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第一章 幼少期 (4歳)
第三話 葛藤 (ロバート視点)
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ルベルトの誕生日パーティーで起こった魔石を使った事件は王家からすぐに緘口令が敷かれ後日調査が入る事が決まりパーティーはお開きとなった。
問題の呪われた魔石を持っていたルベルトはその手に酷い火傷を負ったが治癒師のお陰と魔石が放ったのが火属性の力だった事が功を奏して傷跡すら残らず完治した。
火属性の上位属性である炎属性の特性を持つ我が血筋のお陰と言えた。
犯人の目的はバーンシュタイン家の後継者の抹殺、それが無理でも火属性の上位属性である炎属性のバーンシュタイン家の後継者を呪う事だったのかもしれない。
もしも、相手の思惑通りになっていたら呪いの解除は容易く無く例え呪いが解けたとしても酷い後遺症が残っただろう。
炎属性が火属性の呪いを受けたなんて家名にも傷がついた事だろう。
問題はルベルトを庇ったルディアルカの方だった。
背中の広範囲に酷い火傷を負ったルディアルカの治療は困難を極めた。
呪いを強く受けたその傷を癒そうにもまずは呪いを除去しなければならず、その除去にも時間を要した。
まだ幼いその身体は怪我のせいで高熱を出し、大人でも耐えられないような痛みに耐えねばならず、呪いの除去の間、ルディアルカは何度も意識を失っては痛みに意識を戻しを繰り返した。
涙と鼻水でグショグショになるその顔をハンカチで何度も拭いながらロバートは出来る事なら変わってやりたいと涙が止まらなかった。
小さな身体だった。
本当に小さな身体で必死にルベルトを守ってくれた。
呪いは除去されやっと火傷の治療を行ったがその傷跡は残ってしまった。
まだ鑑定はしていない為に確かな事は言えないが怪我の状態からして血の繋がりが無いルディアルカは当然の事ながら炎属性である筈も無く、火属性ですら無く、最悪な事に火に対する耐性すらも無いようでルベルトのように綺麗に傷跡を消す事は出来なかったのだ。
更には傷は言えても後遺症が残る可能性が高いと言われてロバートは項垂れる。
全ての治療が終わった後、ベットの上でうつ伏せの状態で眠るルディアルカの小さな手をそっと握りこれまでの事を思い出す。
四年前、全ての元凶と言えるあの日をロバートは今でもハッキリと覚えている。
「きゃあああああああああああッ」
難産だった出産を終えた筈のジュリアの悲鳴に何事だとジュリアの部屋へ駆け付ければ泣きながら床に座り込むジュリアの姿があった。
「どうしたんだいジュリア!?」
「あ、あああ、わたくしの子がッわたくしの愛しい子がッ」
震えながら泣くジュリアの様子に困惑しながらも子供が寝ている籠を見て言葉を失う。
生まれた筈の我が子とは違う子供がそこにいた。
この頃、はぐれ妖精の被害が増加していた為に出産を控えていた妊婦の家は警戒していた。
当然バーンシュタイ家も厳重に警戒していた。
なのに、その悲劇は起きてしまった。
はぐれ妖精による子供の入れ替えの捜索は不可能と言われている。
はぐれ妖精はすり替える子を別の地の子と変える、それだけが判明していた事実だったからだ。
どの国のどの場所の子か分からない状況での捜索なんて見つかる確率は0に等しかった。
属性で判断しようにも両親のどちらの属性を継ぐのか分からない以上、捜索範囲は定められてもそれでもまだ広すぎた。
貴族はその事実を公には出来ない。
これまで被害にあったどの貴族達も公表はしなかった。
それには、貴族としての矜持だったり、立場だったりと様々な理由がある。
バーンシュタイン家も例外ではなかった。
ジュリアの両親も、入れ替えられた子に対しても優しいロバートの両親ですらもそれを良しとは言わなかった。
表立って我が子を探す事も出来ない貴族と言う立場に吐き気を感じながらもそれでも秘密裏ではあるが諦めず捜索は続けている。
ルディアルカを視界に入れる事もしたくないと拒絶するジュリアの気持ちはロバートにも良く分かった。
ロバート自身最初は同じ気持ちだったからだ。
