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第六章──信(たより)の愛し人、裏切りを超えて
81話
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清の背後から矢が頬を掠める。頬は切れ血が滴ったが、清は気にする素振りさえ見せず、逆に加速する。
「恐れを知らぬおなごか……」
鬼気迫る表情に圧倒される笹道。
「かまわぬ! あのおなごを射よ……二人も屠れば、さらに容易う里を明け渡そうぞ……」
怒号が静かな高杜に木霊する。その声に数本の矢が飛び交う。清の肩口に脚に矢が刺さる。それでも清は止まらなかった。
「清さま……それ以上は……もはや……」
根子が叫んだ。横たわる秋架の元へはあと一歩。
スブッ──
清の背中に一本の矢が突き刺さる。
「今度こそ……あのおなごは終わりじゃ……」
笹道は、にやりと笑い、勝ち誇ったような顔をしようとしたが、清はゆっくり、振り返る。
「卿のごとき、徳ある秋架殿への花霊々を妨ぐること、許さじ!」
声を荒げる清。そして清はその身体のまま秋架の元に辿り着いた。
「何じゃ、あのおなごは……不死身か……? それにあの面持ち……まるで物の怪よ……!」
矢が刺さった身体で笹道の心をその目力で刺し返す清に、蛇に睨まれた蛙のようにおとなしくなった。
「誰ぞ、早う……秋架殿を奥へお運びくだされ……秋架殿の命が尽きる前に……」
……しかし、誰一人として動こうとはしなかった。足は震え、目は逸らし、ただ刻だけが過ぎていく。
「お主は……何者ぞ? 何を企む……! その身、その血……まこと物の怪か……!?」
はっと、我に返った常影が叫んだ。
「些事にてござる……それよりも秋架殿を……奥へ……」
西嶺軍の威圧、清の物の怪の如くの振るまいに、皆足を震わせ動けない。清は誰も手を貸さない現状の中、秋架の身体を引きずるように中へ運び込もうとする。しかし、動かない。
「中へ運べばよいのだな……?」
男の声がした。
「あなたは……確か鉄殿……」
初めて高杜の里に訪れた際、罵声を浴びせた男だ。
「あの折は……誠に、済まなんだな。だが、お主の気迫に打たれて、誰もが身を竦めた……儂もその一人よ……されど、一人にてなお秋架さまを救わんとするお主を見て、動かずにはおれなんだ……」
鉄は負傷した秋架を抱えあげた。秋架はすでに虫の息だ。
清は黙ったまま俯く。
「鉄殿……お力、まこと感謝仕る……されど、我に秋架殿の命を救う術はありませぬ……ご期待には沿えませぬ……」
清は自身の限界を悔い、唇を噛んだ。
「そうか……ならば、秋架さまはこのまま……されど……秋架さまにとりて肝要なることなのだろう?」
「はい……それは確かにございます……」
「ならば、お主を信ずる……その瞳を……」
鉄は頷き、秋架を抱えたまま急ぎ足で運んだ……。
「かたじけない……根音、根子! 舞の支度を……秋架殿を仕舞うぞ……!」
「恐れを知らぬおなごか……」
鬼気迫る表情に圧倒される笹道。
「かまわぬ! あのおなごを射よ……二人も屠れば、さらに容易う里を明け渡そうぞ……」
怒号が静かな高杜に木霊する。その声に数本の矢が飛び交う。清の肩口に脚に矢が刺さる。それでも清は止まらなかった。
「清さま……それ以上は……もはや……」
根子が叫んだ。横たわる秋架の元へはあと一歩。
スブッ──
清の背中に一本の矢が突き刺さる。
「今度こそ……あのおなごは終わりじゃ……」
笹道は、にやりと笑い、勝ち誇ったような顔をしようとしたが、清はゆっくり、振り返る。
「卿のごとき、徳ある秋架殿への花霊々を妨ぐること、許さじ!」
声を荒げる清。そして清はその身体のまま秋架の元に辿り着いた。
「何じゃ、あのおなごは……不死身か……? それにあの面持ち……まるで物の怪よ……!」
矢が刺さった身体で笹道の心をその目力で刺し返す清に、蛇に睨まれた蛙のようにおとなしくなった。
「誰ぞ、早う……秋架殿を奥へお運びくだされ……秋架殿の命が尽きる前に……」
……しかし、誰一人として動こうとはしなかった。足は震え、目は逸らし、ただ刻だけが過ぎていく。
「お主は……何者ぞ? 何を企む……! その身、その血……まこと物の怪か……!?」
はっと、我に返った常影が叫んだ。
「些事にてござる……それよりも秋架殿を……奥へ……」
西嶺軍の威圧、清の物の怪の如くの振るまいに、皆足を震わせ動けない。清は誰も手を貸さない現状の中、秋架の身体を引きずるように中へ運び込もうとする。しかし、動かない。
「中へ運べばよいのだな……?」
男の声がした。
「あなたは……確か鉄殿……」
初めて高杜の里に訪れた際、罵声を浴びせた男だ。
「あの折は……誠に、済まなんだな。だが、お主の気迫に打たれて、誰もが身を竦めた……儂もその一人よ……されど、一人にてなお秋架さまを救わんとするお主を見て、動かずにはおれなんだ……」
鉄は負傷した秋架を抱えあげた。秋架はすでに虫の息だ。
清は黙ったまま俯く。
「鉄殿……お力、まこと感謝仕る……されど、我に秋架殿の命を救う術はありませぬ……ご期待には沿えませぬ……」
清は自身の限界を悔い、唇を噛んだ。
「そうか……ならば、秋架さまはこのまま……されど……秋架さまにとりて肝要なることなのだろう?」
「はい……それは確かにございます……」
「ならば、お主を信ずる……その瞳を……」
鉄は頷き、秋架を抱えたまま急ぎ足で運んだ……。
「かたじけない……根音、根子! 舞の支度を……秋架殿を仕舞うぞ……!」
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