花仕舞師

RISING SUN

文字の大きさ
75 / 159
第六章──信(たより)の愛し人、裏切りを超えて

75話

しおりを挟む
「ここは……荒れ果てておる。それに匂いも……」
 かなり踏み荒らされた跡が目立つ。それに火薬や血の匂い。紛れもなくつわものどもが通った跡。
「清さま……御身お慎みくだされ。ただいま戦乱の最中と聞き及びます。確か、西嶺にしみねノ国と東洲とうしゅうノ国の戦……目指すは、その狭間にある高杜たかもりの里にて」
 根子が声をかけた。
「そうか……そこに新たなる徳がある。根子、根音……常々、面目次第もなきことよ。われがふがいなさ故、迷惑をかけ申して……」
「何を仰せに? 清さまは、やがて花仕舞師、最高位、花徳護神はなめぐみまもりがみノ天上花仕舞師となられる御方。これしき、何ほどのこともござりませぬ」
 根音が笑顔で答えた。
「花徳護神ノ天上花仕舞師……? 左様であったな……それがわれが務め。されど、なぜわれには記憶が欠けておるのか……いつの日か、思い出せるのだろうか……それに最高位……確かに姉さまは一族随一の仕舞師であったと聞き及ぶ……然れど……」
 険しい尾根道を歩きながら清は何かに引っ掛かりながら自問自答していた。
「お静まりあれ……清さま、誰ぞおる……」
 根音が小声で声をかけた。
「このような辺鄙の地にて、何を致しておる? しかも女と童にて……ここは危うき道ぞ」
 笠をかぶった男が足を止め清たちに声をかけた。清は庇うように根音と根子の前に立ちはだかった。
「危険は承知の上! されど、われらはこの先の高杜の里に用あり。そこに、預かるべき大切なものがございますれば」
「大切なもの、とな……高杜の里に……?」
 男は命をかけるほどのものがあったかと不思議そうな顔をした。
「人の心でござる!」
 根音が清の背後から声をかけた。
「人の心……とな?」
「左様にございます。『たより』の心をお預かりするため……されば、いかにしても参らねばならぬのです……それに……」
「それに……?」
「刻が……ござらぬように存じますれば」
「されど……今は戦乱の中。高杜の里も、その渦に巻き込まれん。さればこそ、拙者も急がねばならぬのだが……」
 男も焦りの顔が見える。
「ならばわれらも急がねばなりませぬ」
「待たれよ……! おぬしらの面持ちを見れば、その重きことは察する。ならば一つ、頼みを聞き届けてはくれぬか?」
「頼み……にてござるか?」
「左様! 高杜の里に、秋架という娘がおる。戦に巻き込まるるとも、待てと……信じて欲しいと……そう、伝えて欲しい……!」
 切実な声の響きに清は深く頷いた。
「承知仕った。手前、花仕舞師、宿清と申す。ここに控えしは従事の根音と根子。恐れながら、そちらさまの御名は……?」
「朝比奈……いや、篠原蒼真と申す。必ず……伝えてくれ……!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...