だが、ある日、深夜まで続けていた仕事がひと段落して寝室へ向かおうとした時、赤子の鳴き声が聞こえた。
無視しようにも赤子は泣き止む気配はなく、メイド達は何をしているんだと仕方なくロバートが様子を見に行った。
月明りの照らす薄暗い部屋、カーテンも閉められる事なく子供用のベッドがあるだけの簡素な部屋だった。
そっとベッドへと近づけば赤子が泣いていた。
小さな身体で泣いている姿を見ていると自然と手が伸びてその頬に触れる。
泣いていた赤子の目が開いて、綺麗なピンクパールの瞳がジッとロバートを見た。
徐々に泣き声が収まり大きな瞳から大粒の涙を流しながらも赤子はロバートを見て笑ったのだ。
その瞬間、ロバートは堪らない気持ちになって赤子を抱き上げた。
小さなこの赤子に何の責任があると言うのだろうか。
これだけ必死にただ生きているだけの子を見捨てられる訳がない。
この日からロバートはルディアルカの面倒を自ら見るようになった。
ルディアルカの癇癪は愛情を求めてからくるものなのど分かっていた、だからこそ何度もジュリアに話をしたのにジュリアはルディアルカを頑なに受け入れようとはしなかった。
それでもせめて言動や態度に気を付けるように何度も注意した。
決してルディアルカに真実が伝わらないように、それだけは絶対に守ってくれとルベルトにも強く言い聞かせた。
だが、何度目かのジュリアとの話し合いをしている時、ついにそれをルディアルカに聞かれてしまった。
屋敷でのルディアルカに対する態度の改善をと、もう何度も繰り返していた話題にロバート自身ウンザリしていてつい口調が荒く大きくなってしまった、それを聞きつけたルディアルカに知られてしまった。
その日からルディアルカは変わった。
子供らしさが消え、ただ静かに部屋から出てこなくなった。
「おへやでたべゆでしゅ」
食事を1人で食べたいと言われた時の衝撃は今でも忘れられないとロバートは胸が酷く痛んだことを思い出す。
泣きそうな顔で1人がいいのだと言われるともうそれ以上どう言葉をかけたらいいのかわからなかった。
取り合えずルディアルカが納得するまでの間と思う事にした。
今だけだと、そう考えていたがロバートのその考えは甘かったとすぐに気づかされた。
ルディアルカはドンドン、家族から距離を取っていった。
部屋から出てこなくなり、部屋の外でルディアルカを見かける事はまったく無くなったのだ。
このままでは駄目だと焦り一日に必ずルディアルカの顔を見に行った。
ルディアルカは変わった、否、これが本当のルディアルカだったのかもしれない。
愛情に飢えて癇癪を起していただけで、元々騒がしい子ではなく本来は物静かな子だったのだと、本を読みたいと久しぶりに頼み事をされたから許可した書庫から持ってきて本を静かに黙々と読むルディアルカを見て思った。
大人でも難しい本を本当に読んで理解している事にロバートはかなり驚いた。
ルベルトも神童だと騒がれていたがルディアルカは別格だった。
そして気が付く。
ルディアルカが変わったと言うよりは、ジュリアやルベルトに対して見限ってしまったのだと。
それを証拠に毎日のように二人の様子を伺っていたのを一切やめてしまった。
出来るだけ関わらないようにしているのが明白だった。
自分までそうなるのではと考えてゾッとしたからこそロバートはルディアルカの部屋に行く事をどんだけ忙しく疲れた時でも欠かす事はなかった。
この子は我が子だと決めた。
これまでの事を謝罪するルディアルカを見た時に決めたのだ。
赤子からココまでロバートが育ててきた。
ジュリアが放棄してしまった、本来は母親がする事を全てロバートがやってきたらこそ愛情は我が子のルベルト以上に深くなった。
だからこそ王族が参加する今回のパーティーでルディアルカを我が子として公表した。
こんな事件が起こると分かっていたら参加なんてさせなかったのにと、拳を強く握りしめ悔やむ。
ルディアルカも望んではいなかった。
なのに、ルディアルカを手放したくない一心で公表した。
自分のせいだと後悔が止まらなかった。
気持ちを落ち着けようとルディアルカの額にそっとキスをして部屋から出ると執事が小声で話しかけてくる。
