花仕舞師

RISING SUN

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第五章──忠(まごころ)の誓い、戦に生きた侍

58話

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 赤間匠盛あかまたくみじょうが戦場で無念にも討ち取られたことにより、岐波きわノ国は滅び、その領土は悠前ゆうぜんノ国と名を変えた。 
 そして、現路は匠盛を討った逆矢間熙剣さかやまきつると対峙していた。
「そなたの献身なる働き、処罰するにはあまりに惜しきこと……ならば、我が臣下となり、今一度その力、振るうてみせぬか?」
 熙剣は現路のその能力を高く評価していた。
「熙剣殿は拙者に、主君、赤間匠盛を裏切れと申されるか……生き恥を晒し、忠義を捨てて生き延びよと……笑止なり……」
 怒りを通り越し、笑うしかなかった。
「まぁよい……また参ろう。それまでに考え、答えを出しておけ」
 熙剣は静かに立ち上がり、その場を後にした。
「なぜだ……なぜ拙者に生き恥を強いる……これほどまで……」
 畳を叩きつけた。震えが止まらない。現路は静に惑わされて以来、己がわからなくなっていた。

 ──われ、果たして『あやまり』に身を沈めし者ならんや……──

 現路はそれだけを繰り返していた。

 ぽたり──ぽたり──

 雫が垂れる……また格縁こうぶちから垂れる。
「またか……」
 揺らめくが如く人影。青く揺れる髪と瞳。そして形、成すのは美しき異世界の住人、花雫。
「また静殿を伴いて参ったか……?」
 青い瞳の花雫はぽたりぽたりと雫を垂らし、現路の元に寄る。
「否、本日は我ひとり……互いに主を持つ身、少し語らいたくなり申した」
 花雫は座す。畳はじんわりと濡れる。
「語らうじゃと……また拙者が信を踏みにじらんがためか……?」
 唇を噛み花雫を睨み付ける現路。
「まことに脆きものよ……人の未練とは、かくも強きものかと……」
 濡れた青い髪をゆらりと揺らす。それは現路の心のよう。現路は問うた。
「ならば問おう……そなたの静殿に対する『まごころ』とは何ぞ? 『妄』とは呼べぬか? あの御方、畏怖を纏いし者、人ならず……我が主、匠盛とは真逆にて候……」
 現路は静の姿を思い出すだけで肌を振るわせた。
「その問い、何の意味あらん? なにゆえそこまで拘る?」
 花雫の答えに言葉を失う。
「われは静さまが仕舞うその刹那を、幾度もこの眼に収めて参りし。『めぐみ』、『ただしさ』、『うやまい』、『さとし』、いずれも然り。人の世は迷いと未練にて満ち、すべては己が心に宿るものなり。されど人は、なおも嘆く──『果たして是であったか』と。なにゆえか……それは憧れゆえにて候。うつつの世こそ、迷いと未練こそが真なる本質。それを美と見るか、あるいは醜と見るか……そは、人の心次第にて候。」
「我が匠盛に対する忠は絶対なり!」
 現路は言葉を振り絞った。
「弱き者ほど『絶対』と申したがる……己を奮い立たせるためか、それとも周囲を納得させるためか……なぜ未練を認めぬ? なにゆえ『妄』を忌む?」
 花雫は言葉でさらりと躱した。
「なぜ受け止めぬ……『妄』とてよかろう。生き恥とて知るは己のみ。他の者はなお称えようぞ……『そなたは『忠』に生きし侍なり』と……」
 花雫は微笑む。
「その笑み……何ゆえに……ならば、今一度問おう! そなたが静殿に捧ぐるは『忠』か、それとも『妄』か!」
 現路は心を切り刻まれても刃を振り回すように言葉を吐いた。
「いずれであろうが構わぬ! 誰が『忠』と言おうが『妄』と言おうが……静さまがわれらが主である限り……! そなたもまた、然らずや?」
 花雫はただ静かに微笑み、その姿を淡く消していった。
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