花仕舞師

RISING SUN

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第四章──智(さとし)の学び舎、深き迷いの医学者

52話

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 清の呼び掛けと共に部屋が光輝くと共に花天照が翼を広げ現れる。祈りを捧げるように両手を組み、翼をゆっくり折り畳み清の元へ寄る。黄金の靡く髪、純白の天衣無縫てんいむほうの衣の清らかさ、すべてが美しく、演技を忘れ、魅入られそうになる花識。高揚感が心を揺るがす。『さとし』への想いが募るほどこの光景を書き綴りたい衝動に駆られる。

 ──記し留めたし、綴りたし。されど……ならぬ……此処にて心を乱し、魅入られてはならぬ……。ただ、しかと目に焼き付けるのみ。これはまた、静殿とは異なる光の舞……姉妹の舞、なにゆゑここまで見事に対比されるや……清殿の舞は光、静殿の舞は闇。わが身は永劫に堕ちしものなれど、悔恨の念、いまは既に霞みゆく──

 花天照はふっと線香花火に吹きかけると火が灯った。その仄かな明かりが花識を包み込む。心の中で花びらがゆっくり散り舞うように様々な感情が浮き沈みする。
 「花灯ノ籠ノ番人右手はなともしのかごめのばんにんめて、此を──」
 一体の花護人が床を突き破るように地中から現れる、清が持つ線香花火を預かる。
右手めてよ、しっかとその灯火、護り給へ」
花天照は再び翼を広げ、光輝く。同時に清は花霊々の舞いを披露する。花天照の身体から五つの弦が地中に刺さると枝分かれするように蕾が五つ実る。

 ──私が心、奪はれゆく──
 
 花識は震え出す。

 ──そなた、必ずや清の舞に心を奪はれん。それは魂の響応ゆゑにして、まことに道理なり。されど、そなたは既に半死の身。心惹かれども身は動かず。それでも安らぎの貌を浮かべ、導かれるがごとく演じよ。決して悟られてはならぬ──

 静の言葉が花識の脳裏を掠める。

 ──演じよ……演じるのだ……──

 花識は演技に徹する。見事なまでに心身を清の舞に委ねるような仕草。すべてが疑われることなきようにと。清が疑わず舞いながら花告はなつげを花識に向かい詠みあげた。

 ──さとしは風にあり、声なき問いに、答えるように舞う──

 蕾が花開くと鏡一面の舞台が幕を開ける。そこに現れるは花水鏡はなみかがみ。そして次に花翅はなばねが蝶の翅を広げ舞う。言葉を奪われた時、第肆の花護人、花根孖はなねしが姿を見せる。
「そなたたちは……」
 花識は唖然とした。そこに舞う姿はあどけない顔を見せていた根音と根子。あの茶菓子を頬張っていた姿はすでにない。根子は花識に寄り添い、根音は影に寄り添いながら舞う。根子はそっと花識に耳打ちをした。
「な、なにゆゑそれを……!?」
 花識は根子を見る。根子は言葉を返すことなく舞続ける。根子の言葉に動揺し、静の言葉が重くのしかかってきた。

 ──何があれども演技を続けよ。これは試練なり。この試みに耐え得ぬならば、半死の契りは解かれん──

 花識は未だ試されていると思った。

 ──なにゆゑ、かくも静殿の言葉のままに事が運ぶ……──

 花識は得体の知れぬ汗が滴らせながら、まるで命がけの綱を渡っている気がした。
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