「旦那様、奥様とルベルトお坊ちゃまがお待ちです」
「………今行く」
執事の言葉に思わずため息をつく。
重たい足取りでジュリア達が待つ部屋へと向かった。
部屋に入れば二人は緊張した様子でそこにいた。
自分がこれだけ悲壮感に駆られていると言うのに平気そうな二人を見ていると苛立った。
話をしようと思っていた気分ではなくなる。
「二人とも部屋に戻っていいよ」
「貴方、あの」
「父上」
「ここ最近色々あって私も疲れたし、君達も疲れただろう?今日は休もう」
今は駄目だと、口を開けば酷い事を言いそうになると我慢してロバートがそう言うとジュリアは不満そうにロバートを見た。
「ルベルトが怪我をしたと言うのに、貴方は何故あんな子に付き切っりなのですか!?」
「………なに?」
ジュリアの言葉に堪えようとする感情が爆発しそうになるのを我慢するようにロバートは言葉を選ぶ。
「怪我は完治しただろ?」
「そう言う問題ではありませんッ!!貴方は一度見に来たっきりあの偽物にかかりきりで、ルベルトがどんな気持ちになるか考えないのですか!?」
「母上、やめてくださいッ、私は平気ですッ」
「いいえ、ルベルトッ。偽者に構って我が子を蔑ろになんて許されないわッ」
ジュリアのその言葉に抑えていた気持ちが爆発する。
ロバートから溢れ出る熱気にジュリアもルベルトも言葉を失う。
その身に纏う魔力がチリチリと燃えるような音を立てていた。
「許されないのは君だよジュリア」
「ど、どう意味ですのッ」
「私はね、君のルディアルカへの態度を見る度に胸が痛くて痛くて堪らなくなるんだよッ!!」
「わ、私だって我が子ならそんなことしませんッ」
「そうだろうね、それがわかるからこそ私は不安になるんだよッ」
「不安?一体何を言ってるんです!?」
「君はどうして考えないんだ?入れ変えられた我が子がルディアルカと同じ目に合っているかもしれない可能性を」
ロバートがそれを言った瞬間、ジュリアもルベルトも言葉を失う。
「君が受け入れらないように、入れ替えられた我が子が同じようにその母親に接せられたらと思うと私は胸が痛くて仕方が無いんだよッ!!君の態度が!行動が!そうだと証明しているようで我が子が不憫で仕方がなくなるッ」
「!?」
「入れ変えられた子供達には何の罪もない、私達の子にもルディアルカにだって罪はないんだよッ!!なのに無い筈の罪を私達が与えてどうなると言うんだッ!?我が子として受け入れろとは言ってない、せめて普通の子に接するようにしてほしいと私は何度も君に頼んできたッ、だが、君はそれすらも出来ないと酷い態度をあの子に取り続ける、私にはルディアルカが受けている境遇が我が子と同じではないかと考えて胸が痛くて仕方ないんだよッ」
ロバートの悲痛な吐露にジュリアはガクガクと震え言葉を失う。
ルベルトも同じように顔色が悪かった。
「わ、わたくし……」
ロバートに指摘されて漸くその可能性に気が付いたのか言葉を失い必死に何を言うとジュリアはするが何も言葉にする事は出来なかった。
ルベルトも自分を助ける為に必死になっていたルディアルカを思い出していた。
だが自分はジュリアと同様に偽者だと言う認識から酷い態度を被害者であるルディアルカに取っていたのだと気づかされた。
ロバートの言うとりだった。
少し考えれば行き着く考えに至らなかった。
ルベルトは最後に見た酷い怪我をしたルディアルカの姿が頭から離れず罪悪感に胸が苦しくなった。
室内が重たい沈黙に包まれる。
そんな二人を見てロバートは溜息をつくと部屋の出入り口へと向かう。
「安心するといい、あの子はもう君達に何の期待もしていない。親でも家族でもないとあの子はしっかりとあの年で理解して距離を取ることにしたようだ。私もこれ以上は君達に頼む事はしない………悪かったね、少し言い過ぎたようだ、私も疲れているみたいだ、今日はここまでにしよう」
それだけ言ってロバートは部屋を後にする。
流れ出た涙は止まらず、部屋に戻る気にもなれずロバートは再びルディアルカの部屋へ向かう。
執事に頼み簡易ベッドをルディアルカの部屋に運ばせるとその間にシャワー等を澄ませて並べられたベットへと横になる。
