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第八章──悌(したしみ)の絆、隠された友情の証
110話
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しばらくすると耶三淵村から村長、羽戸山宗稔の使いで息子の宗光が兵之助の元を訪ねてきた。
「父、宗稔が病に伏しておるゆえ、代理として参上仕り候。此度、幸吉殿の文に深く感銘を受け、耶三淵の地に学舎を建立せんと志し、そのご相談に伺いし次第にて候」
宗光はことの真相を兵之助に伝えた。
「宗稔殿のご子息か……それは遠路、よくぞ参られた。こちらもまた、今はなき幸吉の志を汲み、学舎の件にてお伺いせんと思うておったところにて候」
具体的な話し合いが始まり、誰に学舎の建築を頼むかまで話が進んだ。
「学舎の建築には、京にて名高き深井伝八殿にお任せ致したく存ずるが、いかがにて候や?」
「何? 伝八と申すか……?」
兵之助は伝八の名を聞くと一瞬で顔が曇った。
「いかがなされしや?」
「いや……確かに腕は確かじゃ。されど、伝八が首を縦に振るかどうか……奴はきっと、儂に良き感情を抱いてはおらぬであろう。なにせ、昔、ある社寺の建立にて揉めたことがあってな……その社寺こそが、礼尊寺。それ以来、奴とは縁を絶っておったが……されど此度の学舎の由来を思えば、適任は伝八をおいて他にはおらぬ……」
兵之助は渋りはしたが、一度、伝八に話をすることで決着した。
「伝八か……まさか、ここで奴の名を耳にすることになろうとは……礼尊寺の一件、今も奴は根に持っておるやもしれぬ……いや、儂がただ引き摺っておるだけかも知れぬな……」
この夜、兵之助は床についたが眠れず、過去の因縁を思い出していた。
兵之助と伝八。ふたりはかつて、貧しい村で『義兄弟の契り』を交わした間柄だった。兵之助は伝八より五つ上。
時は移り、それぞれが道を決めた時、兵之助は商人として、伝八は匠として道を進んだ。
二人は精を出し伝八は若くして匠の棟梁。無骨で頑固だが、義に厚く、仲間を何より大事にする性格だった。兵之助は若き商人。世渡り上手で笑顔を絶やさぬが、内には計り知れぬ商への飽くなき信念を抱いていた。二人には「町を豊かにしたい」という夢を共有していた。伝八は「屋敷を建てて人を守りたい」、兵之助「商いで人を豊かにする」、仕事が落ち着くと夜な夜な二人は酒を交わし、そう夢を語り合っていた。
──伝八よ……そなた、今いかがおるか……風の噂には聞き及んでおるぞ。次々と立派な屋敷を築き上げておると……相も変わらず、あの口癖を申しておるのか……「屋敷は、人を守る器だ。心がなきゃ、ただの木の箱だ」と……。此度の学舎、匠としてはそなたが他ならぬ相応しき男よ……じゃが、儂が口を挟めば……そなた、今もなお儂を赦してはおらぬやもしれぬな……──
「父、宗稔が病に伏しておるゆえ、代理として参上仕り候。此度、幸吉殿の文に深く感銘を受け、耶三淵の地に学舎を建立せんと志し、そのご相談に伺いし次第にて候」
宗光はことの真相を兵之助に伝えた。
「宗稔殿のご子息か……それは遠路、よくぞ参られた。こちらもまた、今はなき幸吉の志を汲み、学舎の件にてお伺いせんと思うておったところにて候」
具体的な話し合いが始まり、誰に学舎の建築を頼むかまで話が進んだ。
「学舎の建築には、京にて名高き深井伝八殿にお任せ致したく存ずるが、いかがにて候や?」
「何? 伝八と申すか……?」
兵之助は伝八の名を聞くと一瞬で顔が曇った。
「いかがなされしや?」
「いや……確かに腕は確かじゃ。されど、伝八が首を縦に振るかどうか……奴はきっと、儂に良き感情を抱いてはおらぬであろう。なにせ、昔、ある社寺の建立にて揉めたことがあってな……その社寺こそが、礼尊寺。それ以来、奴とは縁を絶っておったが……されど此度の学舎の由来を思えば、適任は伝八をおいて他にはおらぬ……」
兵之助は渋りはしたが、一度、伝八に話をすることで決着した。
「伝八か……まさか、ここで奴の名を耳にすることになろうとは……礼尊寺の一件、今も奴は根に持っておるやもしれぬ……いや、儂がただ引き摺っておるだけかも知れぬな……」
この夜、兵之助は床についたが眠れず、過去の因縁を思い出していた。
兵之助と伝八。ふたりはかつて、貧しい村で『義兄弟の契り』を交わした間柄だった。兵之助は伝八より五つ上。
時は移り、それぞれが道を決めた時、兵之助は商人として、伝八は匠として道を進んだ。
二人は精を出し伝八は若くして匠の棟梁。無骨で頑固だが、義に厚く、仲間を何より大事にする性格だった。兵之助は若き商人。世渡り上手で笑顔を絶やさぬが、内には計り知れぬ商への飽くなき信念を抱いていた。二人には「町を豊かにしたい」という夢を共有していた。伝八は「屋敷を建てて人を守りたい」、兵之助「商いで人を豊かにする」、仕事が落ち着くと夜な夜な二人は酒を交わし、そう夢を語り合っていた。
──伝八よ……そなた、今いかがおるか……風の噂には聞き及んでおるぞ。次々と立派な屋敷を築き上げておると……相も変わらず、あの口癖を申しておるのか……「屋敷は、人を守る器だ。心がなきゃ、ただの木の箱だ」と……。此度の学舎、匠としてはそなたが他ならぬ相応しき男よ……じゃが、儂が口を挟めば……そなた、今もなお儂を赦してはおらぬやもしれぬな……──
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