闇堕ち騎士と呪われた魔術師

さうす

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6.盗賊

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「魔物の首、まあまあの値で引き取ってもらえて良かったな」
「びしょ濡れになった甲斐があったな、ランスロット」

 俺たちは市場の先にある森の中を歩いていた。マーリンが足を止め、指差した。

「あったぞ、泉だ」

 その小さな泉の水は澄んでいて、水浴びをするのにちょうど良さそうだった。
 俺は服を脱いで木に掛け、水にそっと足を入れた。
 程よく冷たくて、気持ち良い。

「ランスロット」
「何だよ、あんまり人の裸をじろじろ見るな」
「お前……」

 マーリンは水に浸かっている俺の背中をすーっと撫でた。

「傷だらけだな」
「あ?」

 俺は自分の身体を眺めた。確かに、あちこちに痛々しい傷跡が残っている。

「ああ、悪いな。見苦しいもん見せちまって」
「そんなことはない。これは、お前が懸命に生きてきた証だろう。だが、お前にこんな傷をつけるようなヤツがいるとは、許せないな」

 マーリンは泉のほとりに屈んで、自分の服が濡れるのも構わず、俺を後ろから抱きしめた。

「お前に……幸せになってほしい」
「……やめろよ」

 俺はマーリンの手を払った。
 あいつにも、幸せになれと言われた。だけど……。

「俺にはもう……幸せが何だか分かんねえよ」
「大丈夫だ、ランスロット。俺が幸せにしてやる」

 すぐに返ってきた意味不明な答えに、俺は笑ってしまった。

「やれるもんなら、やってみろよ」
「もちろんだ。必ず堕としてみせる」
「堕とす……? どこに?」
「俺の手元に、だ」

 マーリンは俺の耳元で囁いた。

「俺は……幸せとは、愛し愛されることだと思っている。ランスロット。お前がいつか勇者のことを忘れるくらいに、俺が愛してやる」

 そう言って、マーリンは俺の首筋に優しくキスをした。

「……好きだ、ランスロット」

 俺はドキッして、身体を硬直させた。

「お前が愛おしくてたまらない。お前の全てを支配したい」
「や、やめろ……!」

 俺は慌ててマーリンに水をぶっかけた。

「絶対勘違いだ!! 俺たちまだ出会って2日だぞ!?」
「お前は俺を知らなかっただろうが、俺は魔王軍にいた頃から、お前の存在を知っていたぞ。お前たちに刺客を差し向けていたのは俺なのだからな」

 そう言われてしまうと、ぐうの音も出ない。
 俺は火照る顔を水に浸けて冷やした。

「すまない。困らせてしまったな」

 マーリンは俺から離れて、俺の服を洗濯し始めた。
 すると、木の向こうから、屈強な男たちが歩いてきて、俺がいることに気がついた。

「おっ!? あれ、騎士のランスロットじゃねえか!?」
「ランスロットの剣は、高値で売れるぞ!!」

 盗賊だ。俺は舌打ちして立ち上がろうとした。しかし、マーリンがそれを制した。

「落ち着け、ランスロット。裸で戦う気か? 俺がどうにかする」

 マーリンは俺を庇うようにして立ち、杖を構えた。

「あ? 誰だお前。そこを退け」
「それはこちらの台詞だ。ランスロットの剣は渡さない。汚い手でランスロットに指一本でも触れてみろ。……俺が殺す」
「なんだと、偉そうに……。何様だお前」
「俺の名はマーリン。ランスロットの主人だ」
「は? ランスロットの主人は魔王に殺されただろうが。ニセ主人か、お前?」
「ニセ主人ではない。新しく就任したんだ」
「魔術師がランスロットの新しい主人だと!? 笑えるぜ、正義を語って魔術師を殺してた人間が、今は魔術師に仕えてるなんてな! 主人を殺されて気が狂っちまったんじゃ……」

 盗賊が最後まで言い切らないうちに、マーリンは杖で盗賊を殴り飛ばした。

「ランスロットを侮辱することは許さない」

 マーリンが本気で怒ってくれれば、くれるほどに、俺は胸が締めつけられるような心地がした。盗賊の言うことは間違ってはいない。俺は今まで魔王軍の刺客を殺してそれを正義だと信じていた。そして、今も、魔王への復讐を邪魔する魔術師は皆殺しにするつもりでいる。結局、俺はそのためにマーリンという魔術師を利用しているのかもしれない。これが『気が狂っている』以外の何だと言うんだ。

「チッ、やる気か、お前!」

 盗賊が懐から杖を出して振るった。炎がマーリンに向けて放たれる。
 こいつら、魔術師だったようだ。
 マーリンは炎をかわし、盗賊の顔面を蹴り上げた。
 もうひとりの盗賊が杖を振るうと、風の刃がマーリンの方へ飛んだ。マーリンの髪を刃が掠め、ポニーテールがパサッと解けた。マーリンは構わずに盗賊を投げ飛ばした。マーリンの魔術師としてはあり得ない物理攻撃に、盗賊たちは戸惑っている様子だった。

「こいつ、本当にランスロットの主人か……? なんで主人が騎士を守るために戦ってんだ、普通、逆だろ……」

 それはごもっともな指摘だ。

「余計なことを考えている場合か?」

 マーリンは容赦なく盗賊を杖で殴打し、蹴り飛ばし、拳で殴りつけ、頭を掴んで木にめり込ませた。
 その盗賊は木に頭が刺さったまま、ピクリとも動かなくなった。

「ああ……ひとり死んでしまったな。さあ、まだやるか?」

 盗賊の仲間たちは、顔を青くしてマーリンを見つめた。

「こ、ここで引いてたまるか……! 俺たちはランスロットの剣を売って大金を手に入れる……!」
「そうか、ならばかかってこい」

 そう言うマーリンは、俺を見るときの慈しみの籠もった目とは全く違う、冷酷な瞳をしていた。
 盗賊が杖を振るうと、炎の矢がビュンッと発射された。マーリンはその矢を素手で掴んで、盗賊に投げ返した。手が焼けるのもお構いなしだ。猛烈なスピードで投げ返された矢は盗賊の肩に突き刺さった。盗賊は悲鳴を上げて、矢を引き抜いた。
 もうひとりの盗賊が風を巻き起こし、マーリンの身体を吹き飛ばした。マーリンは木の枝に捕まって風をやり過ごし、木から飛び降りるようにして、盗賊に足技をかけた。
 マーリンが風使いの盗賊と格闘している間に、炎使いの盗賊が再び杖を構えた。
 俺は咄嗟にザバッと水から上がり、剣を手に取った。
 狙いを定めて、的を射るように、剣をすっと投げた。
 剣が炎使いの盗賊の首を貫いた。
 盗賊は血を撒き散らしながら、その場に崩れ落ちた。
 その隙に、マーリンが風使いの盗賊の身体をバキバキッとへし折った。
 後には静寂が残った。
 裸で立ち尽くしている俺に、マーリンは自分のローブを羽織らせた。

「大丈夫か、ランスロット」
「ああ……お前こそ、手、火傷しただろ」

 俺はハンカチを泉の水で濡らし、マーリンの手に巻きつけた。

「ありがとう、ランスロット」

 マーリンが俺の額にキスをしようとしたそのとき、

「ランスロット様……?」

と声がした。そこには、鎧とマントを纏った少女が立っていた。俺は思わず呟いた。

「ジャンヌ……」
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