花仕舞師

RISING SUN

文字の大きさ
114 / 159
第八章──悌(したしみ)の絆、隠された友情の証

114話

しおりを挟む
「兵之助殿はおられまするか?」
 伝八に文を認め上げ、宗光を送り届けたあと、御座所に戻り時間を過ごしていた兵之助の元に声がかかる。
「その声は清殿か? 遠慮なされず、参られよ」

 スウッッ──

 障子が心穏やかに開く。兵之助は耳を澄ますようにその音を聞いていた。
「この屋敷、まこと恐れ入りまする……区切り区切りの戸、心地よく開き、気鬱きうつなく胸の内晴れやかにございまする。まこと、心の宿にて候な」
 兵之助は清の言葉に感嘆する。
「まさかこの屋敷の戸に想いを馳せてくれようとは……これは儂が契りを交わしたる、ある男の匠のわざにてな。そやつ、常にこう申しておった……『屋敷は、人を守る器だ。心がなきゃ、ただの木の箱だ』と……」
「左様にて候か……まこと立派なる匠の業にて候な」
 清は言葉を受け入れ、感嘆のため息をついた。
「ところで、旅の疲れは癒え申したか? このたびはよくぞ朱鷺をここまでお連れくだされた……言葉に尽くせぬほど感謝いたす。腹の内の稚児ややこも、さぞや礼申したかろうて」
 兵之助は頭を下げた。
「こちらこそ、ここまでお世話になり申した……ところで、先ほどの御方は? 何やら急ぎ足にて出て行かれた様子にて……」
「あれは弥三淵の村長、羽戸山宗稔はどやまむねとし殿のせがれ、宗光殿にて候。清殿もご存知の通り、弥三淵に学舎を建てるため、こちらまで遣いとして参られたのじゃ。そしてその学舎建立の要となる匠の元へ向かわれた……その要、奴をおいて他になしと踏んでおる」
「もしや、その奴とは、この屋敷を建て、契りを交わされたという匠にてござりまするか?」
「その通りよ……されど、過去、ある寺を建てる折に揉めての……いまだそのわだかまり、続いておる……お互いの信念のずれが、そうさせ申したか……よもや、礼尊寺れいそんじ建立の折に……」
 まるで懐かしむように、それでいて悔いいるように、微かに肩を震わせ目を閉じる兵之助。
「礼尊寺……もしや零闇れいあんさまの礼尊寺にてござりまするか?」
「零闇殿をご存じと? さよう、零闇殿の礼尊寺にて候……」
「そうでござりまするか……よろしければ、その折、何があったかお聞かせ願えませぬか?」
 清は一度、真っ直ぐ兵之助の目を見据え、頭を下げた。
「ほんに不思議な御方よ、清殿は……心許せる、まこと不思議な御方にて候……」
 遠くで朱鷺と根音、根子が戯れる声がする。兵之助はその声をまるで、後の世に生まれる孫の声と重ねていた。静かに笑う兵之助は口を開いた。
「これは女房にも朱鷺にも、幸吉にも話したことのなきことにて候……これもまた、縁《えにし》というものか……さて、何と申すべきやら……」
 兵之助は礼尊寺建立の際の出来事を清に話聞かせた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...