花仕舞師

RISING SUN

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第八章──悌(したしみ)の絆、隠された友情の証

119話

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「零闇殿とな……! ちと失礼仕るぞ。宗光殿……此度ばかりは諦められい……しかしながら、今日は客人の多きことよ。久方ぶりにて、まこと不思議なることなり」

 コホンッ──

 咳をし、宗光を残し、玄関口にそろりそろりと出向く伝八。玄関に立つ女を見て、すぐに朝方来た女の言葉を思い出す。

 ──花仕舞師という言の葉、また耳にすることと相成りましょう……ただ、その者、うつけ者ゆえ、伝八殿を惑わすやもしれませぬ……静かに余生を送りたくば、耳を塞がれよ……──

「うつけ者とは、そなたのことかや?」
 唐突に伝八は試すように声を出した。
「うつけ者……? 今度はうつけと仰せらるるか。さては姉さまが、また不躾にも伝八殿を訪われたのでござろう。名は宿静、手前が姉にて候」
「これはこれは、無礼の段、平にご容赦あれ。そなたの姉君にてあったか……して、もうひとつ、そなたも花仕舞師にて候か?」
「左様にて候」
「ならば……この左手の甲の痣、そなたにも見えるや?」
 伝八は左手の甲を清に見せる。
「確かに……花紋様の痣、しかと見えまする。まことに心苦しきことながら……」
 伝八は清の言葉を遮った。
「申すな。……もうじき死ぬのであろう、この儂は……そして、それを仕舞いに参ったのか? それは、今か……?」
「まだ色づきは浅うございます。いましばしの猶予はございましょう。本日は礼尊寺と零闇殿の件にて、まかり越しました」
「なんと……あの張りぼて寺のことか……ただの木の箱寺よ……」
 静に『木の箱』と揶揄され、自虐的に嗤う伝八。
「おやめなされ、伝八殿! 姉、静より何を申されたかは存じませぬが、それは零闇殿への侮りにて候。そしてまた、己が誉れを貶めて何の益あらんや?」
 清は強く心から言葉を練りだした。清の中の『うやまい』の徳が騒ぎ出す。
「いや、零闇殿を侮る気は毛頭ない。むしろ心苦しく思うておる。あの寺は崩れ去ったのであろう? 守るべき器が、あっけなく潰えたと……それではならぬ。『人を守る器』は、いかなる時も揺るがず在らねばならぬ。それが崩れた。何が『比類なき妙作の至り』か……ゆえに木の箱寺と申すのだ」
 清は冷静に笑う。
「ほんに堅きお考えにて候な。されど、手前はその崩れ落ちんとする本堂にて、零闇殿と相まみえ申した。零闇殿はかく仰せられた「いずれ倒壊するやもしれぬこの本堂。しかし、この本堂こそ手前の心。この心と共にした本堂にお誘いすることなく、手前は客人としてこのように立ち話をするわけにはいかないと感じております。それが手前の考える『うやまい』と考えておりますが……いかがか? 手前の最たる『礼』を受けられるか?』と。手前はその本堂にて、零闇殿と命の対峙を果たし申した。心と共に在るは、これぞ『人を守る器』にて候。『人を守る器』とは、命ばかりか、心をも守るもの……それこそ、伝八殿の匠の極みにあらずや?」
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