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第六章──信(たより)の愛し人、裏切りを超えて
69話
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「母上……父上……」
清は血に染まる両親を目の前に言葉を喪っている。病み上がりの身体はいうこと聞かず動けない。
「姉さま……な、何を……何をなさる……」
必死に手を伸ばす清。母、晴はこちらに手を伸ばしている。
──助けなければ……──
しかし、そこには刃物を持った白い面をかぶった鬼がゆらゆらと立っている。晴の背中に股がり、思い切り刃を晴の背中に突き立てた。血飛沫が舞う。白い面は赤く染まる。
「ぎゃぁぁぁ──」
晴の断末魔が屋敷に響く。鬼は晴の背中から無理やり刃を引き抜く。刃から赤い血がぽたり、ぽたりと滴っている。鬼は清に振り向くと、床を激しく踏み鳴らしながら近づいてくる……。
「このでき損ないめ……」
そして、そのまま清の胸を躊躇わず刺してくる。肉に食い込む刃が貫いてくる。しかし、痛みが身体に伝わらない。が……白い面をつけた鬼がなぜか口元から血が流れだす。
「このでき損ないが、何ゆえ称号を……」
目を見開く清。暗闇が辺りを覆っている。額には玉のような汗をかいている。
「また……この夢か……」
舞を舞った後はいつもこの夢を見る清。息を荒くしながら憎悪が蘇る。
「姉さま……なにゆえ……なにゆえ……」
清はむくりと起き上がり、羽織った着物を脱ぎ、胸元に巻いた晒し布をほどく。白い布地はうっすら血が滲む程度。しかし膨らんだ乳房も形こそあれ、そこには生々しい傷痕。生きているのが不思議だ。決して塞がることはない。今、刺されたと言われてもおかしくない傷痕なのだ。
「なにゆえ、この傷は塞がらぬ……。この刺し傷のほかにある、この痕は何ぞ……。なにゆえ痛まぬ……なにゆえ思い出せぬ……。わが記憶は、なぜいつもここより始まるのか……」
清はゆっくりと傷痕に手を置く。そしていつもの衝動が走る。
──この傷を自ら掻き毟らば、われ、死ねるやもしれぬ……。死出の旅路へ、逝くこと能わむのか……
──
そう思うと自然と指が立ち傷を掻きむしり、抉ってみたくなる。
「死ねる……」
そう呟くと笑いが止まらなくなる。力が指に入ろうとする。しかし、その時は決まって──
「いけませぬ……! 清さま……」
根音が腕を掴み、衝動を止めてくる。
「また夢を見られたのですか、清さま……」
心配そうに顔を覗き込む根子。
「根音……根子……すまぬ……すまぬ……」
根子は優しく晒し布を清の胸に巻きはじめる。巻き終わると清をゆっくり寝かせる。
「清さま……お疲れにて候。ゆるりとおやすみくだされ」
清は何度も「すまぬ」を繰り返し、目蓋を閉じる。身体の疲れは正直で深い眠りに誘われ寝息を立てる。
「根子……清さまは大丈夫であろうか……」
「わからぬ……されど、うちらが見張らねば、この衝動のまま清さまは……」
根子もため息をつく。
「この御身は本当は……」
根音が話し出すと根子が口をふさいだ。
「むやみに口に出すでない……まったく、ガキなのだから……」
いつもは言い返す根音だが、この清の無謀な衝動を止めた時は言い返さない。根子も「ガキ」という言葉は心なしか沈んでいた。
「次は『信』の徳を持つ女人が待つ……その後も試練は続く……疾く十四の徳をこの御身に刻まねば……持つものも持たず終わる……」
花根孖の二人はまた、深いため息をついた。
清は血に染まる両親を目の前に言葉を喪っている。病み上がりの身体はいうこと聞かず動けない。
「姉さま……な、何を……何をなさる……」
必死に手を伸ばす清。母、晴はこちらに手を伸ばしている。
──助けなければ……──
しかし、そこには刃物を持った白い面をかぶった鬼がゆらゆらと立っている。晴の背中に股がり、思い切り刃を晴の背中に突き立てた。血飛沫が舞う。白い面は赤く染まる。
「ぎゃぁぁぁ──」
晴の断末魔が屋敷に響く。鬼は晴の背中から無理やり刃を引き抜く。刃から赤い血がぽたり、ぽたりと滴っている。鬼は清に振り向くと、床を激しく踏み鳴らしながら近づいてくる……。
「このでき損ないめ……」
そして、そのまま清の胸を躊躇わず刺してくる。肉に食い込む刃が貫いてくる。しかし、痛みが身体に伝わらない。が……白い面をつけた鬼がなぜか口元から血が流れだす。
「このでき損ないが、何ゆえ称号を……」
目を見開く清。暗闇が辺りを覆っている。額には玉のような汗をかいている。
「また……この夢か……」
舞を舞った後はいつもこの夢を見る清。息を荒くしながら憎悪が蘇る。
「姉さま……なにゆえ……なにゆえ……」
清はむくりと起き上がり、羽織った着物を脱ぎ、胸元に巻いた晒し布をほどく。白い布地はうっすら血が滲む程度。しかし膨らんだ乳房も形こそあれ、そこには生々しい傷痕。生きているのが不思議だ。決して塞がることはない。今、刺されたと言われてもおかしくない傷痕なのだ。
「なにゆえ、この傷は塞がらぬ……。この刺し傷のほかにある、この痕は何ぞ……。なにゆえ痛まぬ……なにゆえ思い出せぬ……。わが記憶は、なぜいつもここより始まるのか……」
清はゆっくりと傷痕に手を置く。そしていつもの衝動が走る。
──この傷を自ら掻き毟らば、われ、死ねるやもしれぬ……。死出の旅路へ、逝くこと能わむのか……
──
そう思うと自然と指が立ち傷を掻きむしり、抉ってみたくなる。
「死ねる……」
そう呟くと笑いが止まらなくなる。力が指に入ろうとする。しかし、その時は決まって──
「いけませぬ……! 清さま……」
根音が腕を掴み、衝動を止めてくる。
「また夢を見られたのですか、清さま……」
心配そうに顔を覗き込む根子。
「根音……根子……すまぬ……すまぬ……」
根子は優しく晒し布を清の胸に巻きはじめる。巻き終わると清をゆっくり寝かせる。
「清さま……お疲れにて候。ゆるりとおやすみくだされ」
清は何度も「すまぬ」を繰り返し、目蓋を閉じる。身体の疲れは正直で深い眠りに誘われ寝息を立てる。
「根子……清さまは大丈夫であろうか……」
「わからぬ……されど、うちらが見張らねば、この衝動のまま清さまは……」
根子もため息をつく。
「この御身は本当は……」
根音が話し出すと根子が口をふさいだ。
「むやみに口に出すでない……まったく、ガキなのだから……」
いつもは言い返す根音だが、この清の無謀な衝動を止めた時は言い返さない。根子も「ガキ」という言葉は心なしか沈んでいた。
「次は『信』の徳を持つ女人が待つ……その後も試練は続く……疾く十四の徳をこの御身に刻まねば……持つものも持たず終わる……」
花根孖の二人はまた、深いため息をついた。
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