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第九章──忍(しのび)の想い、秘めし愛の守り手
140話
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「何があった……何ゆえに斯様な姿となりし……『母上さまが逝かれた事実を胸に刻めば……』とな……!? もしや……」
紅花は緋美のあまりの変貌にある答えを見いだした。
「されど、そのまことを知るは座元のみ……しかも先ほどまで帳場にて打ち合わせをしておった。座元が語るとは考え難し……」
紅花は頭に巡らせる。
「いかがなされしや? そちは千種座の紅花殿とお見受け申すが……」
清が声をかける。
「……やや、そなたは……この間の……」
緋美が団子屋前でぶつかった子の連れの女と思った。
「はい、左様にございます。先ほどの童女……あの日に見し姿と余りに変わり果ており申したゆえ……」
清は紅花の動揺、緋美の変わりように、素直に問いただした。
「いや、何もござらぬ……これより急ぐ故、御免……」
紅花は急ぎ足でその場を去ろうとした。
「お待ちくだされ……実はこの数日、左の手の甲に花紋様の痣が浮かび出で候。その痣、我らとて看破し得ぬ事情ゆえ、ここに参上仕り候」
「花紋様……? 花紋様とは何事ぞ……? いつぞや漆黒の衣を纏いし女も、そのようなことを申しておったが……痣など、ここには何も……」
「漆黒の衣……? ここに……もしや、あの童女の変わりよう……手前の姉さまが……」
「そなたの姉御……? もしや、そなたらが緋美に何やらしたのか!?」
言葉の調子があがる紅花。
「左様なこと、わかりかねまする。されど花紋様とは……幽世への橋渡し、すなわち死を告ぐる印にございます。それは逃れ得ぬ定め……そしてそれは花仕舞師のみが目にすること能う印……」
「何を訳わからぬことを……」
焦りからか苛立ちを覚える紅花。
「手前らは花仕舞師……痣を持つ者を徳にて未練より解き放ち、彼の世へ導く者にて候」
「花仕舞師……と申すか……?」
さらに頭の中で整うことが困難になる紅花。
「左様……そなたが舞台にて演じし死仕舞師……まことの名は花仕舞師……」
清は毅然と言い放つ。
「ならば、そちは物の怪か?」
汗が額から滲み出る。桜の花弁がそよそよとひとひら舞っている。
「否、違いまする。『花死奇談』とは、花仕舞師を畏れ敬いし民草が御伽噺としたまで……まことは物の怪にあらず、人の身にて候。もし物の怪と呼ぶならば、それは拙者ら花護人……花仕舞師の舞を支え、これを補佐する者にて候」
根子が口を挟みすべての細い糸が絡み合いはじめる。
「そうか……故にあの時、そなたの姉は申したのか……「『実の舞』を見届けられましょうぞ。死仕舞師……いや、真の名は花仕舞師の舞を……」と……」
紅花はぽつりと呟いた。桜舞い散る中、紅花の胸奥に、一筋の恐れと確信が交じりゆく。
紅花は緋美のあまりの変貌にある答えを見いだした。
「されど、そのまことを知るは座元のみ……しかも先ほどまで帳場にて打ち合わせをしておった。座元が語るとは考え難し……」
紅花は頭に巡らせる。
「いかがなされしや? そちは千種座の紅花殿とお見受け申すが……」
清が声をかける。
「……やや、そなたは……この間の……」
緋美が団子屋前でぶつかった子の連れの女と思った。
「はい、左様にございます。先ほどの童女……あの日に見し姿と余りに変わり果ており申したゆえ……」
清は紅花の動揺、緋美の変わりように、素直に問いただした。
「いや、何もござらぬ……これより急ぐ故、御免……」
紅花は急ぎ足でその場を去ろうとした。
「お待ちくだされ……実はこの数日、左の手の甲に花紋様の痣が浮かび出で候。その痣、我らとて看破し得ぬ事情ゆえ、ここに参上仕り候」
「花紋様……? 花紋様とは何事ぞ……? いつぞや漆黒の衣を纏いし女も、そのようなことを申しておったが……痣など、ここには何も……」
「漆黒の衣……? ここに……もしや、あの童女の変わりよう……手前の姉さまが……」
「そなたの姉御……? もしや、そなたらが緋美に何やらしたのか!?」
言葉の調子があがる紅花。
「左様なこと、わかりかねまする。されど花紋様とは……幽世への橋渡し、すなわち死を告ぐる印にございます。それは逃れ得ぬ定め……そしてそれは花仕舞師のみが目にすること能う印……」
「何を訳わからぬことを……」
焦りからか苛立ちを覚える紅花。
「手前らは花仕舞師……痣を持つ者を徳にて未練より解き放ち、彼の世へ導く者にて候」
「花仕舞師……と申すか……?」
さらに頭の中で整うことが困難になる紅花。
「左様……そなたが舞台にて演じし死仕舞師……まことの名は花仕舞師……」
清は毅然と言い放つ。
「ならば、そちは物の怪か?」
汗が額から滲み出る。桜の花弁がそよそよとひとひら舞っている。
「否、違いまする。『花死奇談』とは、花仕舞師を畏れ敬いし民草が御伽噺としたまで……まことは物の怪にあらず、人の身にて候。もし物の怪と呼ぶならば、それは拙者ら花護人……花仕舞師の舞を支え、これを補佐する者にて候」
根子が口を挟みすべての細い糸が絡み合いはじめる。
「そうか……故にあの時、そなたの姉は申したのか……「『実の舞』を見届けられましょうぞ。死仕舞師……いや、真の名は花仕舞師の舞を……」と……」
紅花はぽつりと呟いた。桜舞い散る中、紅花の胸奥に、一筋の恐れと確信が交じりゆく。
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