薬が効いているのか静かに眠るルディアルカに触れながらロバートは暫く静かに涙を流しながらそれを見続けた。
問題の呪われた魔石を持っていたルベルトはその手に酷い火傷を負ったが治癒師のお陰と魔石が放ったのが火属性の力だった事が功を奏して傷跡すら残らず完治した。
火属性の上位属性である炎属性の特性を持つ我が血筋のお陰と言えた。
犯人の目的はバーンシュタイン家の後継者の抹殺、それが無理でも火属性の上位属性である炎属性のバーンシュタイン家の後継者を呪う事だったのかもしれない。
もしも、相手の思惑通りになっていたら呪いの解除は容易く無く例え呪いが解けたとしても酷い後遺症が残っただろう。
炎属性が火属性の呪いを受けたなんて家名にも傷がついた事だろう。
問題はルベルトを庇ったルディアルカの方だった。
背中の広範囲に酷い火傷を負ったルディアルカの治療は困難を極めた。
呪いを強く受けたその傷を癒そうにもまずは呪いを除去しなければならず、その除去にも時間を要した。
まだ幼いその身体は怪我のせいで高熱を出し、大人でも耐えられないような痛みに耐えねばならず、呪いの除去の間、ルディアルカは何度も意識を失っては痛みに意識を戻しを繰り返した。
涙と鼻水でグショグショになるその顔をハンカチで何度も拭いながらロバートは出来る事なら変わってやりたいと涙が止まらなかった。
小さな身体だった。
本当に小さな身体で必死にルベルトを守ってくれた。
呪いは除去されやっと火傷の治療を行ったがその傷跡は残ってしまった。
まだ鑑定はしていない為に確かな事は言えないが怪我の状態からして血の繋がりが無いルディアルカは当然の事ながら炎属性である筈も無く、火属性ですら無く、最悪な事に火に対する耐性すらも無いようでルベルトのように綺麗に傷跡を消す事は出来なかったのだ。
更には傷は言えても後遺症が残る可能性が高いと言われてロバートは項垂れる。
全ての治療が終わった後、ベットの上でうつ伏せの状態で眠るルディアルカの小さな手をそっと握りこれまでの事を思い出す。
四年前、全ての元凶と言えるあの日をロバートは今でもハッキリと覚えている。
「きゃあああああああああああッ」
難産だった出産を終えた筈のジュリアの悲鳴に何事だとジュリアの部屋へ駆け付ければ泣きながら床に座り込むジュリアの姿があった。
「どうしたんだいジュリア!?」
「あ、あああ、わたくしの子がッわたくしの愛しい子がッ」
震えながら泣くジュリアの様子に困惑しながらも子供が寝ている籠を見て言葉を失う。
生まれた筈の我が子とは違う子供がそこにいた。
この頃、はぐれ妖精の被害が増加していた為に出産を控えていた妊婦の家は警戒していた。
当然バーンシュタイ家も厳重に警戒していた。
なのに、その悲劇は起きてしまった。
はぐれ妖精による子供の入れ替えの捜索は不可能と言われている。
はぐれ妖精はすり替える子を別の地の子と変える、それだけが判明していた事実だったからだ。
どの国のどの場所の子か分からない状況での捜索なんて見つかる確率は0に等しかった。
属性で判断しようにも両親のどちらの属性を継ぐのか分からない以上、捜索範囲は定められてもそれでもまだ広すぎた。
貴族はその事実を公には出来ない。
これまで被害にあったどの貴族達も公表はしなかった。
それには、貴族としての矜持だったり、立場だったりと様々な理由がある。
バーンシュタイン家も例外ではなかった。
ジュリアの両親も、入れ替えられた子に対しても優しいロバートの両親ですらもそれを良しとは言わなかった。
表立って我が子を探す事も出来ない貴族と言う立場に吐き気を感じながらもそれでも秘密裏ではあるが諦めず捜索は続けている。
ルディアルカを視界に入れる事もしたくないと拒絶するジュリアの気持ちはロバートにも良く分かった。
ロバート自身最初は同じ気持ちだったからだ。
だが、ある日、深夜まで続けていた仕事がひと段落して寝室へ向かおうとした時、赤子の鳴き声が聞こえた。
無視しようにも赤子は泣き止む気配はなく、メイド達は何をしているんだと仕方なくロバートが様子を見に行った。
月明りの照らす薄暗い部屋、カーテンも閉められる事なく子供用のベッドがあるだけの簡素な部屋だった。
