ラブとミシェル

紫 李鳥

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バレちゃった!

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‥冷蔵庫からハムとレタスを出しました。さて、何を作るのでしょう‥

 料理中、足元にオスワリをしてじっとして待ってるラブは、ミシェルが動くとついて来る。

‥おっ、今度は卵を出しました。卵料理のようです‥

 ミシェルが見下ろすと、「まーだ?」そんな顔で見上げていた。

「今、私のを作ってるの。少し分けてあげるからね」

‥楽しみ‥



 テーブルに自分の皿を置くと、出来上がったオムレツを少しドッグフードに混ぜた。

‥オムレツか。悪くないな‥

「待て」

 ラブは餌とにらめっこ。ミシェルは席に着いてフォークを持つ。

「よーし」

 食事の許可をすると、かぶりつくラブ。

‥うまい!‥



 ラブの寝床は、ミシェルのベッドから手が届く、チェストの上に置いたクッション。

「ラブ、おやすみ」

「……クン」


 ペット禁止のアパート事情を知ってか知らずか、この数ヶ月、ラブは一度も吠えなかった。お陰で、住人に知られずに済んだ。

 散歩の時も、ボストンバッグで持ち運んだ。

「あら、旅行?」

 と、斜向かいの奥さん、キャシーがカバンを見て聞いた時も、

「ううん。スポーツジムに通ってるから、着替えとかシャンプーとか」

 と、誤魔化した。

「それ以上スリムになってどうするの? ジムに通いたいのは私の方よ」

 でぶっちょのキャシーが腹のぜい肉をつまんだ。

‥うぇー、見たくねー‥

 ファスナーが少し開いたカバンの中から覗いたラブが目を逸らした。

 アパートの連中にラブを見られたらまずいので、バスで隣の町まで行く。

 カバンから覗いてるラブの鼻先をでた。

‥今、バスの中だろ? 分かってるよ。心配するなって、吠えねぇから‥



 空き地を見つけると解放。ストレスを発散するかのように駆け回るラブ。

‥ハァハァ……幸せだぜ、この走る喜び。めしの時と、この散歩の時が、俺の至福のひととき。ああ、ミシェルありがとよ! 愛してるぜ‥



 だが、それから間もなくして、とうとうラブが吠えてしまった。ドアノブを回す初めての音に。

「ウー、ワンワン!」

 途端、靴音が走り去った。

「ちょっと、何、今、犬の吠える声がしなかった?」

 キャシーの声だ。

「確かにしたわ。ミシェルの部屋からよ」

 向かいの大学生、グレースの声だ。

‥どうしよう……バレちゃった‥

 ラブは肩を落とした。



 ミシェルがそのことを知ったのは、会社から帰ってからだった。

 結局、アパートを出て行くしかなかった。

‥ミシェル、ごめんよ。俺の過失でこんなことになっちまって。悪気はなかったんだ。反射的というか、発作的というか、俺達の本能というか、……とにかく、悪かった。すまねぇ‥

「さて、どこに引っ越そうか?ペット可のアパートは家賃高いしなぁ……」

 ミシェルはため息をついた。

‥すまねぇ、家計のことも考えねぇで‥

「どっか、片田舎の一軒家でも借りるか。そうなると、会社も辞めないとな」

‥すまねぇ、そこまで深刻な問題に発展するとは思わなかった‥

「そうなると、車が必要となるな。中古を買うしかないか」

‥すまねぇ、余計な出費をさせちまって‥

「貯金で当座は食いつなげるとしても、何か仕事を探さないとな」

‥厄介をかけます‥



 中古車を買うと、ラブとの住まい探しを始めた。

 一日中、探し回ったが、家賃の安いペット可のアパートはなかった。

 結局、退職して、片田舎に行くことにした。家財道具をすべて処分すると、最低限の服と生活必需品を車に積んだ。
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