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第九章──忍(しのび)の想い、秘めし愛の守り手
151話
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千種座入り口。貼り出された番付に演目、役名が書き出されている。縦書きに筆文字楷書、背景桜満開浮世絵風。色彩鮮やか朱に藍、黄の三色刷り。
──『花死奇談、真綴、端女ノ姫、信物語』
秋姫、緋月夜桜
花仕舞師、紅花──
晴天により、抜ける空に陽射しが燦々と振りかざす。千種座の前は波寄せるほどの人集り。新たに始まる演目、そして紅花の娘が物語の芯として据えられ、初御目見えとあらば、噂が噂を呼び大挙なる押し寄せ納得せざるを得ない。大入御礼、初日より大入り御免。
「本日、紅花殿の御息女、初舞台にて候。きっと紅花殿の如く、われらが心を魅了すること疑いなし」
好意的な見物衆もあれば、
「まだ十と聞き及ぶ。そのような者に物語の芯など務まろうや? せいぜい話題集めにてあろうよ……」
と、否定的な見物衆もいる。ただ訪れる見物衆の話題はよくも悪くも緋美に集まっていた。緋美は芸名、緋月夜桜と名づけられた。これは紅花が想い強く、緋美に預け願い、命名したものだ。
楽屋、緊張した赴きの顔をした緋美。薄く白粉を塗り、紅を張り時を待つ。座元、市三朗が声をかける。
「緋月夜桜よ……げに美しき姿よ。まこと紅花殿にも勝るやもしれぬ。いや、齢わずか十にてすでに越えたりと言うべし。見物衆、初日に足を運びし甲斐、ただその一目にて価値あらん……」
笑いながら楽屋をあとにする。
また、紅花と同じ女方の夏朝里や、秋步も緋月夜桜の美しさに嫉妬する。しかしながら、笑みを浮かべ肩を叩き激励する。
「緊張いたすな。初舞台にて緊張せぬは無理なれど、いざとなれば助け船、必ず出す所存にて候ぞ」
それぞれ、楽屋を出ていく。
座元や座員たちの激励を微笑ましく見つめ、紅花はそっと緋月夜桜に寄り添う。
「母上さま……うまくやれましょうや? 緋美……いえ、緋月夜桜は……昨日より眠れず、今もなお心の臓、ばくばくと鳴り響き候……」
「案ずるに及ばず……緋美……いや、今は緋月夜桜よ。これを……」
「これは……?」
絹綾の小袋を渡す紅花。
「これは、われらが里を出でし折、直訴を申し上げしとき、領主、鷹司弓定さまより温情を賜りし際、授かりし鷹司家の御守りにて候。鷹司家、さらには秋架さまも、きっと見守りくださるであろう……」
「秋架さま……」
緋美は懐に絹綾の御守りを入れ、祈る。
「どうか、この緋月夜桜にお力を……そして秋姫として、見物衆に夢を授くる役者となるべく、見守り給え……」
「参るぞ……緋月夜桜よ……心のままに……演じ申せ」
緋月夜桜は立ち上がり、舞台花道に向かう。その姿のみで十とは思えず、裏方みな、息を呑んだ。
そしてその陰に清が舞台袖で身を置き、舞台を見つめていた。そして、また……漆黒の着物を纏いし姿はすべてを見物席から見渡していた。
──『花死奇談、真綴、端女ノ姫、信物語』
秋姫、緋月夜桜
花仕舞師、紅花──
晴天により、抜ける空に陽射しが燦々と振りかざす。千種座の前は波寄せるほどの人集り。新たに始まる演目、そして紅花の娘が物語の芯として据えられ、初御目見えとあらば、噂が噂を呼び大挙なる押し寄せ納得せざるを得ない。大入御礼、初日より大入り御免。
「本日、紅花殿の御息女、初舞台にて候。きっと紅花殿の如く、われらが心を魅了すること疑いなし」
好意的な見物衆もあれば、
「まだ十と聞き及ぶ。そのような者に物語の芯など務まろうや? せいぜい話題集めにてあろうよ……」
と、否定的な見物衆もいる。ただ訪れる見物衆の話題はよくも悪くも緋美に集まっていた。緋美は芸名、緋月夜桜と名づけられた。これは紅花が想い強く、緋美に預け願い、命名したものだ。
楽屋、緊張した赴きの顔をした緋美。薄く白粉を塗り、紅を張り時を待つ。座元、市三朗が声をかける。
「緋月夜桜よ……げに美しき姿よ。まこと紅花殿にも勝るやもしれぬ。いや、齢わずか十にてすでに越えたりと言うべし。見物衆、初日に足を運びし甲斐、ただその一目にて価値あらん……」
笑いながら楽屋をあとにする。
また、紅花と同じ女方の夏朝里や、秋步も緋月夜桜の美しさに嫉妬する。しかしながら、笑みを浮かべ肩を叩き激励する。
「緊張いたすな。初舞台にて緊張せぬは無理なれど、いざとなれば助け船、必ず出す所存にて候ぞ」
それぞれ、楽屋を出ていく。
座元や座員たちの激励を微笑ましく見つめ、紅花はそっと緋月夜桜に寄り添う。
「母上さま……うまくやれましょうや? 緋美……いえ、緋月夜桜は……昨日より眠れず、今もなお心の臓、ばくばくと鳴り響き候……」
「案ずるに及ばず……緋美……いや、今は緋月夜桜よ。これを……」
「これは……?」
絹綾の小袋を渡す紅花。
「これは、われらが里を出でし折、直訴を申し上げしとき、領主、鷹司弓定さまより温情を賜りし際、授かりし鷹司家の御守りにて候。鷹司家、さらには秋架さまも、きっと見守りくださるであろう……」
「秋架さま……」
緋美は懐に絹綾の御守りを入れ、祈る。
「どうか、この緋月夜桜にお力を……そして秋姫として、見物衆に夢を授くる役者となるべく、見守り給え……」
「参るぞ……緋月夜桜よ……心のままに……演じ申せ」
緋月夜桜は立ち上がり、舞台花道に向かう。その姿のみで十とは思えず、裏方みな、息を呑んだ。
そしてその陰に清が舞台袖で身を置き、舞台を見つめていた。そして、また……漆黒の着物を纏いし姿はすべてを見物席から見渡していた。
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