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第四章──智(さとし)の学び舎、深き迷いの医学者
47話
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次の蕾が開く時、そこは炎の湖に姿を変える。
「これは……? 私が未練、欲の焔と燃え上がり、最後の果てまでも知れと焦がれ候ふか……」
姿を現した化焔の衣を纏った花傀儡。孤風庵は炎に包まれるが如く。舞う花傀儡が変わる度、そこは異世界を次々に見せつける。
「我が名は花焔……朽柳の舞にて、その欲、身もろとも焦がし尽くさせ申さん……」
すべてを壊すように舞う。孤風の常識を壊しては舞い、壊しては舞う。
「そして、何も残らぬ生の世にて、そなたは何を見るや……?」
花焔がすべてを焦がし、黒ずむ世界に最後の蕾が開く。黒墨のように滴り滲む姿。声も滲む。
「殿……花墨の黒菊の舞にて候ふ……」
水墨模様の無明幽墨織を纏い黒く染められた花墨の姿を見て笑う孤風。舞う度に墨に塗りつぶされる。何度も何度も塗り潰される中で、それでも消せない心が孤風の決心を揺らぎなきものの輪郭をくっきりと浮かび上がらせた。
「あい分かった……私が願ひ、悔い一つなし……」
孤風は消え行く線香花火を力強く見つめると、火花が激しくバチバチと音を立てる。
花化従が再び姿を現し、孤風を抱き締める。そして、目の前で面、花断をはずす。吸い込まれそうな美しき花化従の表情。人外とわかっていてもそれを美しいと思う。そしてそれは孤風の願いを引き出してしまった。
「さぁ……お逝きなさい……未練に抗うことなく……」
花化従が孤風の顔にその面を被せようとする。その時……
孤風の手が花化従の手を掴む。
「ま、待たれよ……」
「なっ……! 何をなさるおつもりでありんすか……?」
思いもよらぬ孤風の願いに花化従は驚く。
「し、静さま……」
花化従はどう対処すればよいかわからず振り向き背後にいる静を見た。
「いかがなされた? 孤風殿……」
静は冷静に孤風に声をかけた。
「す、すまぬ……この舞、止めては下さらぬか……私は『半死』として生きる道を選びたし……」
「なんと……! なにゆえに、そのやうな……」
突然の申し出に静さえも言葉を詰まらせた。
「私は知りたきものなり。この世の理に抗ふ世界を……。舞を見るごとに葛藤は積もりぬ。終焉を選ぶべきかと思ひしこともあれど、それ以上に焦がるるものあり。半死の苦しみに悔いを覚ゆるや否や……それよりも、この世を知らずして悔いること、私には恐ろしきことなり……永劫の苦しみを受けようとも、見届けたし……」
孤風は狂気の笑みを浮かべる。
「……なにゆゑ……さうまで仰せらるるでありんすか……? 静さまに、禁忌を犯させるやうな真似……」
今まで、欲情に濡れた肢体で舞ひながらも、孤風の前ではあくまで艶やかに微笑み、冷然と装ふておりし花化従。
だが、その一言が、静謐なる面を裂く。
花化従の瞳に、紅を差したやうな怒りが宿り、甘やかに揺れていた声は低く震へた。
その声音は、咎めるといふよりも、狂おしきまでに縋るやうな熱を孕んでいた。
「阿呆者……っ! そちは……愚かでありんす……」
怒りと情欲とがないまぜになりしその気配に、孤風の胸は恐怖よりも、むしろ甘美なる痺れに似た感覚にて締め付けられた。
「これは……? 私が未練、欲の焔と燃え上がり、最後の果てまでも知れと焦がれ候ふか……」
姿を現した化焔の衣を纏った花傀儡。孤風庵は炎に包まれるが如く。舞う花傀儡が変わる度、そこは異世界を次々に見せつける。
「我が名は花焔……朽柳の舞にて、その欲、身もろとも焦がし尽くさせ申さん……」
すべてを壊すように舞う。孤風の常識を壊しては舞い、壊しては舞う。
「そして、何も残らぬ生の世にて、そなたは何を見るや……?」
花焔がすべてを焦がし、黒ずむ世界に最後の蕾が開く。黒墨のように滴り滲む姿。声も滲む。
「殿……花墨の黒菊の舞にて候ふ……」
水墨模様の無明幽墨織を纏い黒く染められた花墨の姿を見て笑う孤風。舞う度に墨に塗りつぶされる。何度も何度も塗り潰される中で、それでも消せない心が孤風の決心を揺らぎなきものの輪郭をくっきりと浮かび上がらせた。
「あい分かった……私が願ひ、悔い一つなし……」
孤風は消え行く線香花火を力強く見つめると、火花が激しくバチバチと音を立てる。
花化従が再び姿を現し、孤風を抱き締める。そして、目の前で面、花断をはずす。吸い込まれそうな美しき花化従の表情。人外とわかっていてもそれを美しいと思う。そしてそれは孤風の願いを引き出してしまった。
「さぁ……お逝きなさい……未練に抗うことなく……」
花化従が孤風の顔にその面を被せようとする。その時……
孤風の手が花化従の手を掴む。
「ま、待たれよ……」
「なっ……! 何をなさるおつもりでありんすか……?」
思いもよらぬ孤風の願いに花化従は驚く。
「し、静さま……」
花化従はどう対処すればよいかわからず振り向き背後にいる静を見た。
「いかがなされた? 孤風殿……」
静は冷静に孤風に声をかけた。
「す、すまぬ……この舞、止めては下さらぬか……私は『半死』として生きる道を選びたし……」
「なんと……! なにゆえに、そのやうな……」
突然の申し出に静さえも言葉を詰まらせた。
「私は知りたきものなり。この世の理に抗ふ世界を……。舞を見るごとに葛藤は積もりぬ。終焉を選ぶべきかと思ひしこともあれど、それ以上に焦がるるものあり。半死の苦しみに悔いを覚ゆるや否や……それよりも、この世を知らずして悔いること、私には恐ろしきことなり……永劫の苦しみを受けようとも、見届けたし……」
孤風は狂気の笑みを浮かべる。
「……なにゆゑ……さうまで仰せらるるでありんすか……? 静さまに、禁忌を犯させるやうな真似……」
今まで、欲情に濡れた肢体で舞ひながらも、孤風の前ではあくまで艶やかに微笑み、冷然と装ふておりし花化従。
だが、その一言が、静謐なる面を裂く。
花化従の瞳に、紅を差したやうな怒りが宿り、甘やかに揺れていた声は低く震へた。
その声音は、咎めるといふよりも、狂おしきまでに縋るやうな熱を孕んでいた。
「阿呆者……っ! そちは……愚かでありんす……」
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