本当はあなたを愛してました

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第三部

弔い②

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目が覚めると見慣れない天井が視界に入る
ここは、どこかしら


「目が覚めましたか?お嬢様、あぁ良かった、本当に心配しました。お側に付いていながら申し訳ありません、お水など飲まれますか」

マリは寝台の側の椅子から立ち上がり、かいがいしく世話を焼きはじめた

水差しから水をグラスに注ぐ

「ありがとう」と言いグラスを受け取るとゆっくりと喉を潤す
ひんやりとした水が喉を通りとても気持ちいい

「先生をお呼びしてきます」
「マリ、そこまでお世話になっては申し訳ないわ。これ以上ご迷惑をおかけするわけには」


「迷惑だなんてとんでもない。話し声が聞こえて不躾かとは思いましたが…」

ノックの音と同時に医師と共に男性が入室して来る
男性が入室してくるのをみとめると
慌てて姿勢を正して頭を垂れる


「いや、そのままで、どうか楽になさってください」


脈拍を測り終えた医師は「軽い立ちくらみでしょう、しばらく安静にお過ごしください」と言い終えるとすぐに退室した


「わが家だと思って、遠慮なく休まれてください。部屋は余っていますし、お付きの皆さんも」



「いえ、しばらく休ませていただくだけで充分です。本当にご迷惑をおかけしてしまって…」

「迷惑だなんてとんでもない。ダーニャの為に遠路はるばる━」

そこで男性ははたと言葉を区切り、無造作に置かれた花束に視線を移す

連られて視線の先に顔を動かすとサイドテーブルの上には少し乱れた花束が置かれていた

ここへ来る途中に購入した花だった

「申し訳ございませんお嬢様、お預かりしていた大切な花束をあの時落としてしまってこんな状態に」

マリは何度も謝罪の言葉を口にする
あの時とは気を失って倒れた時のことだろう
突然あんな状況に陥ったにも関わらず、私のことだけではなく、花束のことまで気遣ってくれるマリは本当に優しい

「謝ることはないわ、むしろ謝るのは私の方。驚いたでしょう?マリ。あなたも疲れているでしょうに」

「いいえ、お嬢様私は大丈夫です」

そんな私達のやりとりを見ていた男性は
「あぁ、あなたはダーニャの言った通りの方ですね」

とにこやかに微笑む


「あなたの侍女も休ませてあげるといい。ずっと付きっきりでしたから、その、サラ嬢とお呼びしても?私のことはフェリクスと」

「えぇ構いませんわ。では私もお言葉に甘えて。フェリクス様」

握手をしようと手を差しだす
私の差し伸べた手を、ゆっくりと握ろうとしたフェリクス様

フェリクス様の手をギュッと力強く握りしめながら微笑む

はっと大きく目を見張るフェリクス様

「驚きました。まさかサラ嬢から握手を求められるなんて」


そこでふと自分の行いを振り返る
女性同士ならともかく、男性と握手の際は女性から先に手を握るのは、はしたない行為かもしれないということに思い至る

「間違っていたでしょうか?」

恥ずかしさに頬を赤らめながら問いかけると
「いえ、とんでもない。むしろ逆です。
サラ嬢が握手をご存知なことに驚きました。驚いたと同時にとても可愛らしい人だなと興味が沸きました。」

「そんなっ、からかうのはおやめください」

慌てて手を離そうとするも、握られた手は中々ほどけない

「あの…」

「あぁ、ダーニャの部屋はこの階にあります。後で案内させましょう。良ければダーニャの部屋にその花を飾ってほしい。きっとダーニャも喜ぶ。その後に夕食に招待したい、もちろん、サラ嬢の体調が良ければ」

「えぇ」

コクコクとぎこちなく頷くことしかできなかった

早く会話を終わらせたかった

今まで挨拶で手を軽く触れ合うことしかしたことのなかったので、密着した手を早く解きたかったからだ


ものすごく長い時間に感じられた


「では夕食に」

フェリクスは楽しみだと握手している手に口付けを落としてから退室して行った


解放されたのに、手から妙に熱を感じる

心なしかドキドキと心臓の音もうるさい

これはきっと慣れない環境で緊張しているのね

ぼーっとしている私とは対照的に
マリは侮蔑の表情を浮かべていた

「お嬢様に対して距離が近すぎます。なんだか軽薄な感じがします。もっと警戒すべきです。お嬢様は婚約されているのですから、もう少し、聞いています?」


2人だけになったこともあり、少し砕けた口調で問いかけるマリに
心配しないでと宥める

元々2、3日の滞在で帰国するつもりだったこともあり、とりあえず今日はこちらにお世話になることにしようかしら


護衛には宿で待機するように伝え、マリだけを残すことにした

宿には前払いしているし、皆も旅の疲れをゆっくり癒せるだろうと軽い気持ちだった

マリだけは何度も宿に滞在しましょうと言っていたけれど

もしも宿に泊まっていたら何か変わっていたかしら?

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