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第六章──信(たより)の愛し人、裏切りを超えて
77話
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「狭き処にて候えど……」
清たちは招かれ、秋架の住まう庵を訪れた。藁葺きの屋根も色褪せ、戸板は年月に蝕まれ、馴染まないほどに傾いており、開け閉めの際、軋む音がする。壁板も所々剥がれ、外の光が内に漏れ、すきま風が吹いてくる。住まいは質素で、秋架の立ち振舞いや内なる高貴なものを思うとあまりにも差があり過ぎると清は思った。
「あばら家とお思い召されましょうに……まこと、面目次第もなき次第にて、平にお許しくだされ」
秋架は申し訳なさそうに頭を下げた。
「お気になさいますな……こちらこそ、無理を申し上げての来訪ゆえ。面をお上げくだされ」
清は横に首を振った。
「さて、いかなる御用向きにて? 先ほど鉄殿より、徳を求めての御旅と伺いしが……それに、何故、われの名を御存じに?」
秋架は疑問をありのままぶつけた。
「奇怪なる御話と思し召されましょうが、手前はこの者どもと共に、あるものを求めて旅をいたす宿清と申す者にて候」
清は先ほど根子に咎められたことを覚え、慎重に話を始めた。
「あるもの、とは……?」
また不可思議な赴きを持つ清の言葉に興を覚え、言葉を待った。
「左様……それは人の心に宿るべき徳。そして、この高杜の地にて、その徳の一つ『信』を覚え、かくお伺い仕った次第」
清は秋架の振る舞いに引かれるように背筋を伸ばし答えた。
「さて、その徳とやら、見い出せ申すか? まこと、この里は人の信を以て成り立ちし里にて候。されど、かかる大事のものなど、そもや在りはせぬのではござらぬか……?」
「それは……偶然か、はたまた天の導きか。いずれにせよ、秋架殿、貴殿こそ、その徳を宿せし御方と見受け申す」
「われ……でござるか?」
秋架は驚いた後、微笑んだ。
「何を仰せに? われにはそのような徳などござらぬ。何かの御見誤りにては?」」
清は静かに息を吐き、静かに目を瞑った。そして目を開き、その真実を伝えた。
「手前は花仕舞師。すなわち、逝く定めにある者の身に浮かぶ『花紋様』の痣を祓い、その恐れや未練を解き放ち、その方が生きた証たる徳を輝かせ、安らかに世を送る役目にて候」
清は心苦しかった。つまりこれは死の宣告となんら変わりがないからだ。
「花仕舞師……花紋様の痣……そして、安らかに世を送る役目……?」
さすがの秋架も表情がみるみる変わる。しかし、清は使命を果たすために言葉をはっきりと続けた。
「さよう。そして、秋架殿……左手の甲には、その花紋様、確かに浮かびおわす。御命、残りわずかにて候……」
遠くで何やら騒ぎ立てる音が聞こえたが、二人には互いの声のみが心の内に響いていた。
清たちは招かれ、秋架の住まう庵を訪れた。藁葺きの屋根も色褪せ、戸板は年月に蝕まれ、馴染まないほどに傾いており、開け閉めの際、軋む音がする。壁板も所々剥がれ、外の光が内に漏れ、すきま風が吹いてくる。住まいは質素で、秋架の立ち振舞いや内なる高貴なものを思うとあまりにも差があり過ぎると清は思った。
「あばら家とお思い召されましょうに……まこと、面目次第もなき次第にて、平にお許しくだされ」
秋架は申し訳なさそうに頭を下げた。
「お気になさいますな……こちらこそ、無理を申し上げての来訪ゆえ。面をお上げくだされ」
清は横に首を振った。
「さて、いかなる御用向きにて? 先ほど鉄殿より、徳を求めての御旅と伺いしが……それに、何故、われの名を御存じに?」
秋架は疑問をありのままぶつけた。
「奇怪なる御話と思し召されましょうが、手前はこの者どもと共に、あるものを求めて旅をいたす宿清と申す者にて候」
清は先ほど根子に咎められたことを覚え、慎重に話を始めた。
「あるもの、とは……?」
また不可思議な赴きを持つ清の言葉に興を覚え、言葉を待った。
「左様……それは人の心に宿るべき徳。そして、この高杜の地にて、その徳の一つ『信』を覚え、かくお伺い仕った次第」
清は秋架の振る舞いに引かれるように背筋を伸ばし答えた。
「さて、その徳とやら、見い出せ申すか? まこと、この里は人の信を以て成り立ちし里にて候。されど、かかる大事のものなど、そもや在りはせぬのではござらぬか……?」
「それは……偶然か、はたまた天の導きか。いずれにせよ、秋架殿、貴殿こそ、その徳を宿せし御方と見受け申す」
「われ……でござるか?」
秋架は驚いた後、微笑んだ。
「何を仰せに? われにはそのような徳などござらぬ。何かの御見誤りにては?」」
清は静かに息を吐き、静かに目を瞑った。そして目を開き、その真実を伝えた。
「手前は花仕舞師。すなわち、逝く定めにある者の身に浮かぶ『花紋様』の痣を祓い、その恐れや未練を解き放ち、その方が生きた証たる徳を輝かせ、安らかに世を送る役目にて候」
清は心苦しかった。つまりこれは死の宣告となんら変わりがないからだ。
「花仕舞師……花紋様の痣……そして、安らかに世を送る役目……?」
さすがの秋架も表情がみるみる変わる。しかし、清は使命を果たすために言葉をはっきりと続けた。
「さよう。そして、秋架殿……左手の甲には、その花紋様、確かに浮かびおわす。御命、残りわずかにて候……」
遠くで何やら騒ぎ立てる音が聞こえたが、二人には互いの声のみが心の内に響いていた。
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