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第六章──信(たより)の愛し人、裏切りを超えて
82話
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「……たまらぬわ……また無茶をしおる……花化従よ、舞の支度を致せ……」
顔を歪めながら事の成り行きを遠くから眺める静。
「し、静さま……その御身にて舞われまするか……?」
花化従が手を貸そうとすると拒絶するようにはね除ける静。
「今なすべきことか……たわけ者め!」
「あっ……これは、わちとしたことが……どうか赦されよ。今より屋敷へ参られるでありんすか?」
「ここよりで良い……ここよりなれど、妾が仇花霊々の舞は届く……妾の舞、侮るなかれ……『怨』とは、信じし者に裏切られし時、心を腐らせるもの……『信』の崩れし時、もっとも深く根を下ろす情なり」
静は花断の面をそっとつけ、線香花火を掲げた。
「いざ、仇花霊々の舞にて候。花傀儡筆頭、花化従、此れに──」
花化従も花断の面をかぶり、唐傘、花傘を広げ、掲げられた静の線香花火に息を吹き掛けた。ふわっと灯火があがる。そして、その線香花火を預かる番人、仇花灯ノ籠ノ番人花左手に花火を預けた。
花化従が舞う。重い道中下駄を履いたまま、いとも容易く、見る者を惑わすように軽やかに、華やかに。そして漆黒の蕾を五つ実らせる。静がそれを見届けると舞いの始まりを知らせる花現身を唱えた。
──死せるも、恨みを忘れず。流れぬ涙は、あまねく人を呪う──
そして、刻を同じく、横たわり浅い呼吸をする秋架の目の前で、清も矢を身体に刺したまま、花告を唱える。
──『信』の灯が、夜を越え、最後の鼓動を導いた──
鉄は幻想的な舞いを見せつけられ、魅入られ言葉が途切れ途切れに出てくる。
「これが……秋架さまに必要なる舞か……なんと美しき……なんと幻想的な……」
ただただ、その光景にそれ以上の言葉は見当たらない鉄。
そして、二人が秋架のために、舞いを披露するなか、山の尾根を駆け降りてくる、一陣の騎馬。
先頭に立つのは、見覚えのある甲冑の男。深紅の裾が風を裂き、槍先には金糸で縫われた鷹司家の家紋がはためく。西嶺軍に囲まれた里の民たちを小高い丘から見下ろし、高らかに声をあげた。馬上で槍を掲げ、凛とした眼差しを宿すその男。かつて真名を名乗らなかった若武者が、今、堂々とその存在を刻みつけるように、風を割って進んでくる。
「我が名は、篠原蒼真。先の主君、鷹司文綱より託されし、高杜の『信』を護る最後の将なり──!」
高杜の民は声のする方を見上げた。そこには、里を護るためと追い出した男が高杜を護るためにと戻ってきたことに、畏れを抱き、希望の光の如く見た。
「……あれは……蒼真殿にあらずや……?」
「儂らはただ、厄を招く者と罵りしに……なんと……」
その姿に、里の衆たちはひれ伏した。
恥を忍び、信を貫き、戻ってきた者──それが蒼真だった。
「あぁ……蒼真殿の声が……聞こゆる……」
秋架は息がこと切れそうになりながらも、信じ続けた男の声を聞き取り、笑みを浮かべていた。
顔を歪めながら事の成り行きを遠くから眺める静。
「し、静さま……その御身にて舞われまするか……?」
花化従が手を貸そうとすると拒絶するようにはね除ける静。
「今なすべきことか……たわけ者め!」
「あっ……これは、わちとしたことが……どうか赦されよ。今より屋敷へ参られるでありんすか?」
「ここよりで良い……ここよりなれど、妾が仇花霊々の舞は届く……妾の舞、侮るなかれ……『怨』とは、信じし者に裏切られし時、心を腐らせるもの……『信』の崩れし時、もっとも深く根を下ろす情なり」
静は花断の面をそっとつけ、線香花火を掲げた。
「いざ、仇花霊々の舞にて候。花傀儡筆頭、花化従、此れに──」
花化従も花断の面をかぶり、唐傘、花傘を広げ、掲げられた静の線香花火に息を吹き掛けた。ふわっと灯火があがる。そして、その線香花火を預かる番人、仇花灯ノ籠ノ番人花左手に花火を預けた。
花化従が舞う。重い道中下駄を履いたまま、いとも容易く、見る者を惑わすように軽やかに、華やかに。そして漆黒の蕾を五つ実らせる。静がそれを見届けると舞いの始まりを知らせる花現身を唱えた。
──死せるも、恨みを忘れず。流れぬ涙は、あまねく人を呪う──
そして、刻を同じく、横たわり浅い呼吸をする秋架の目の前で、清も矢を身体に刺したまま、花告を唱える。
──『信』の灯が、夜を越え、最後の鼓動を導いた──
鉄は幻想的な舞いを見せつけられ、魅入られ言葉が途切れ途切れに出てくる。
「これが……秋架さまに必要なる舞か……なんと美しき……なんと幻想的な……」
ただただ、その光景にそれ以上の言葉は見当たらない鉄。
そして、二人が秋架のために、舞いを披露するなか、山の尾根を駆け降りてくる、一陣の騎馬。
先頭に立つのは、見覚えのある甲冑の男。深紅の裾が風を裂き、槍先には金糸で縫われた鷹司家の家紋がはためく。西嶺軍に囲まれた里の民たちを小高い丘から見下ろし、高らかに声をあげた。馬上で槍を掲げ、凛とした眼差しを宿すその男。かつて真名を名乗らなかった若武者が、今、堂々とその存在を刻みつけるように、風を割って進んでくる。
「我が名は、篠原蒼真。先の主君、鷹司文綱より託されし、高杜の『信』を護る最後の将なり──!」
高杜の民は声のする方を見上げた。そこには、里を護るためと追い出した男が高杜を護るためにと戻ってきたことに、畏れを抱き、希望の光の如く見た。
「……あれは……蒼真殿にあらずや……?」
「儂らはただ、厄を招く者と罵りしに……なんと……」
その姿に、里の衆たちはひれ伏した。
恥を忍び、信を貫き、戻ってきた者──それが蒼真だった。
「あぁ……蒼真殿の声が……聞こゆる……」
秋架は息がこと切れそうになりながらも、信じ続けた男の声を聞き取り、笑みを浮かべていた。
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