バルサック戦記 -片翼のリクと白銀のルーク-(旧題:片翼のリク  ‐退魔師の一族だけど、魔王軍に就職しました‐)

寺町朱穂

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第7章 8日間戦争編

69話 敵を潰すタイミング

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 議会まで、あと5日。



 魔都タイタスの大通りが、やけに騒がしい。
 ケイティ・フォスター少将・・は眉間にしわを寄せると、小さく舌打ちをした。

「まったく、これから重要な話があるのに……というか、まだ市の日にしては早いぞ。……なにごとだ?」

 ケイティは頭をかきながら、窓から顔を突き出した。
 魔都の魔族が、総出で集っているように見える。しかも、どの魔族も道の端に寄り、何かを待っているように立っていた。それぞれ近くの魔族と何やら言葉を囁きあいながら、今か今かと首を伸ばしている。彼らの視線の先は、すべて魔都の門へ向けられていた。

「なんだ、今日は誰か来るのか?」
「……まぁ、知らないの。ケイティは相変わらず情報収集能力が劣っていますこと」

 ケイティの後ろから、か細い声が聞こえた。ケイティが不機嫌な表情のまま振り返ると、小柄な女性が優雅に腰を下ろしていた。顔を隠すほどの扇子を持つ手は、うっすらと豹の毛皮で覆われている。

「フィオレ・パンサー。いくら親友でも、言ってはいけないことがあるぞ。……まぁ、否定はしないがな」
「ケイティ・フォスター少将。非を素直に認める姿勢は、よろしくってよ」

 フィオレは、扇子で笑みを隠した。
 彼女は貴族の一員として、政治の中枢に携わっている。ケイティが最も信頼している親友であり、シャルロッテを護る同朋だった。

「それで、フィオレ。いったい誰が来るんだ?」
「それは――」

「おっ、来たぞ!」

 フィオレが口を開いた時だった。その声にかぶせるように、群衆の誰かが叫び声を上げる。その叫び声につられるように、眼下の群衆が何かを騒ぎ立てた。ケイティは慌てて城門の方へ目を向けてみると、ちょうど騎馬隊が門をくぐってくるところだった。

「あれは……第3師団の旗……あぁ、リク少将だな」

 ケイティは、満足そうに腕を組む。
 リク・バルサックは、人間でありながら一際強い力を抱いた新星だ。デルフォイや園遊会の態度から察するに、シャルロッテに対して嫌悪感を抱いているらしい。その一面は気に入らないが、以前任務を共にしただけでなく、ケイティと同時期に少将へ就任したということもあり、多少なりとも気にかける存在だった。

「いや、立派なものだ。たった1年でここまで出世するとは……おい、フィオレも見に来い!」

 ケイティはフィオレを手招きしながら、リクたちの一団に視線を向けた。

 リクたちの騎馬は馬具を光らせながら、毅然とした様子で近づいてくる。軍人というだけあり、馬に乗る姿がさまになっていた。
 赤い髪を軽くなびかせ、颯爽と進む姿は凛々しく、魔族の貴族や軍人にも負けていない。片腕で誰よりも巧みに馬を操り、身の丈以上のハルバードを当然のように背負っている。
 その姿を一目見れば、リク・バルサックの若くして少将に就任した理由が、なんとなく分かる気がする。
 表だって歓迎する魔族は少なかったが、魔族社会は、ほぼ実力主義といっても過言ではない。
 魔族たちの多くは「悔しいが、認めてやる」という視線や「本当に強いのか?」という懐疑的な視線を向けている。罵倒はせず、少将になる価値のある人間なのかと見定めているようだ。
 ただ、もちろん群衆の中には……

「人間風情が! 調子に乗るなよ!」
「この成り上がりが!」

 と、真っ向から敵意を示す魔族もいた。
 だが、リクは罵声など歯牙にもかけない。それどころか、軽く微笑みすら浮かべている。
 これぞ、リクが地位をつかんだ理由なのだろう。
 50人の部下を引き連れて、どこまでも堂々としていた。

「いや、立派なものだ。そう思わんか、フィオレ?」

 ケイティが問いかけると、フィオレも窓から軽く顔を出した。扇子で口元を隠していたが、その横顔は何かを思案しているようだった。

「……まずいですわね」
「まずいって……なにが?」

 ケイティは、きょとんと首を傾ける。

「どこから見ても、恥すべきところがないように見えるが?」
「部下の種類を見たかしら?  
 ……あの辺りは、ゼーリックの生き残りよ」

 フィオレは扇子を閉じると、リクの斜め後ろを指した。
 ケイティが視線を向けると、たしかに獰猛な熊の顔をした兵士がいる。

「サーモン・マッケンジー。ゼーリックに可愛いがられていた出世株だった男ですわね。
 他にも、何人か混ざっていますわ」
「リク少将は、ゼーリックの部下を手懐けた、ということか?」

 ケイティは少し目を開いた。
 ゼーリックの第2師団を吸収してから、まだそこまで日が経過していない。それでも、しっかりと手懐け、このような場に連れて行くまで信用しているということになる。

