152 / 159
第九章──忍(しのび)の想い、秘めし愛の守り手
152話
しおりを挟む
ざわつく場内、待ちきれず、『緋月夜桜』名を呼ぶ見物衆。負けじと御贔屓筋の『紅花』押す声。場内、それはまこと不思議な異世界。松明、瞬時に消え、場内しばらく暗転す。花道徐々に松明灯り、下座音楽鳴り響く。三味線、太鼓、横笛と場内煽りし奏で、見物衆、高揚高まるなか、演者姿現す。各々見知った演者に拍手喝采。そして現る花形、紅花登場するは一際、響く拍手の波。割れんばかりの歓声、地鳴りの如し。毅然と歩く姿、看板花形偽りなし。しかしながら、本演目、まことの真打ちに非ず。
紅花舞台上がり、一段落つくと場内灯一斉に消ゆ。まこと花道、暗闇なり。静まる場内。
しん……しん……
まるで幻が如し足音。見物衆の息呑む音さえ赦されず。ただその足音に見物衆、酔いしれる。その足音追うが如くゆっくりと松明灯ると、そこに姿、現れるは……初御目見得、緋月夜桜。
「ありゃ十の立ち振舞ひか……まこと艶やかなるかな……」
「今宵、この姿、夢にまで見たきものよ……」
懐疑的に集まった見物衆さえ、心射貫かれる。
静まり返った場内、再度、下座音楽、流る。見物衆、本日一番の拍手乱れ咲く。先ほどまで、初舞台に恐れ、おののいていた姿一切なく、まるで舞台慣れした役者の如く、凛とした表情。
しん……しん……
歩く姿だけで絵になる役者、市三朗が唱えた「ただその一目にて価値あらん……」、まこと見物衆、否応無き一瞬の虜。
演者一斉に舞台に上がるが、すべからく視線集めるは緋月夜桜のみ。まるでその場に灯る灯りは緋月夜桜のためにある。演者、頭を垂れると黒子が、黒、萌黄、そして柿色の三色縦模様の定式幕を閉めた。
しばらくの舞台沈黙。始まりを待つ見物衆。今か今かと時が過ぎぬのを焦れったく思う見物衆。そして……
場内、静かに灯りが落ち、太夫の声が場内満たす。演劇、第一段が慎ましく厳かに幕が開ける。見物衆ざわつき、ぴたりと収まる。
──語りに候。
──これは、遥か昔のこと。
人の営み、小さきものどもが、四方を高き峰に囲まれ、静けさの中に息づく地ありけり。
その名を桐杜──。さながら神籬、社の奥に佇むが如く、世の争いより遠く、ただ時の流れに身を委ねし村なり。
されど、時は変わる。
東ノ国、西ノ国ありて、世を二分する覇道の焔、燃え広がるは必定にして、今まさに、国の威信を賭した戦が、山を越え、谷を越え、この桐杜にも忍び寄らんとせり。
西の軍は猛り狂い、東を攻めること雷の如く。
東はすでに力尽き、かの命脈も風前の灯──。
あらがえぬ風が吹く。西より東へ。その風こそが、時を映す鏡。
吹かぬなら、歴史もまた違えしやも。されど、吹きし風は止まず、いざ、運命を連れて参る。
──これぞ、花仕舞師たちが見つめし時代の端《はし》なり──
太夫の声と太鼓の音が鳴り響き、見物衆、まるでその場まで飛ばされた気分になった。
紅花舞台上がり、一段落つくと場内灯一斉に消ゆ。まこと花道、暗闇なり。静まる場内。
しん……しん……
まるで幻が如し足音。見物衆の息呑む音さえ赦されず。ただその足音に見物衆、酔いしれる。その足音追うが如くゆっくりと松明灯ると、そこに姿、現れるは……初御目見得、緋月夜桜。
「ありゃ十の立ち振舞ひか……まこと艶やかなるかな……」
「今宵、この姿、夢にまで見たきものよ……」
懐疑的に集まった見物衆さえ、心射貫かれる。
静まり返った場内、再度、下座音楽、流る。見物衆、本日一番の拍手乱れ咲く。先ほどまで、初舞台に恐れ、おののいていた姿一切なく、まるで舞台慣れした役者の如く、凛とした表情。
しん……しん……
歩く姿だけで絵になる役者、市三朗が唱えた「ただその一目にて価値あらん……」、まこと見物衆、否応無き一瞬の虜。
演者一斉に舞台に上がるが、すべからく視線集めるは緋月夜桜のみ。まるでその場に灯る灯りは緋月夜桜のためにある。演者、頭を垂れると黒子が、黒、萌黄、そして柿色の三色縦模様の定式幕を閉めた。
しばらくの舞台沈黙。始まりを待つ見物衆。今か今かと時が過ぎぬのを焦れったく思う見物衆。そして……
場内、静かに灯りが落ち、太夫の声が場内満たす。演劇、第一段が慎ましく厳かに幕が開ける。見物衆ざわつき、ぴたりと収まる。
──語りに候。
──これは、遥か昔のこと。
人の営み、小さきものどもが、四方を高き峰に囲まれ、静けさの中に息づく地ありけり。
その名を桐杜──。さながら神籬、社の奥に佇むが如く、世の争いより遠く、ただ時の流れに身を委ねし村なり。
されど、時は変わる。
東ノ国、西ノ国ありて、世を二分する覇道の焔、燃え広がるは必定にして、今まさに、国の威信を賭した戦が、山を越え、谷を越え、この桐杜にも忍び寄らんとせり。
西の軍は猛り狂い、東を攻めること雷の如く。
東はすでに力尽き、かの命脈も風前の灯──。
あらがえぬ風が吹く。西より東へ。その風こそが、時を映す鏡。
吹かぬなら、歴史もまた違えしやも。されど、吹きし風は止まず、いざ、運命を連れて参る。
──これぞ、花仕舞師たちが見つめし時代の端《はし》なり──
太夫の声と太鼓の音が鳴り響き、見物衆、まるでその場まで飛ばされた気分になった。
0
あなたにおすすめの小説
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる