52 / 159
第四章──智(さとし)の学び舎、深き迷いの医学者
52話
しおりを挟む
清の呼び掛けと共に部屋が光輝くと共に花天照が翼を広げ現れる。祈りを捧げるように両手を組み、翼をゆっくり折り畳み清の元へ寄る。黄金の靡く髪、純白の天衣無縫の衣の清らかさ、すべてが美しく、演技を忘れ、魅入られそうになる花識。高揚感が心を揺るがす。『智』への想いが募るほどこの光景を書き綴りたい衝動に駆られる。
──記し留めたし、綴りたし。されど……ならぬ……此処にて心を乱し、魅入られてはならぬ……。ただ、しかと目に焼き付けるのみ。これはまた、静殿とは異なる光の舞……姉妹の舞、なにゆゑここまで見事に対比されるや……清殿の舞は光、静殿の舞は闇。わが身は永劫に堕ちしものなれど、悔恨の念、いまは既に霞みゆく──
花天照はふっと線香花火に吹きかけると火が灯った。その仄かな明かりが花識を包み込む。心の中で花びらがゆっくり散り舞うように様々な感情が浮き沈みする。
「花灯ノ籠ノ番人右手、此を──」
一体の花護人が床を突き破るように地中から現れる、清が持つ線香花火を預かる。
「右手よ、しっかとその灯火、護り給へ」
花天照は再び翼を広げ、光輝く。同時に清は花霊々の舞いを披露する。花天照の身体から五つの弦が地中に刺さると枝分かれするように蕾が五つ実る。
──私が心、奪はれゆく──
花識は震え出す。
──そなた、必ずや清の舞に心を奪はれん。それは魂の響応ゆゑにして、まことに道理なり。されど、そなたは既に半死の身。心惹かれども身は動かず。それでも安らぎの貌を浮かべ、導かれるがごとく演じよ。決して悟られてはならぬ──
静の言葉が花識の脳裏を掠める。
──演じよ……演じるのだ……──
花識は演技に徹する。見事なまでに心身を清の舞に委ねるような仕草。すべてが疑われることなきようにと。清が疑わず舞いながら花告を花識に向かい詠みあげた。
──智は風にあり、声なき問いに、答えるように舞う──
蕾が花開くと鏡一面の舞台が幕を開ける。そこに現れるは花水鏡。そして次に花翅が蝶の翅を広げ舞う。言葉を奪われた時、第肆の花護人、花根孖が姿を見せる。
「そなたたちは……」
花識は唖然とした。そこに舞う姿はあどけない顔を見せていた根音と根子。あの茶菓子を頬張っていた姿はすでにない。根子は花識に寄り添い、根音は影に寄り添いながら舞う。根子はそっと花識に耳打ちをした。
「な、なにゆゑそれを……!?」
花識は根子を見る。根子は言葉を返すことなく舞続ける。根子の言葉に動揺し、静の言葉が重くのしかかってきた。
──何があれども演技を続けよ。これは試練なり。この試みに耐え得ぬならば、半死の契りは解かれん──
花識は未だ試されていると思った。
──なにゆゑ、かくも静殿の言葉のままに事が運ぶ……──
花識は得体の知れぬ汗が滴らせながら、まるで命がけの綱を渡っている気がした。
──記し留めたし、綴りたし。されど……ならぬ……此処にて心を乱し、魅入られてはならぬ……。ただ、しかと目に焼き付けるのみ。これはまた、静殿とは異なる光の舞……姉妹の舞、なにゆゑここまで見事に対比されるや……清殿の舞は光、静殿の舞は闇。わが身は永劫に堕ちしものなれど、悔恨の念、いまは既に霞みゆく──
花天照はふっと線香花火に吹きかけると火が灯った。その仄かな明かりが花識を包み込む。心の中で花びらがゆっくり散り舞うように様々な感情が浮き沈みする。
「花灯ノ籠ノ番人右手、此を──」
一体の花護人が床を突き破るように地中から現れる、清が持つ線香花火を預かる。
「右手よ、しっかとその灯火、護り給へ」
花天照は再び翼を広げ、光輝く。同時に清は花霊々の舞いを披露する。花天照の身体から五つの弦が地中に刺さると枝分かれするように蕾が五つ実る。
──私が心、奪はれゆく──
花識は震え出す。
──そなた、必ずや清の舞に心を奪はれん。それは魂の響応ゆゑにして、まことに道理なり。されど、そなたは既に半死の身。心惹かれども身は動かず。それでも安らぎの貌を浮かべ、導かれるがごとく演じよ。決して悟られてはならぬ──
静の言葉が花識の脳裏を掠める。
──演じよ……演じるのだ……──
花識は演技に徹する。見事なまでに心身を清の舞に委ねるような仕草。すべてが疑われることなきようにと。清が疑わず舞いながら花告を花識に向かい詠みあげた。
──智は風にあり、声なき問いに、答えるように舞う──
蕾が花開くと鏡一面の舞台が幕を開ける。そこに現れるは花水鏡。そして次に花翅が蝶の翅を広げ舞う。言葉を奪われた時、第肆の花護人、花根孖が姿を見せる。
「そなたたちは……」
花識は唖然とした。そこに舞う姿はあどけない顔を見せていた根音と根子。あの茶菓子を頬張っていた姿はすでにない。根子は花識に寄り添い、根音は影に寄り添いながら舞う。根子はそっと花識に耳打ちをした。
「な、なにゆゑそれを……!?」
花識は根子を見る。根子は言葉を返すことなく舞続ける。根子の言葉に動揺し、静の言葉が重くのしかかってきた。
──何があれども演技を続けよ。これは試練なり。この試みに耐え得ぬならば、半死の契りは解かれん──
花識は未だ試されていると思った。
──なにゆゑ、かくも静殿の言葉のままに事が運ぶ……──
花識は得体の知れぬ汗が滴らせながら、まるで命がけの綱を渡っている気がした。
0
あなたにおすすめの小説
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる