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第ニ部
疑惑 ①
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「お母さん、コレ」
『なーに?あ、ありがとう』
カオリから回覧板を受け取る。
目を通すと、恒例の草取りのお知らせだった。
この辺りはエミリオの務めるロッキー商会に近いので、必然的に同じ商会に勤めている方が多い。
自分達の住んでいる付近は自分達で綺麗にしようという思いから、グループのようなものができている。
当たり障りなく穏やかに過ごしたいと思うのは皆一緒で、グループには必然的にロッキー商会に勤める人達が多い。勤め先が違う方は、面倒だからとグループに入らないようだ。
私も面倒だなと思うけど、噂好きの奥様方もいるし、エミリオに迷惑かけないように、参加している。
付近の清掃などは、カオリにもそろそろ手伝ってもらい、社会勉強になればいいなとも思う。
『カオリ、回覧板をお隣の方に渡さないといけないから、一緒に行く?』
「うん。じゃあ、私が持つ~」
『じゃあ、お願いね。ちゃんとお隣の人にどうぞって渡してね』
「は~い」
カオリは嬉しそうに回覧板を持つと、私と一緒に玄関へと向かう。
『じゃあ、行こうか、カオリ』
私はカオリと手を繋ぎお隣のお家へと向かった。
お隣といっても、隣接しているわけではなく、歩いて五分ほどの距離にある。
お隣のお家が見えてくると、玄関前で数人が話し込んでいた。
あぁ、よく見かける井戸端会議だな。
誰々の所に赤ちゃんが産まれたとか、誰々の息子が結婚するらしいとか、一体何がそんなに気になるのかと思う。
いつも遠巻きに見ているだけなので、最初の頃は先輩奥様方が世話を焼いてくれて、強引に長話に参加させられたりしたけれど、どうも苦手で……
カオリを言い訳にして、いつも用事が済んだらすぐに帰宅していた。
そのせいなのか、私のことは ''ちょっとお高くとまった余所者''というレッテルを貼られているみたい。
''今どきの若い者は…''
とかなんとか…
一応清掃などはきちんとお手伝いしているし、まぁいいよねと開きなおっている。
こういう風に段々とメンタル強くなっていくのかな。
一応ご挨拶はしないとだよね
『こんにちは。回覧板を…』
あれ…?
「じゃまた」
「あらいけない、用事を思い出したわ」
「今日はこれで失礼しますわね」
私が声をかけると、それまでいた方達が、波が引くように去っていった。
明らかに無理な言い訳と分かるようなセリフを残して。
……… 私、何か気に触るようなことをしたのかな?
カオリに気づかれてないといいけれど。
「はい!回覧板です!」
「あ、あら、カオリちゃん…ど、どうもありがとう」
カオリはお隣のマーガレットさんに回覧板を渡しに駆け寄って、すぐに私のもとへと戻ると手を引っ張り、もう帰ろうと歩き出す。
マーガレットさんは噂好きで、世話好きの気さくな奥様だ。こちらに来てから色々と世話を焼いてくれた一人。悪い人ではないのだけれど、あまり周囲の噂に興味のない私は、どう接したらいいのか分からなくて距離をとってしまった。それでも気さくに声をかけてくれていた。
なのに、今日はいつもと違ってマーガレットさんの返答はぎこちない。
でも、カオリが何も感じてないみたいで良かった。
「次回の清掃のご案内みたいです。それでは失礼します。カオリもご挨拶を』
「バイバーイ」
『カオリ、さよならでしょ。お手伝いありがとう。帰ろうか』
私はマーガレットさんにお辞儀をするとカオリと共に来た道を戻り始めた。
しばらく進んだ所で、カオリから手をクイッと引っ張られる。
「お母さん、何か呼んでるよ」
『え?』
「後ろ、後ろ」
私はカオリに促されて、後ろを振り向くと、回覧板を手に持ったままマーガレットさんが、小走りに駆け寄ってきているのが見えた。
「リナちゃん…ちょっとだけ時間いい?」
『マーガレットさん、どうされたのですか?』
「カオリちゃんちょっとお母さんを借りるわね」
「はーい」
手を繋いでいたカオリの手を放して、数歩だけカオリから離れる。
マーガレットさんはキョロキョロと辺りを確認してから、私にだけ聞こえるように小さな声で話しかけてきた。
「リナちゃん…
ごめんなさい…
こんな事を直接聞くなんて不躾なことは分かってるのよ。
でもリナちゃんはこちらに来たときから、勝手に私が気にかけていたの。だから他の人よりはリナちゃんを身近に感じているつもりよ。
だから、気になって…
単刀直入に聞くわね。
あの噂本当なの?」
噂?
え?
お高くとまっている余所者という噂のことだろうか。
こればかりは否定したとしても、周囲の方がそうだと言えばどうしようもないのではないだろうか。
何と言えばいいのだろう…
マーガレットさんが追いかけて来てまで伝えてくれるということは、噂が大事になっているのかもしれない。
『そんなに噂になってるのですね…』
私は返答に困って言葉に詰まる。
でも、なるべく馴染めるように気をつけます
と伝えようとした時にマーガレットさんが言葉を続ける
「あぁ、やっぱりリナちゃんの耳にも入ってるわよね。
そうよね。あれだけこの辺りの人に尋ねているのですもの。
あんなに綺麗な方ですもの。どこかのお嬢様に違いないと思ったら、ゴーテル商会の奥様だそうじゃない。
しかもその奥様がカオリちゃんのことを尋ねてるのよ。
何年前こちらに来てたのかとか
父親に似てるのかとか
リナちゃんが何か言ってなかったかって。
それで、みんなあぁ、これは訳ありだなってなって。
カオリちゃんが…その…隠し子じゃないかって…」
『!!!』
何を言ってるの?
噂が自分の予想していたものとは全然違い、しかもその内容に衝撃を受けた。
頭を物凄い鈍器で殴られたような衝撃を…
頭が真っ白になるとはこういうことなのね…
私はマーガレットさんの続きの言葉が耳に入ってこなくて、
気がついた時には自宅にカオリと帰っていた。
どうやって話しを終えたのか
カオリとどのように帰ってきたのか
全く記憶になかった…
ただただ言われたことが理解できなくて、
ゴーテル商会の奥様…
あの人が
ここに来ているの
私ではなくカオリを探してるの?
一体いつまで私を苦しめたら気がすむの!
どうしてそんな事を聞くの
あなたが変な事を尋ねることで、私たちがどんなに不愉快で苦しめられるのか分からないの?
突拍子もないことをよくもそんなことを!
言いようのない怒りと悲しみと痛みが
混乱して頭の中ごぐちゃぐちゃで、
エミリオが帰ってきてからも
その日は体調が悪いとずっと部屋に閉じこもっていた
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
このお話を読んで下さりありがとうございます。
最終話を書いているのですが、なんだか自分でも悲しすぎて、思い悩み…
当初と違う方向へ変えようかなと悩んでいます
なので更新が遅く申し訳ないです。
ハッピーエンドタグを追加するかもしれません
最後までお付き合いくださると嬉しいです
『なーに?あ、ありがとう』
カオリから回覧板を受け取る。
目を通すと、恒例の草取りのお知らせだった。
この辺りはエミリオの務めるロッキー商会に近いので、必然的に同じ商会に勤めている方が多い。
自分達の住んでいる付近は自分達で綺麗にしようという思いから、グループのようなものができている。
当たり障りなく穏やかに過ごしたいと思うのは皆一緒で、グループには必然的にロッキー商会に勤める人達が多い。勤め先が違う方は、面倒だからとグループに入らないようだ。
私も面倒だなと思うけど、噂好きの奥様方もいるし、エミリオに迷惑かけないように、参加している。
付近の清掃などは、カオリにもそろそろ手伝ってもらい、社会勉強になればいいなとも思う。
『カオリ、回覧板をお隣の方に渡さないといけないから、一緒に行く?』
「うん。じゃあ、私が持つ~」
『じゃあ、お願いね。ちゃんとお隣の人にどうぞって渡してね』
「は~い」
カオリは嬉しそうに回覧板を持つと、私と一緒に玄関へと向かう。
『じゃあ、行こうか、カオリ』
私はカオリと手を繋ぎお隣のお家へと向かった。
お隣といっても、隣接しているわけではなく、歩いて五分ほどの距離にある。
お隣のお家が見えてくると、玄関前で数人が話し込んでいた。
あぁ、よく見かける井戸端会議だな。
誰々の所に赤ちゃんが産まれたとか、誰々の息子が結婚するらしいとか、一体何がそんなに気になるのかと思う。
いつも遠巻きに見ているだけなので、最初の頃は先輩奥様方が世話を焼いてくれて、強引に長話に参加させられたりしたけれど、どうも苦手で……
カオリを言い訳にして、いつも用事が済んだらすぐに帰宅していた。
そのせいなのか、私のことは ''ちょっとお高くとまった余所者''というレッテルを貼られているみたい。
''今どきの若い者は…''
とかなんとか…
一応清掃などはきちんとお手伝いしているし、まぁいいよねと開きなおっている。
こういう風に段々とメンタル強くなっていくのかな。
一応ご挨拶はしないとだよね
『こんにちは。回覧板を…』
あれ…?
