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第六章──信(たより)の愛し人、裏切りを超えて
79話
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秋架が屋敷に辿り着くとそこには大勢の西嶺軍に取り囲まれた常影と里の民の姿だった。
「何ゆえ、このような仕打ちをなさるか……。この里はいずれの旗にも靡かぬこと、代々守り通してまいった。それは西嶺も東洲も、暗黙にて認めしことのはず……それを、なにゆえ今さら翻すのか?」
西嶺の軍を預かる将、笹道は笑いながら答えた。
「当初はな、この地の奥に隠るる東洲方の貯蔵庫を探るのみで足りたゆえ、里に通ずる者より密かに情報を得れば事足りるはずであった……」
「情報……まさか、内通者がおると申すか?」
里の衆が騒ぎ出す。
「されど、偶然にも兵どもが見つけおったわ。この里は貧しさを装いしながら、貯蔵庫には相応の蓄えがあるとな……」
「な、何と……あの貯蔵庫の件、まさか西嶺の所業にて候ふか……?」
里の衆たちは怒りが増してくる。かまわず話を続ける笹道。
「さらに申せば、この古道こそ、この地を制する要。ゆえにわれらが軍はこの里を拠点とし、東洲を討つ礎と致す。わが君主はこの里を欲しておられる……常影よ、再びわれらに力を貸せ。黙して里を差し出せば、民の命までは取らぬ……」
卑下た笑いを浮かべる笹道。
「な、なんという……それでは約定に背くではないか! この里に手出しせぬと誓いしゆえ、西嶺に与したというに……!」
常影は唇を噛み、拳を握り締めた。
「では……裏切りし者は、里長御身にてあらせられるか……!?」
里の衆は混乱した。『信』をこの里の守り神のように思っていたものが崩れていく瞬間だった。
「里長、それはまことにございまするか? 西嶺に通じ、なおかつその罪を蒼真殿に負わせたと申されるか……! 何ゆえそのような真似を……! この里の『信』を、土に貶めるおつもりか!」
秋架は二人の会話に割って入り、声を荒げた。
「致し方なかろう……! この里には頼むべき兵もなく、『信』などという実なきものだけでは、何ひとつ護れぬゆえ……せめて西嶺に縋るほかなかったのだ……!」
常影は悔しさを滲ませた。
「それにて人に罪を着せるは……道理が違うのではござりませぬか……」
凛とした表情で問う秋架。言葉を喪う常影。振り絞る声には力がない。
「……結局、儂は民を裏切り、それを里のためと信じた。されど、罪なき蒼真殿を贄とし、儂は己が心までも欺いた……その果てに……『信』そのものに見放されたのだ……」
この里が守り神ように崇めた『信』はその裏切りにより高杜の里を見放した。常影の言葉はそれを代弁しているようだった。
「何ゆえ、このような仕打ちをなさるか……。この里はいずれの旗にも靡かぬこと、代々守り通してまいった。それは西嶺も東洲も、暗黙にて認めしことのはず……それを、なにゆえ今さら翻すのか?」
西嶺の軍を預かる将、笹道は笑いながら答えた。
「当初はな、この地の奥に隠るる東洲方の貯蔵庫を探るのみで足りたゆえ、里に通ずる者より密かに情報を得れば事足りるはずであった……」
「情報……まさか、内通者がおると申すか?」
里の衆が騒ぎ出す。
「されど、偶然にも兵どもが見つけおったわ。この里は貧しさを装いしながら、貯蔵庫には相応の蓄えがあるとな……」
「な、何と……あの貯蔵庫の件、まさか西嶺の所業にて候ふか……?」
里の衆たちは怒りが増してくる。かまわず話を続ける笹道。
「さらに申せば、この古道こそ、この地を制する要。ゆえにわれらが軍はこの里を拠点とし、東洲を討つ礎と致す。わが君主はこの里を欲しておられる……常影よ、再びわれらに力を貸せ。黙して里を差し出せば、民の命までは取らぬ……」
卑下た笑いを浮かべる笹道。
「な、なんという……それでは約定に背くではないか! この里に手出しせぬと誓いしゆえ、西嶺に与したというに……!」
常影は唇を噛み、拳を握り締めた。
「では……裏切りし者は、里長御身にてあらせられるか……!?」
里の衆は混乱した。『信』をこの里の守り神のように思っていたものが崩れていく瞬間だった。
「里長、それはまことにございまするか? 西嶺に通じ、なおかつその罪を蒼真殿に負わせたと申されるか……! 何ゆえそのような真似を……! この里の『信』を、土に貶めるおつもりか!」
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「致し方なかろう……! この里には頼むべき兵もなく、『信』などという実なきものだけでは、何ひとつ護れぬゆえ……せめて西嶺に縋るほかなかったのだ……!」
常影は悔しさを滲ませた。
「それにて人に罪を着せるは……道理が違うのではござりませぬか……」
凛とした表情で問う秋架。言葉を喪う常影。振り絞る声には力がない。
「……結局、儂は民を裏切り、それを里のためと信じた。されど、罪なき蒼真殿を贄とし、儂は己が心までも欺いた……その果てに……『信』そのものに見放されたのだ……」
この里が守り神ように崇めた『信』はその裏切りにより高杜の里を見放した。常影の言葉はそれを代弁しているようだった。
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