そっとベッドへと近づけば赤子が泣いていた。
小さな身体で泣いている姿を見ていると自然と手が伸びてその頬に触れる。
泣いていた赤子の目が開いて、綺麗なピンクパールの瞳がジッとロバートを見た。
徐々に泣き声が収まり大きな瞳から大粒の涙を流しながらも赤子はロバートを見て笑ったのだ。
その瞬間、ロバートは堪らない気持ちになって赤子を抱き上げた。
小さなこの赤子に何の責任があると言うのだろうか。
これだけ必死にただ生きているだけの子を見捨てられる訳がない。
この日からロバートはルディアルカの面倒を自ら見るようになった。
ルディアルカの癇癪は愛情を求めてからくるものなのど分かっていた、だからこそ何度もジュリアに話をしたのにジュリアはルディアルカを頑なに受け入れようとはしなかった。
それでもせめて言動や態度に気を付けるように何度も注意した。
決してルディアルカに真実が伝わらないように、それだけは絶対に守ってくれとルベルトにも強く言い聞かせた。
だが、何度目かのジュリアとの話し合いをしている時、ついにそれをルディアルカに聞かれてしまった。
屋敷でのルディアルカに対する態度の改善をと、もう何度も繰り返していた話題にロバート自身ウンザリしていてつい口調が荒く大きくなってしまった、それを聞きつけたルディアルカに知られてしまった。
その日からルディアルカは変わった。
子供らしさが消え、ただ静かに部屋から出てこなくなった。
「おへやでたべゆでしゅ」
食事を1人で食べたいと言われた時の衝撃は今でも忘れられないとロバートは胸が酷く痛んだことを思い出す。
泣きそうな顔で1人がいいのだと言われるともうそれ以上どう言葉をかけたらいいのかわからなかった。
取り合えずルディアルカが納得するまでの間と思う事にした。
今だけだと、そう考えていたがロバートのその考えは甘かったとすぐに気づかされた。
ルディアルカはドンドン、家族から距離を取っていった。
部屋から出てこなくなり、部屋の外でルディアルカを見かける事はまったく無くなったのだ。
このままでは駄目だと焦り一日に必ずルディアルカの顔を見に行った。
ルディアルカは変わった、否、これが本当のルディアルカだったのかもしれない。
愛情に飢えて癇癪を起していただけで、元々騒がしい子ではなく本来は物静かな子だったのだと、本を読みたいと久しぶりに頼み事をされたから許可した書庫から持ってきて本を静かに黙々と読むルディアルカを見て思った。
大人でも難しい本を本当に読んで理解している事にロバートはかなり驚いた。
ルベルトも神童だと騒がれていたがルディアルカは別格だった。
そして気が付く。
ルディアルカが変わったと言うよりは、ジュリアやルベルトに対して見限ってしまったのだと。
それを証拠に毎日のように二人の様子を伺っていたのを一切やめてしまった。
出来るだけ関わらないようにしているのが明白だった。
自分までそうなるのではと考えてゾッとしたからこそロバートはルディアルカの部屋に行く事をどんだけ忙しく疲れた時でも欠かす事はなかった。
この子は我が子だと決めた。
これまでの事を謝罪するルディアルカを見た時に決めたのだ。
赤子からココまでロバートが育ててきた。
ジュリアが放棄してしまった、本来は母親がする事を全てロバートがやってきたらこそ愛情は我が子のルベルト以上に深くなった。
だからこそ王族が参加する今回のパーティーでルディアルカを我が子として公表した。
こんな事件が起こると分かっていたら参加なんてさせなかったのにと、拳を強く握りしめ悔やむ。
ルディアルカも望んではいなかった。
なのに、ルディアルカを手放したくない一心で公表した。
自分のせいだと後悔が止まらなかった。
気持ちを落ち着けようとルディアルカの額にそっとキスをして部屋から出ると執事が小声で話しかけてくる。
「旦那様、奥様とルベルトお坊ちゃまがお待ちです」
「………今行く」
執事の言葉に思わずため息をつく。
重たい足取りでジュリア達が待つ部屋へと向かった。
部屋に入れば二人は緊張した様子でそこにいた。
自分がこれだけ悲壮感に駆られていると言うのに平気そうな二人を見ていると苛立った。
