの薫り……」
清は微かに漂う香りに懐かしさを滲ませ笑みが溢れそうになる。静の顔が浮かんだ刹那、憎しみが込み上げてくる。
──否、此の薫りは懐かしきにあらず。まこと、憎悪の薫りなり──
冷たい表情で父君、母君に狂気の刃を突き立て命を奪い、花仕舞師の称号欲しさに、実の妹の胸を貫いたその穢れた姉の愚行。それ以前の記憶を搔き消すほどの憎悪。ぎりりと唇を噛み、拳を握り締める。
「清さま……ここに静さまがお越しあそばされたやもしれませぬ……」
根音も察し、清に声をかけた。
「承知しておる……わが行く先には必ずや姉さまの影あり。何を企てるや……われを仕舞ひ、称号を取り戻すつもりか……」
「清さま……」
不安げに根子が見上げる。
「参りませう……答へはそこにこそあらん……それに、舞師としての本分を見失はぬためにも……花紋の痣を持つ者を導かねばならぬ……」
清たちは門をくぐる。
「御免下さりませ……御免下さりませ……」
清が声をあげると静かに丸眼鏡の色白の男が出てきた。
「これは……いかがあそばされた? かような場所まで……」
清は左手の甲をちらりと確認する。手の甲には花紋様の痣が滲み出ている。しかし、これまでに見たどの花紋様とも違う、異質な気配がした。形はあるのだか、まるで墨を水面に垂らしたように水墨模様にぼやけている。
「根音、根子……あの痣……いささか異様にてはござらぬか?」
「はい……あれは奇しき紋様にてございます。何故……? まさか、静さまと……」
根子も異質と感じとったようだ。
「われも……さう思ふ……」
清がそっと答えた。
「──? いかがなされましたか? この左手に、何か……?」
丸眼鏡の男は左手の甲を擦る。
「いや、手前は清、宿清と申す。そしてこちらは根音、根子。手前ら、ある使命を胸に旅をいたしておりまする」
「使命の旅と……それは、穏やかならぬ響きにてございますな……」
──此の御方こそ清殿。静殿とはまた異なる趣を備へ給ふ。されど、何ゆゑこの二人は、かくも一筋縄には解けぬ因果を纏ひおはすや──
「我は孤風と申す。長き旅、さぞお疲れにてあらせられませう。ここは医術にも通じておりますゆゑ、まずは疲れを癒されよ」
男は花識とは名乗らず、孤風と名乗り、清たちを快く受け入れる振りをした。
──まずは静殿の御施し、然るべく果たさねばならぬ──
花識は心の中で呟いた。
花識は部屋へと案内する。そこは静たちが療養していた。
「ゆるりと話すにはここしか空きませぬ。先ずは所用を果たして参りますれば、しばし此処にてお待ち下されませ」
花識は一度席を立つ。静の香りに包まれた部屋に通され、清は顔を露骨にしかめた。すでに心は嫌悪感で溢れそうになっていた。
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