57 / 159
第五章──忠(まごころ)の誓い、戦に生きた侍
57話
しおりを挟む
「いかにして……この城に忍び入りしや?」
現路は戸惑う。花雫は主を人であると伝えてきた。だとしたらこの城に出入りは不可能に近い。ましてや囚われた身の現路に謁見することなど尚更。
「花雫が時を歪めおるゆえ、現路殿のもとへ至るは容易きこと……そなた、花雫が人に見ゆるか? 先刻は物の怪と申したではありませぬか? まこと人が悪き御方にて候ふ……」
煽り出す静。
「そ、そなた……何をしにここへ参られた? 処罰を待つ身の拙者に、何用ぞっ!」
静の物静かな口調に人以上のものを感じ始める現路。
「現路殿は、命力まこと強き御方……されども、花紋様はしっかと左手の甲に刻まれておりまする……見えぬだけにて候ふ……」
「花紋様? 何ゆえのものぞ……?」
焦る現路に静は見つめながら答える。
「それは死期を知らせる、決して人が抗うことのできない枯れた花を描く模様の痣……それが花紋様でございます」
「そんなもの……拙者の左手には……!」
見よと言わんばかりに現路は左手を差し出す。
「現路殿……見ゆるか否かは肝要にあらず……そなたはすでに己が死期を悟り、ただ未練を胸に、その時を待たれておる……」
「未練……この世に未練など……主君を失うた今、未練など……忠義をなくした者に、未練など……!」
「未練を認めぬは、これ『妄』なり。誠は時に妄信へと変じ、歪みし信念を生む。忠の裏に潜む盲き従順、危うき象徴……現路殿はその渦中にござる」
強い言葉で言い放つ静。
「『妄』だと申すか……? それがしの忠義が『妄』とな!?」
怒りが込み上げる現路。ふっと笑みを溢し静はまるでボロボロの欠けた怒りの刃を振り下ろす現路を軽くいなし立ち上がる。
「左様にて候ふ……『忠義』とは何ぞや? 現路殿は『忠』をもって生きられた。されど、それを喪えば人は惑う。弱きは人の常……何かに縋る者ほど、喪えば崩れるものにて候ふ」
静は近づき現路の耳元で囁いた。
「今の現路殿、まさしく『妄』に囚われし御身にて候ふ」
「な、なにゆえ……断じて認めぬ……断じて……!」
認めることは武士としての恥と捉える現路。いかなる時も揺るぐことなく『忠』を尽くした現路。しかし、それがこうも簡単に揺るがされることに怒りに拳を振るわせた。しかし、その怒りは静に向けるのではなく、揺らいだ己の『忠』の心にだった。
「花紋様は真なるもの……死期は近し。いま一度考え、答えを見いだされよ……処罰の刻、我は舞おう……そして、愚かなる我が妹もまた舞うであろう……信念揺らぐ者は『妄』なり。ゆめゆめ忘れられぬよう……」
静は現路に背を向け、幻のように去っていく。現路は拳を畳に叩きつけた。
「忠義とは何ぞやっ!?」
己の心に深く突き刺さった詞の刃は抜けずにいた現路だった。
現路は戸惑う。花雫は主を人であると伝えてきた。だとしたらこの城に出入りは不可能に近い。ましてや囚われた身の現路に謁見することなど尚更。
「花雫が時を歪めおるゆえ、現路殿のもとへ至るは容易きこと……そなた、花雫が人に見ゆるか? 先刻は物の怪と申したではありませぬか? まこと人が悪き御方にて候ふ……」
煽り出す静。
「そ、そなた……何をしにここへ参られた? 処罰を待つ身の拙者に、何用ぞっ!」
静の物静かな口調に人以上のものを感じ始める現路。
「現路殿は、命力まこと強き御方……されども、花紋様はしっかと左手の甲に刻まれておりまする……見えぬだけにて候ふ……」
「花紋様? 何ゆえのものぞ……?」
焦る現路に静は見つめながら答える。
「それは死期を知らせる、決して人が抗うことのできない枯れた花を描く模様の痣……それが花紋様でございます」
「そんなもの……拙者の左手には……!」
見よと言わんばかりに現路は左手を差し出す。
「現路殿……見ゆるか否かは肝要にあらず……そなたはすでに己が死期を悟り、ただ未練を胸に、その時を待たれておる……」
「未練……この世に未練など……主君を失うた今、未練など……忠義をなくした者に、未練など……!」
「未練を認めぬは、これ『妄』なり。誠は時に妄信へと変じ、歪みし信念を生む。忠の裏に潜む盲き従順、危うき象徴……現路殿はその渦中にござる」
強い言葉で言い放つ静。
「『妄』だと申すか……? それがしの忠義が『妄』とな!?」
怒りが込み上げる現路。ふっと笑みを溢し静はまるでボロボロの欠けた怒りの刃を振り下ろす現路を軽くいなし立ち上がる。
「左様にて候ふ……『忠義』とは何ぞや? 現路殿は『忠』をもって生きられた。されど、それを喪えば人は惑う。弱きは人の常……何かに縋る者ほど、喪えば崩れるものにて候ふ」
静は近づき現路の耳元で囁いた。
「今の現路殿、まさしく『妄』に囚われし御身にて候ふ」
「な、なにゆえ……断じて認めぬ……断じて……!」
認めることは武士としての恥と捉える現路。いかなる時も揺るぐことなく『忠』を尽くした現路。しかし、それがこうも簡単に揺るがされることに怒りに拳を振るわせた。しかし、その怒りは静に向けるのではなく、揺らいだ己の『忠』の心にだった。
「花紋様は真なるもの……死期は近し。いま一度考え、答えを見いだされよ……処罰の刻、我は舞おう……そして、愚かなる我が妹もまた舞うであろう……信念揺らぐ者は『妄』なり。ゆめゆめ忘れられぬよう……」
静は現路に背を向け、幻のように去っていく。現路は拳を畳に叩きつけた。
「忠義とは何ぞやっ!?」
己の心に深く突き刺さった詞の刃は抜けずにいた現路だった。
0
あなたにおすすめの小説
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる