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第七章──孝(いつくしみ)の若き子、親を忘れし心
96話
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「違いまする……! 清さまは断じてそのようなお方ではござりませぬ!」
根子が飛び出し清を庇った。そして根音も続く。
「清さまは花仕舞師としての務めを果たされ、お雪婆さまの死に際を『仕舞う』て、未練や後悔をこの世に残さぬようお見送りなされたのじゃ!」
「未練や後悔を……残さないように……それに清さ……ま……?」
突然の根子と根音の言葉にさらに動揺する幸吉。
「幸吉殿、そしてお朱鷺殿……誠に申し訳ござらぬ……されど、知っていただかねばならぬことがございまする。手前らは親子にあらず。手前とこの者どもは、花仕舞師と花護人。舞をもってその方の徳を成し、死を見送るを生業と致しております……そしてお雪殿の死期を察し、舞にて仕舞い見送ったのでございまする」
「わからぬ……そは戯言にしか聞こえぬ……わからぬ!」
唐突な清の告白に意味を知ることができず、叫ぶ幸吉。
「幸吉殿……どうかお雪殿の『仁』の御心を知りくだされ……届け──花文!」
清は幸吉の心に直にお雪の最期を見届けさせた。
「これが真実にございまする……ゆえに目を逸らさず、すべてを……お雪殿の御心をお受け取りなされませ……」
「これは……なんじゃ……お雪婆……なんと……この淋しき御姿は……かの凛とした御姿は何処へ……」
幸吉の心にまぼろしの如く姿が映る。それは清がお雪と対峙した日。昔は子どもらの声に囲まれ幸せそうにしていたお雪が一人囲炉裏にあたり、子供らから貰った文を手元に置き背を丸めている姿だった。
「なぜ……なぜこのような幻を見せる……! こんなのは……こんなのはお雪婆ではない!」
幸吉は膝をつき、頭を抱える。
「幸吉殿……真実に背を向けてはなりませぬ。それでも……お雪殿が何を想い、何を信じておられたか……幸吉殿が『孝』を語られるならば、知るべきことにございまする」
清は心を鬼とした。次々とお雪の言葉が幸吉の心を穿っていく。それは背中を丸めながら独り言のように呟くお雪自身の声。
届いた文を囲炉裏にくべようとしながら「……待つことのほか、何もできなんだわ……」、着物の袖をぎゅっと握り締め「……あの子ら、さぞや立派に育ったことであろうのう……」、囲炉裏の炎を見つめ「……あの子らに囲まれて、最期を迎えたかったものじゃて……」。幻とお雪の言葉が幸吉の心を抉り痛みを伴わせる。奉公先でお雪に教えを頂き、成長していった日々。だがその時の間、お雪はひとり、孤独に苛まれていた──。
すべてが虚しく感じられた幸吉。その胸に深い痛みが全身を駆け巡った。
そして、清がお雪に花文を使う姿が心に浮かび上がった。お雪が今まで世話をした子らが育った姿を花文で見せられた瞬間、お雪の表情から曇りが消えていた。
──「わしの想いが……成熟しておると申すか……。あの子らに、わしの想いが受け継がれておると……」──
「お雪殿はもちろん、そなたらに会いたき想いも確かにあらせられました……されど、それ以上に……大切に育てし想いが、子らに受け継がれておることに安堵なされたのでございます……」
泣き崩れる幸吉。
「幸吉殿……そなたは新山升や……すなわちお朱鷺さまの御父君の元、全うに力強く芯を通されました。それこそ……お雪殿が待ち望んでおられたこと……『孝』の真を示された証……ゆえに、これを……」
清は一歩近づき手を翳した。
「届け──花文! 幸吉殿にお雪殿の『仁』の御心を届け給え──!」
根子が飛び出し清を庇った。そして根音も続く。
「清さまは花仕舞師としての務めを果たされ、お雪婆さまの死に際を『仕舞う』て、未練や後悔をこの世に残さぬようお見送りなされたのじゃ!」
「未練や後悔を……残さないように……それに清さ……ま……?」
突然の根子と根音の言葉にさらに動揺する幸吉。
「幸吉殿、そしてお朱鷺殿……誠に申し訳ござらぬ……されど、知っていただかねばならぬことがございまする。手前らは親子にあらず。手前とこの者どもは、花仕舞師と花護人。舞をもってその方の徳を成し、死を見送るを生業と致しております……そしてお雪殿の死期を察し、舞にて仕舞い見送ったのでございまする」
「わからぬ……そは戯言にしか聞こえぬ……わからぬ!」
唐突な清の告白に意味を知ることができず、叫ぶ幸吉。
「幸吉殿……どうかお雪殿の『仁』の御心を知りくだされ……届け──花文!」
清は幸吉の心に直にお雪の最期を見届けさせた。
「これが真実にございまする……ゆえに目を逸らさず、すべてを……お雪殿の御心をお受け取りなされませ……」
「これは……なんじゃ……お雪婆……なんと……この淋しき御姿は……かの凛とした御姿は何処へ……」
幸吉の心にまぼろしの如く姿が映る。それは清がお雪と対峙した日。昔は子どもらの声に囲まれ幸せそうにしていたお雪が一人囲炉裏にあたり、子供らから貰った文を手元に置き背を丸めている姿だった。
「なぜ……なぜこのような幻を見せる……! こんなのは……こんなのはお雪婆ではない!」
幸吉は膝をつき、頭を抱える。
「幸吉殿……真実に背を向けてはなりませぬ。それでも……お雪殿が何を想い、何を信じておられたか……幸吉殿が『孝』を語られるならば、知るべきことにございまする」
清は心を鬼とした。次々とお雪の言葉が幸吉の心を穿っていく。それは背中を丸めながら独り言のように呟くお雪自身の声。
届いた文を囲炉裏にくべようとしながら「……待つことのほか、何もできなんだわ……」、着物の袖をぎゅっと握り締め「……あの子ら、さぞや立派に育ったことであろうのう……」、囲炉裏の炎を見つめ「……あの子らに囲まれて、最期を迎えたかったものじゃて……」。幻とお雪の言葉が幸吉の心を抉り痛みを伴わせる。奉公先でお雪に教えを頂き、成長していった日々。だがその時の間、お雪はひとり、孤独に苛まれていた──。
すべてが虚しく感じられた幸吉。その胸に深い痛みが全身を駆け巡った。
そして、清がお雪に花文を使う姿が心に浮かび上がった。お雪が今まで世話をした子らが育った姿を花文で見せられた瞬間、お雪の表情から曇りが消えていた。
──「わしの想いが……成熟しておると申すか……。あの子らに、わしの想いが受け継がれておると……」──
「お雪殿はもちろん、そなたらに会いたき想いも確かにあらせられました……されど、それ以上に……大切に育てし想いが、子らに受け継がれておることに安堵なされたのでございます……」
泣き崩れる幸吉。
「幸吉殿……そなたは新山升や……すなわちお朱鷺さまの御父君の元、全うに力強く芯を通されました。それこそ……お雪殿が待ち望んでおられたこと……『孝』の真を示された証……ゆえに、これを……」
清は一歩近づき手を翳した。
「届け──花文! 幸吉殿にお雪殿の『仁』の御心を届け給え──!」
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