花仕舞師

RISING SUN

文字の大きさ
154 / 159
第九章──忍(しのび)の想い、秘めし愛の守り手

154話

しおりを挟む
 幕引きが開く。舞台は最高潮の見せ場へと……禍矢に倒れた秋姫を花仕舞師が舞により仕舞う段取り。情景外では戦声が響くと語り部、太夫が声響かせる。見物衆固唾を飲んで見守る最中、紅花は葛藤する。

 ──われに力があれば、緋美を……ほんに仕舞うことができるのに……これは単なる演技……この緋美が苦しむ姿を我はただ仮初めの舞で仕舞う素振りをするだけ……──

 緋月夜桜の横たわる側で指図通り、舞を演じようとする。
「届け──花文!」
 背後から清が叫ぶ。紅花の心に清の声が届く。

 ──紅花殿……今より緋美殿を仕舞う舞、此方にて舞い申す。手前が唱ふるごと、声にて唱えられよ。今より、紅花殿こそ花仕舞師となられるのじゃ……──

 ──そんなこと……できるわけがない──

 ──舞うのです。手前、力を貸し申す。見物衆には、紅花殿が花仕舞師として舞うておるようにしか映らぬ。たとえ演技なれど、気を籠めて舞えば、それは真なる仕舞いと成り果てる……『いざ、花霊々はなたまがらの舞にて候。花護人筆頭、花天照はなあまてらす此れに』と、真心もて唱えられよ! さすれば手前と一体となり、その力、必ずや紅花殿に宿るであろう──

 清は舞台袖で線香花火を掲げ、花霊々の舞を舞っている。

 ──清殿……──

  紅花は意を決して唱える。
「いざ、花霊々の舞にて候。花護人筆頭花天照此れに──」
 場内漆黒に染まり、上空より翼を広げ黄金の髪をゆらめかせ、花天照が紅花の頭上に降臨する。花を統べる天つ乙女あまつのおとめが如く。純白の天衣無縫てんいむほうの衣に見物衆唖然とする。あまりにも現実離れした光景が舞台上で広がったからだ。

 カタン──ズゥ……カタン、コトン、スッ……
 カタン──ズゥ……カタン、コトン、スッ……

 花道から外八文字の道中下駄を履き、唐傘、花傘を指した花魁が歩いてくる。そして、その後ろを気品高く歩む漆黒の着物を纏い、白い花断の面をつけた女が歩いてくる。線香花火を掲げる。
「いざ、仇花霊々あだばなたまがらの舞にて候。花傀儡筆頭、花化従はなげしょう此れに──」

 ──やはり来たか……姉さま……見物衆いようとも緋美殿を仕舞うがために──

 花天照が紅花の頭上から清に向け息を吹き掛けると線香花火に火が灯る。火が灯ると花灯ノ籠ノ番人右手はなともしびのかごめのばんにんめてが現れ、清は番人に線香花火を渡す。
「これを持ち紅花殿の元へ……火は護り通すのですよ」
 右手めては黙ったまま頷き、紅花の元へずしりずしりと歩み寄る。見物衆は舞台で起こる幻想的な舞に言葉を喪う。
 そして、静も花化従の息吹にて灯った線香花火を仇花灯ノ籠ノ番人左手あだばなともしびのかごめのばんにんゆんでに渡す。市三朗、演者、裏方は舞台で何が起きているのか戸惑いながらも目が離せない。舞台では花天照が舞い身体から枝を生やし、舞台に突き刺さらせ真白の蕾を五つ実らせ、花道では花化従から生えた枝が同じように舞台に刺さり、漆黒の蕾を五つ実らせる。
 紅花は清が心に語りかける花告はなつげ言葉を一言一句間違わず唱える。

 ──しのびの痛み 声にせず ただ花となりて地に染む──

そして静も花現身はなうつしみを唱える。

 ──心に染みし罪よ。罰を受けるは、我が運命なり。ただし、深き闇の底へ──

 静まり返る見物衆。なぜならばそこに鏡の世界と雨が降りだす世界が広がったからだ。真白の蕾からは銀色の髪と目、水鏡の衣を纏う花護人弐、花水鏡はなみかがみ、漆黒の蕾からは青い髪と瞳、涙雫の衣を纏う花傀儡弐、花雫はなしずくが現れ舞を披露する。幻想的、かつ摩訶不思議な舞台上。それは横たわる緋月夜桜に寄り添うような舞。緋月夜桜に宿る徳、『しのび』と負の感情『つみ』が交互に激突する。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

処理中です...