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第四章──智(さとし)の学び舎、深き迷いの医学者
51話
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「舞……? 果て……それは……いかなるものにて候ふや?」
花識は惚けてみせた。
──舞のこと、清殿に語るべからず……問い詰めらるるとも、しらを切り通すべし──
花識は静の言葉を順次思い出していた。いや、見事、静の見立てに清が乗せられているのだ。だからこそ、清の問いに迷うことなく言葉を選べる──花識は清の言葉を待った。
「さるやもしれませぬ。この香、確かに火薬の香りにて候。この香りは特別なるもの……一度火を灯せば、必ずや仕舞わねばならぬ……」
清は諦めず問う。しかし、問いかけながら、心に引っ掛かったものが顔を出す。矛盾が生じてくるのだ。
──火薬の薫り、まさしく舞に用いる線香花火のそれ……舞以外に用ふる術なし。花護人、花天照、また花傀儡、花化従の吐息にて火は灯るもの……されば舞は、この孤風殿に対して行はれたるは必定。なれど舞ひしならば、孤風殿は既に導かれ浄化され、現し世に留まること能はざるはず……──
「いかがされしや、清殿……? 面持ち、曇りて見ゆるが……」
飄々とした態度を取る孤風。
──もしや……舞、途絶えしや!?──
清はひとつの答えを導きだした。
──然れど、舞を止むるは禁忌なり。いかに愚かしき姉さまなりとも、禁忌を破ることなど……いや、あの御方は一度禁忌を犯し、一族を逐はれし身……ならば禁忌など、壊れしからくり人形のごときもの……されど……──
清は混乱の中で言葉を失っていった。辿り着く答えはひとつしかなかった。
──孤風殿、半死の淵に沈みしや? されど花紋様、なお左の甲に浮かび候ふ……未だ命脈つながりし証……だめだ……答へ導き難し……如何にして解を得ればよいのか……──
焦りの色を見せる清。その表情に花識は助け船を出す。それは静の言葉をなぞるだけだが……
──しかと舞の支度を整へさせよ。清殿みづから急ぎ、そなたを仕舞はんと申し出づるやうに──
「清殿……そなた使命ありと申された。そして、私の甲に浮かぶ痣……それ、私が身に何か施すためにあらずや? 実は、私はすでに死期を悟りし者……さほど長くは持たぬと思ふ。それと何か、関わりあるやもしれぬ……」
花識は自然体な言葉で清に行動を起こすよう促した。
「清さま……」
根子が清の袖を引っ張り耳打ちする。
「何やら……孤風さまの花紋様、揺らぎて見えまする。急がねばなりませぬ……」
花識の痣が墨で塗り潰されるが如く黒く変色していく。
──もし、清殿らが花紋様に動揺せし折は、苦しみを装ひ、死を匂はせよ……まこと、命を賭して演ずべし──
何もかも静の計らいの内……花識は突然苦しみを演技する。迫真の演技で清を惑わしにかかる。
「く、苦しい……こ、これは……い、意識が……」
喉に手をあて踠きはじめる花識。呼吸を見出し、目は焦点をずらし一世一代の演技──。
「刻がありませぬ……これまでか……致し方なし。舞の支度を……根音、根子……」
清が叫ぶ。清は立ち上がり袖から線香花火を取り出した。
「孤風殿、真実は未だ掴めませぬが……もはや猶予はござらぬ。わが舞にて、そなたを導かん。何卒お許しくだされ……」
清は高らかに告げる。
「いざ、花霊々の舞にて候。花護人筆頭、花天照此れに──」
花識は惚けてみせた。
──舞のこと、清殿に語るべからず……問い詰めらるるとも、しらを切り通すべし──
花識は静の言葉を順次思い出していた。いや、見事、静の見立てに清が乗せられているのだ。だからこそ、清の問いに迷うことなく言葉を選べる──花識は清の言葉を待った。
「さるやもしれませぬ。この香、確かに火薬の香りにて候。この香りは特別なるもの……一度火を灯せば、必ずや仕舞わねばならぬ……」
清は諦めず問う。しかし、問いかけながら、心に引っ掛かったものが顔を出す。矛盾が生じてくるのだ。
──火薬の薫り、まさしく舞に用いる線香花火のそれ……舞以外に用ふる術なし。花護人、花天照、また花傀儡、花化従の吐息にて火は灯るもの……されば舞は、この孤風殿に対して行はれたるは必定。なれど舞ひしならば、孤風殿は既に導かれ浄化され、現し世に留まること能はざるはず……──
「いかがされしや、清殿……? 面持ち、曇りて見ゆるが……」
飄々とした態度を取る孤風。
──もしや……舞、途絶えしや!?──
清はひとつの答えを導きだした。
──然れど、舞を止むるは禁忌なり。いかに愚かしき姉さまなりとも、禁忌を破ることなど……いや、あの御方は一度禁忌を犯し、一族を逐はれし身……ならば禁忌など、壊れしからくり人形のごときもの……されど……──
清は混乱の中で言葉を失っていった。辿り着く答えはひとつしかなかった。
──孤風殿、半死の淵に沈みしや? されど花紋様、なお左の甲に浮かび候ふ……未だ命脈つながりし証……だめだ……答へ導き難し……如何にして解を得ればよいのか……──
焦りの色を見せる清。その表情に花識は助け船を出す。それは静の言葉をなぞるだけだが……
──しかと舞の支度を整へさせよ。清殿みづから急ぎ、そなたを仕舞はんと申し出づるやうに──
「清殿……そなた使命ありと申された。そして、私の甲に浮かぶ痣……それ、私が身に何か施すためにあらずや? 実は、私はすでに死期を悟りし者……さほど長くは持たぬと思ふ。それと何か、関わりあるやもしれぬ……」
花識は自然体な言葉で清に行動を起こすよう促した。
「清さま……」
根子が清の袖を引っ張り耳打ちする。
「何やら……孤風さまの花紋様、揺らぎて見えまする。急がねばなりませぬ……」
花識の痣が墨で塗り潰されるが如く黒く変色していく。
──もし、清殿らが花紋様に動揺せし折は、苦しみを装ひ、死を匂はせよ……まこと、命を賭して演ずべし──
何もかも静の計らいの内……花識は突然苦しみを演技する。迫真の演技で清を惑わしにかかる。
「く、苦しい……こ、これは……い、意識が……」
喉に手をあて踠きはじめる花識。呼吸を見出し、目は焦点をずらし一世一代の演技──。
「刻がありませぬ……これまでか……致し方なし。舞の支度を……根音、根子……」
清が叫ぶ。清は立ち上がり袖から線香花火を取り出した。
「孤風殿、真実は未だ掴めませぬが……もはや猶予はござらぬ。わが舞にて、そなたを導かん。何卒お許しくだされ……」
清は高らかに告げる。
「いざ、花霊々の舞にて候。花護人筆頭、花天照此れに──」
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