英雄は全力で囲い込みます

悠木矢彩

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リリスは10番目の側妃として召し上げられたが、皇帝からのお渡りは一度もなかった。
小国ゆえなのか、侮られるているとみられてもおかしくないがリリスにはありがたかった。
帝国で生きていくにはひっそりと生きていくことが一番だと、出国する前両親から強く言い渡されていた。
イスマルには弟がいるので後継には問題がない。
姉姫は体が弱いゆえに人質としての価値がなかったと聞く。

リリスはそれでもよかった。

リリスはイスマルを愛していた。
彼女は自然の中で、人生を生き方を学んでいた。
生も死も彼女は受け入れた。

後宮の端、そこは森に覆われた小さな屋敷だった。

「今日からリリス様はここで過ごしていただきます」


女官長らしき女性は表情を変えずに言った。

「わかりました、私の侍女はいますか?」


「…二人ご用意しております、急なものでまだ人事が滞っており申し訳ありません」

とっさにリリスは嘘だと思った。
自分がここに来ることは急でも何でもない。あらかじめわかりきっていたことだが、早速後宮の洗礼かと思った。


「二人で結構です。私には過ぎたる人材でしょう」


女官長はリリスの言葉に目を見張る。

たかが14歳のこの少女はこの状況を瞬時に理解していたからだ。

「かしこまりました、すぐに人材の手配を…」

「いいえ、要りません」


リリスの表情は無だった。森を見て風を受け静かにたたずんでいた。


女官長は今までの側妃とは違うと感じた。
この少女はただあるがまま受け入れ、そこに感情を乗せようとはしていないと。
普通なら自分の境遇を嘆き、そして皇帝に媚びを売るために着飾ってくるというのに、少女の姿は到底この帝国内にいる貴族のものでも王族のそれとも異なっていた。


「リリス様…あの…ドレスは…?」

普段表情の変えない女官長が戸惑っている。

「必要ありません。皇帝様にもしお礼を述べることができるのでしたらお伝えしていただけますか?リリスには過ぎたる場所を授けてくださり感謝いたしますと。それとも手紙を書いたほうがいいでしょうか?」


「…いえ、お伝えできるかわかりませんが…手紙は…」


「そうですか…わかりました。私は故郷と同じようなこの空間をとても気に入っています。」

そういうリリスは森の中に目を向けながら言った。



「お気に召したのでしたらよかったでございます。」


「もし、二人の侍女が他所の仕事を希望したらそれは叶いますか?」

「…はい?」


「だから、侍女がここではないどこかで仕事を希望した場合の行先はありますか?と尋ねています」

「…今は人材不足なものですから、どこにでもありますが…」


「なら彼女たちの希望を先に聞いてください。先ほども言いましたが私には過ぎたるものです。」


女官長は意味は分からないがこの少女は侍女を必要としていないらしいことは理解した。


「かしこまりました」



「では、私は散策してきます。大丈夫逃げも隠れも致しませんし、自害ももちろんです。」





「あ…!!!」



女官長が止める間もなく、リリスは森の中へと入っていった。







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