花仕舞師

RISING SUN

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第九章──忍(しのび)の想い、秘めし愛の守り手

141話

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「されば何と申させる? たとえげに真なりとも、妾が死のうが知れたことよ。されど緋美がかくも歪みし姿にて演者の道を進まば……妾は堪えられぬ。忍び歩みしこの道……愛し子が歪みし形にて役者となり、その芸にて拍手喝采浴びるやもしれぬ。されど心砕けしままの緋美……からくり人形のごとく称えられつつも、魂なき傀儡にてあろうぞ……」
 紅花は唇を噛み締める。
「ならば、なにゆえ緋美殿が斯様な姿となられた? 仮に手前が姉、静が関わりしとて、心砕けるほどの事ありしやもしれぬ。心当たり、ござらぬか?」
 息を詰まらせる紅花。
「それは……そちに語るべきことにあらず」
 躊躇いながらも口を噤む紅花。
「それでよろしきか? 緋美殿の苦しみを誰より受け止める紅花殿が、その救いの道を自ら断ち切ると申されるか?」
 口調は穏やかなれど紅花の心に清の言葉が刺さってくる。今、散る花弁が心を埋めていく。紅花は花弁の濁流に飲み込まれそうになる。足掻けば足掻くほど沈んでいく。
「たとえ命尽きるとも、誰の助けも要らぬ。緋美は妾がこの手にて守り抜く……」
 左手の甲を見ながら紅花は決意を述べる。
「左様か……紅花殿は、そのつみを胸に抱いたまま、黄泉路に旅立ってもよいと申されるのだな」
「然り……緋美が元の優しき子に戻るならば……我はつみを抱きたまま黄泉路に赴く覚悟ぞ。それ以上も以下もなし。これぞ堪え忍びし道にて候」
 目力を強め清を睨む。踠きながらも緋美という輝く緋色を掴もうとする紅花。

 ──妾が紅よりもなお鮮やかに、最も深く映ゆる緋の色。ゆえにこそ、まこと正しき情熱のまま、清らかに在りて欲しきものなり──

 しかし、清はため息をつく。それは、紅花を地獄に叩き落とす言葉と知りながらそれでも、花仕舞師としての本分を貫くために。
「紅花殿……そなたの覚悟、しかと心得申した。されど……そなたが先ほど見し左手の甲……そこには花紋様の痣など、ひとかけらもござらぬぞ……」
「何……? つい先ほどまで『痣がある』と申したではないか……そなたの言葉、たばかりか……! 我を愚弄するか!」
 肩口から振るわせ怒りを露にする紅花。
「違いまする……虚言にあらず。花紋様の痣、浮かび上がるは……緋美殿にて候。それはいかに紅花殿が足掻こうとも逃れられぬ運命さだめ。それでもなお、はばかられまするか?」
「なっ……!」
 紅花の瞳が大きく見開かれた。その口は言葉を紡ぐことを忘れ、ただわずかに震えるのみ。左手が宙を彷徨い、指先が凍りつく。掴むものもなく、花弁の中でただ沈むように力を失っていく。

ひらり……ひらり……

 花が散る音だけが、冷たき現実を告げるように響いていた。言葉と心を失う紅花。清の言葉に紅花は深く……深く、儚く美しい底のない花弁の沼に沈んでいく思いがした。
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