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第六章──信(たより)の愛し人、裏切りを超えて
80話
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「茶番は、もはや終わりか? 別段、かまわぬがな……『信』だの、『裏切り』だの……この里はすでに終わりぞ。今よりこの地は、西嶺軍の旗を靡かす地と成り果てるわ……」
笹道は皮肉を込めて二人の会話を醜い笑いで締めようとした。
「何を申されるか! この地、決して屈することはござらぬ! この地に『信』ある限り、西嶺の旗など、決して靡かせはせぬ!」
秋架は笹道の顔を睨み、立ちはだかった。それはその血がさせるのか、まるで人の上に立つ将の如く。
「やめられよ……秋架殿……無闇に煽るでない」
常影が秋架を止めようとする。が……
「面倒よ……矢を放て……逆らう者の末路、見せしめてやれ!」
笹道は手に持つ采配を振った。
「おやめくだされ──!」
常影は懇願したその刻……
ビュッー──
乾いた風を貫くように矢が放たれる。すべての刻が止まる。里の衆の目が一点に集まる。それは無情の貫き。
「えっ……」
秋架の胸に一本の矢が深く突き刺さり、矢の鉄の先が生々しく赤く染まり、秋架の背から顔を覗かせていた。そしてゆっくりと赤い雫がぽたりぽたりと、ゆっくりと止まることなく垂れていた。
秋架は膝を付いた。痛みが襲う。身体中が熱くなる。
「常影……これにて悟ったか? そのおなごの如く、民を屠るか? 構えよ!」
非常な仕打ちに常影をはじめ、誰一人逆らう気にはなれない。秋架の胸に突き刺さった、立った一本の矢は、なんら武力を持たぬ高杜の人々を失意のどん底に落とすには十分だった。
──われは、なにゆえ立ち上がりしや……あぁ……これぞ清殿の申されし花紋様の痣の力なるか……されど、もはや些事……たとえ叶わずとも、この地にてあの御方、蒼真殿を信じ、待ち続けたく候──
「誰ぞ……秋架殿を屋敷内へ運んでいただきたい──」
かまわず清が叫ぶ。
──このままでは、秋架殿、未練と悔恨を胸に抱きたるまま、黄泉路へ旅立たれん──
いつ矢が飛んでくるか分からぬ状態にも関わらず、清は飛び出してきた。案の定、清狙いを定める兵。
「清さま……危のうございますれば……」
根音が清を止めようと必死に追いかける。
「かまわぬ……! 今さら矢の一本や二本……この身に突き立とうと、いかがするか!」
花仕舞師としての本分を果たす強い意志があった。そして清は、矢が飛び交い、いくつもの矢が自らの身体を貫くかもしれぬ状況を想像していた。それは恐怖より、自らが知らず知らず、『死を向かえる』という高揚感が沸き上がり、笑みを浮かべていた。死を求める壊れた心と花仕舞師たる確固たる心──二つの想いが、清の中で渦を巻いていた。
笹道は皮肉を込めて二人の会話を醜い笑いで締めようとした。
「何を申されるか! この地、決して屈することはござらぬ! この地に『信』ある限り、西嶺の旗など、決して靡かせはせぬ!」
秋架は笹道の顔を睨み、立ちはだかった。それはその血がさせるのか、まるで人の上に立つ将の如く。
「やめられよ……秋架殿……無闇に煽るでない」
常影が秋架を止めようとする。が……
「面倒よ……矢を放て……逆らう者の末路、見せしめてやれ!」
笹道は手に持つ采配を振った。
「おやめくだされ──!」
常影は懇願したその刻……
ビュッー──
乾いた風を貫くように矢が放たれる。すべての刻が止まる。里の衆の目が一点に集まる。それは無情の貫き。
「えっ……」
秋架の胸に一本の矢が深く突き刺さり、矢の鉄の先が生々しく赤く染まり、秋架の背から顔を覗かせていた。そしてゆっくりと赤い雫がぽたりぽたりと、ゆっくりと止まることなく垂れていた。
秋架は膝を付いた。痛みが襲う。身体中が熱くなる。
「常影……これにて悟ったか? そのおなごの如く、民を屠るか? 構えよ!」
非常な仕打ちに常影をはじめ、誰一人逆らう気にはなれない。秋架の胸に突き刺さった、立った一本の矢は、なんら武力を持たぬ高杜の人々を失意のどん底に落とすには十分だった。
──われは、なにゆえ立ち上がりしや……あぁ……これぞ清殿の申されし花紋様の痣の力なるか……されど、もはや些事……たとえ叶わずとも、この地にてあの御方、蒼真殿を信じ、待ち続けたく候──
「誰ぞ……秋架殿を屋敷内へ運んでいただきたい──」
かまわず清が叫ぶ。
──このままでは、秋架殿、未練と悔恨を胸に抱きたるまま、黄泉路へ旅立たれん──
いつ矢が飛んでくるか分からぬ状態にも関わらず、清は飛び出してきた。案の定、清狙いを定める兵。
「清さま……危のうございますれば……」
根音が清を止めようと必死に追いかける。
「かまわぬ……! 今さら矢の一本や二本……この身に突き立とうと、いかがするか!」
花仕舞師としての本分を果たす強い意志があった。そして清は、矢が飛び交い、いくつもの矢が自らの身体を貫くかもしれぬ状況を想像していた。それは恐怖より、自らが知らず知らず、『死を向かえる』という高揚感が沸き上がり、笑みを浮かべていた。死を求める壊れた心と花仕舞師たる確固たる心──二つの想いが、清の中で渦を巻いていた。
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