話をしようと思っていた気分ではなくなる。
「二人とも部屋に戻っていいよ」
「貴方、あの」
「父上」
「ここ最近色々あって私も疲れたし、君達も疲れただろう?今日は休もう」
今は駄目だと、口を開けば酷い事を言いそうになると我慢してロバートがそう言うとジュリアは不満そうにロバートを見た。
「ルベルトが怪我をしたと言うのに、貴方は何故あんな子に付き切っりなのですか!?」
「………なに?」
ジュリアの言葉に堪えようとする感情が爆発しそうになるのを我慢するようにロバートは言葉を選ぶ。
「怪我は完治しただろ?」
「そう言う問題ではありませんッ!!貴方は一度見に来たっきりあの偽物にかかりきりで、ルベルトがどんな気持ちになるか考えないのですか!?」
「母上、やめてくださいッ、私は平気ですッ」
「いいえ、ルベルトッ。偽者に構って我が子を蔑ろになんて許されないわッ」
ジュリアのその言葉に抑えていた気持ちが爆発する。
ロバートから溢れ出る熱気にジュリアもルベルトも言葉を失う。
その身に纏う魔力がチリチリと燃えるような音を立てていた。
「許されないのは君だよジュリア」
「ど、どう意味ですのッ」
「私はね、君のルディアルカへの態度を見る度に胸が痛くて痛くて堪らなくなるんだよッ!!」
「わ、私だって我が子ならそんなことしませんッ」
「そうだろうね、それがわかるからこそ私は不安になるんだよッ」
「不安?一体何を言ってるんです!?」
「君はどうして考えないんだ?入れ変えられた我が子がルディアルカと同じ目に合っているかもしれない可能性を」
ロバートがそれを言った瞬間、ジュリアもルベルトも言葉を失う。
「君が受け入れらないように、入れ替えられた我が子が同じようにその母親に接せられたらと思うと私は胸が痛くて仕方が無いんだよッ!!君の態度が!行動が!そうだと証明しているようで我が子が不憫で仕方がなくなるッ」
「!?」
「入れ変えられた子供達には何の罪もない、私達の子にもルディアルカにだって罪はないんだよッ!!なのに無い筈の罪を私達が与えてどうなると言うんだッ!?我が子として受け入れろとは言ってない、せめて普通の子に接するようにしてほしいと私は何度も君に頼んできたッ、だが、君はそれすらも出来ないと酷い態度をあの子に取り続ける、私にはルディアルカが受けている境遇が我が子と同じではないかと考えて胸が痛くて仕方ないんだよッ」
ロバートの悲痛な吐露にジュリアはガクガクと震え言葉を失う。
ルベルトも同じように顔色が悪かった。
「わ、わたくし……」
ロバートに指摘されて漸くその可能性に気が付いたのか言葉を失い必死に何を言うとジュリアはするが何も言葉にする事は出来なかった。
ルベルトも自分を助ける為に必死になっていたルディアルカを思い出していた。
だが自分はジュリアと同様に偽者だと言う認識から酷い態度を被害者であるルディアルカに取っていたのだと気づかされた。
ロバートの言うとりだった。
少し考えれば行き着く考えに至らなかった。
ルベルトは最後に見た酷い怪我をしたルディアルカの姿が頭から離れず罪悪感に胸が苦しくなった。
室内が重たい沈黙に包まれる。
そんな二人を見てロバートは溜息をつくと部屋の出入り口へと向かう。
「安心するといい、あの子はもう君達に何の期待もしていない。親でも家族でもないとあの子はしっかりとあの年で理解して距離を取ることにしたようだ。私もこれ以上は君達に頼む事はしない………悪かったね、少し言い過ぎたようだ、私も疲れているみたいだ、今日はここまでにしよう」
それだけ言ってロバートは部屋を後にする。
流れ出た涙は止まらず、部屋に戻る気にもなれずロバートは再びルディアルカの部屋へ向かう。
執事に頼み簡易ベッドをルディアルカの部屋に運ばせるとその間にシャワー等を澄ませて並べられたベットへと横になる。
薬が効いているのか静かに眠るルディアルカに触れながらロバートは暫く静かに涙を流しながらそれを見続けた。
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ルディアルカが可哀想で可哀想で……!これからどうなっていくのかが気になります。陰ながら応援しております……!