「じゃまた」
「あらいけない、用事を思い出したわ」
「今日はこれで失礼しますわね」
私が声をかけると、それまでいた方達が、波が引くように去っていった。
明らかに無理な言い訳と分かるようなセリフを残して。
……… 私、何か気に触るようなことをしたのかな?
カオリに気づかれてないといいけれど。
「はい!回覧板です!」
「あ、あら、カオリちゃん…ど、どうもありがとう」
カオリはお隣のマーガレットさんに回覧板を渡しに駆け寄って、すぐに私のもとへと戻ると手を引っ張り、もう帰ろうと歩き出す。
マーガレットさんは噂好きで、世話好きの気さくな奥様だ。こちらに来てから色々と世話を焼いてくれた一人。悪い人ではないのだけれど、あまり周囲の噂に興味のない私は、どう接したらいいのか分からなくて距離をとってしまった。それでも気さくに声をかけてくれていた。
なのに、今日はいつもと違ってマーガレットさんの返答はぎこちない。
でも、カオリが何も感じてないみたいで良かった。
「次回の清掃のご案内みたいです。それでは失礼します。カオリもご挨拶を』
「バイバーイ」
『カオリ、さよならでしょ。お手伝いありがとう。帰ろうか』
私はマーガレットさんにお辞儀をするとカオリと共に来た道を戻り始めた。
しばらく進んだ所で、カオリから手をクイッと引っ張られる。
「お母さん、何か呼んでるよ」
『え?』
「後ろ、後ろ」
私はカオリに促されて、後ろを振り向くと、回覧板を手に持ったままマーガレットさんが、小走りに駆け寄ってきているのが見えた。
「リナちゃん…ちょっとだけ時間いい?」
『マーガレットさん、どうされたのですか?』
「カオリちゃんちょっとお母さんを借りるわね」
「はーい」
手を繋いでいたカオリの手を放して、数歩だけカオリから離れる。
マーガレットさんはキョロキョロと辺りを確認してから、私にだけ聞こえるように小さな声で話しかけてきた。
「リナちゃん…
ごめんなさい…
こんな事を直接聞くなんて不躾なことは分かってるのよ。
でもリナちゃんはこちらに来たときから、勝手に私が気にかけていたの。だから他の人よりはリナちゃんを身近に感じているつもりよ。
だから、気になって…
単刀直入に聞くわね。
あの噂本当なの?」
噂?
え?
お高くとまっている余所者という噂のことだろうか。
こればかりは否定したとしても、周囲の方がそうだと言えばどうしようもないのではないだろうか。
何と言えばいいのだろう…
マーガレットさんが追いかけて来てまで伝えてくれるということは、噂が大事になっているのかもしれない。
『そんなに噂になってるのですね…』
私は返答に困って言葉に詰まる。
でも、なるべく馴染めるように気をつけます
と伝えようとした時にマーガレットさんが言葉を続ける
「あぁ、やっぱりリナちゃんの耳にも入ってるわよね。
そうよね。あれだけこの辺りの人に尋ねているのですもの。
あんなに綺麗な方ですもの。どこかのお嬢様に違いないと思ったら、ゴーテル商会の奥様だそうじゃない。
しかもその奥様がカオリちゃんのことを尋ねてるのよ。
何年前こちらに来てたのかとか
父親に似てるのかとか
リナちゃんが何か言ってなかったかって。
それで、みんなあぁ、これは訳ありだなってなって。
カオリちゃんが…その…隠し子じゃないかって…」
『!!!』
何を言ってるの?
噂が自分の予想していたものとは全然違い、しかもその内容に衝撃を受けた。
頭を物凄い鈍器で殴られたような衝撃を…
頭が真っ白になるとはこういうことなのね…
私はマーガレットさんの続きの言葉が耳に入ってこなくて、
気がついた時には自宅にカオリと帰っていた。
どうやって話しを終えたのか
カオリとどのように帰ってきたのか
全く記憶になかった…
ただただ言われたことが理解できなくて、
ゴーテル商会の奥様…
あの人が
ここに来ているの
私ではなくカオリを探してるの?
一体いつまで私を苦しめたら気がすむの!
どうしてそんな事を聞くの
あなたが変な事を尋ねることで、私たちがどんなに不愉快で苦しめられるのか分からないの?
突拍子もないことをよくもそんなことを!
言いようのない怒りと悲しみと痛みが
混乱して頭の中ごぐちゃぐちゃで、
エミリオが帰ってきてからも
その日は体調が悪いとずっと部屋に閉じこもっていた
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
このお話を読んで下さりありがとうございます。
最終話を書いているのですが、なんだか自分でも悲しすぎて、思い悩み…
当初と違う方向へ変えようかなと悩んでいます
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