花仕舞師

RISING SUN

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第五章──忠(まごころ)の誓い、戦に生きた侍

57話

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「いかにして……この城に忍び入りしや?」
 現路は戸惑う。花雫は主を人であると伝えてきた。だとしたらこの城に出入りは不可能に近い。ましてや囚われた身の現路に謁見することなど尚更。
「花雫が時を歪めおるゆえ、現路殿のもとへ至るは容易きこと……そなた、花雫が人に見ゆるか? 先刻は物の怪と申したではありませぬか? まこと人が悪き御方にて候ふ……」
 煽り出す静。
「そ、そなた……何をしにここへ参られた? 処罰を待つ身の拙者に、何用ぞっ!」
 静の物静かな口調に人以上のものを感じ始める現路。
「現路殿は、命力まこと強き御方……されども、花紋様はしっかと左手の甲に刻まれておりまする……見えぬだけにて候ふ……」
「花紋様? 何ゆえのものぞ……?」
 焦る現路に静は見つめながら答える。
「それは死期を知らせる、決して人が抗うことのできない枯れた花を描く模様の痣……それが花紋様でございます」
「そんなもの……拙者の左手には……!」
 見よと言わんばかりに現路は左手を差し出す。
「現路殿……見ゆるか否かは肝要にあらず……そなたはすでに己が死期を悟り、ただ未練を胸に、その時を待たれておる……」
「未練……この世に未練など……主君を失うた今、未練など……忠義をなくした者に、未練など……!」
「未練を認めぬは、これ『あやまり』なり。誠は時に妄信へと変じ、歪みし信念を生む。忠の裏に潜む盲き従順、危うき象徴……現路殿はその渦中にござる」
 強い言葉で言い放つ静。
「『妄』だと申すか……? それがしの忠義が『妄』とな!?」
 怒りが込み上げる現路。ふっと笑みを溢し静はまるでボロボロの欠けた怒りの刃を振り下ろす現路を軽くいなし立ち上がる。
「左様にて候ふ……『忠義』とは何ぞや? 現路殿は『忠』をもって生きられた。されど、それを喪えば人は惑う。弱きは人の常……何かに縋る者ほど、喪えば崩れるものにて候ふ」
 静は近づき現路の耳元で囁いた。
「今の現路殿、まさしく『妄』に囚われし御身にて候ふ」
「な、なにゆえ……断じて認めぬ……断じて……!」
 認めることは武士としての恥と捉える現路。いかなる時も揺るぐことなく『忠』を尽くした現路。しかし、それがこうも簡単に揺るがされることに怒りに拳を振るわせた。しかし、その怒りは静に向けるのではなく、揺らいだ己の『忠』の心にだった。
「花紋様は真なるもの……死期は近し。いま一度考え、答えを見いだされよ……処罰の刻、我は舞おう……そして、愚かなる我が妹もまた舞うであろう……信念揺らぐ者は『妄』なり。ゆめゆめ忘れられぬよう……」
 静は現路に背を向け、幻のように去っていく。現路は拳を畳に叩きつけた。
「忠義とは何ぞやっ!?」
 己の心に深く突き刺さった詞の刃は抜けずにいた現路だった。
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