「つまり、あのリクはシャルロッテ様の第1師団以外の軍を掌握したも同然ね……」

 フィオレは優雅に扇子を広げると、小さな唸り声をあげた。

「あなたの話だと、リク・バルサックはシャルロッテ様に叛意を抱いているのでしょう?
 このまま攻め込まれたら、太刀打ちできないですわ」
「ちょっと待て、フィオレ。それは、シャルロッテ様が負けるというのか?」
「ええ、力勝負では負けますわね」

 フィオレのサッパリとした返答に、ケイティは顔を青ざめた。

「追い打ちをかけるようですが、ゴルトベルクも密かに議員を務める魔族数名と接触しているみたいですわね。それも、シャルロッテ様に好感情を持たない魔族ばかり。

 ……これは、5日後の議会で何かしでかすつもりですわね」
「な、なんと!」

 ケイティは震えた。
 デルフォイでシャルロッテの身の回りを守護する大半が死に、唯一の生き残り……ケイティは一気に出世した。
 ケイティはシャルロッテのために、そして死んでいった仲間のためにも、反乱の芽は早めに摘む必要がある。ケイティは慌てふためきながら、扉へと駆け出した。

「こ、こうしちゃいけない。
 すぐにシャルロッテ様に報告せねば!」
「待ちなさい、ケイティ。
 闇雲に走っても意味なくってよ」

 フィオレは、一目散で走るケイティを制した。フィオレに呼び止められ、ケイティは渋々足を止めた。

「し、しかしだな、こんな一大事を……」
「報告はするに決まってますわ。
 問題は、そこではありませんの」

 フィオレは扇子を音立てながら閉じると、窓に背を向けた。

「敵を潰すタイミング。これが大切だと軍学校で習わなかったかしら?」
「それは……そうだ」
「奴らが行動を起こすのは、議会……つまり5日後。裏を返せば、そこまで派手に動かないということになりますわね。
 つまり議会で問題を起こした時に、糾弾すれば良いだけの話でして、それまでに追い詰めるカードを揃えればいいだけの話じゃなくって?」
「……たしかに、至極まっとうな意見だ」

 ケイティはフィオレに賛同すると、近くの椅子に腰をかけた。

「だが、こちらに勝ち目があるのか?」
「ゴルトベルクが密談した魔族は10ばかり。そのうち、ゴルトベルクが笑顔で屋敷を出たのは2回しかないわ。
 それに、軍部をほぼ掌握したといっても、先日までの戦で将官は死に絶え、議会に参加出来るのは、バルサック少将と貴方……そして、ゴルトベルク中将の3人だけ。
 つまり、96対4。仮にゴルトベルクが10人を味方につけたとしても、86対14。こちらの圧倒的な勝利よ」

 ただ……と、フィオレは冷静に言葉を続けた。

「1つ、懸念がありまして……もし、シャルロッテ様を廃するつもりなら、そのあと誰を後見として立てるつもりなのか……」
「それは、龍系の誰かが……」
「シャルロッテ様を廃した意味がなくってよ」

 フィオレは閉じた扇子で手を叩きながら答える。

「そもそも、魔族は実力主義の色が強いですわ。それは魔王選定も同じこと。
 龍が他の魔族よりも遥かに強い力を持っているだけで、世襲制のようにみえているだけ。
 別に他にも強いと認められる者であれば、龍の特徴を身に宿していなくても良くってよ」

 現時点で、龍の特徴を持った魔族は、シャルロッテとレーヴェンを除いて一様に弱体化してしまっている。
 一族の誰を代わりに掲げても、全員がついていくとは考えにくかった。

「では、他にふさわしい者は……あっ!」

 ケイティの脳裏に、1人の顔が浮かび上がった。
 魔王軍において誰よりも強く、ついていく者が多い人物が、1人だけいる。

「ま、まさか……」

 ケイティが呟くと、フィオレは眉間のシワを深くした。

「……想像がついたみたいですわね。
 そう……リク・バルサックは自分が魔王代行になるつもりだと考えられますわ」

 リク・バルサックは、魔王代行になろうとしている。
 人間が、魔王代行になれるわけがない。だが、あの恐ろしいまでの出世速度を考えると、そして、ゼーリックの部下がおとなしく従っていたことから察すると、ありえるかもしれない。

「そんなこと、許されるわけない! 絶対に阻止しなくては!!」
「……分かれば良いの」

 フィオレは扇子を仰ぎながら笑みを浮かべた。

「こらから5日、議会にむけて行動しますわよ。まずは、これ以上……貴族たちが寝返るのを防ぐすべを打ちますわ」
「あぁ! 絶対に阻止してみせるぞ!」


 ケイティとフィオレは、互いに手を握る。すべては、魔王代行シャルロッテを護るため。


 議会まで、あと5日に迫った昼下がりのことだった。





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現在の派閥
シャルロッテ派:96人
反対派:4人
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