鳩の縛め〜森の中から家に帰れという課題を与えられて彷徨っていたけど、可愛い男の子を拾ったのでおねしょたハッピーライフを送りたい~

ベンゼン環P

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第四章 巣立ち

第四十三話 報い 43 4-4-4/4 134

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 両者の睨み合いは暫く続いていた。
 しかし、やがてカラの手は力を失ったように胸倉から離れる。そしてその体はケンの胸元へと倒れ込む。
「カラ?」
「あ、ああ……」
 呻くような声を上げる。
「どうした!? しっかりしろ!」
 カラの両肩を揺らしながら呼びかける。
「う、う……」
 明らかに様子のおかしいカラの体をゆっくりと畳へと横たえた。そして気づく。
 カラの背中から、血が溢れ出していることに。

 同時にケンは、カラの背後から視線を感じていた。恐る恐る視線の根源へと顔を上げる。

「きゃははっ! やぁっとケンと2人きりだぁ!」

 実際は顔を上げるまでもなく、そこにいる者が誰であるか分かっていた。
 
 「アイ……!」
 
 しかし眼の前のアイの笑みは、これまでにも見たことが無い。
 彼女の右手には小刀が握られている。その刃先は既に赤く染まっていた。

「お前!」
 考えるより先に体が動いた。
 アイの右手首の辺りを叩いて小刀を払い落とす。
 さらにアイの首を掴み、ぎりぎりと締め上げる。先ほどのキリに対する処置と同様だ。
 
「あははー、ケンのうでー、あったかーい……」
 不気味なうわ言を述べながら、アイの意識は途絶えていく。
 完全に体が動かなくなったのを感じると、ケンは乱暴にアイの体をキリの傍へと寝かせた。

 次いでその部屋にある押し入れを開き、中から白い敷布しきふを引っ張り出す。
 そして荒々しく布を1尺ほどの幅に裂き、カラの体に巻き付けていく。
「け、ケン……」
「しゃべるな!」
 カラの体に重ねられていく布は、すぐに最表面まで赤く染み出してくる。
 布が尽きれば、次の敷布を裂いて巻き付ける。
 その工程を4度ほど繰り返すことで、ようやく出血が収まってきた。

「じっとしてろよ!」
 横たえた体に声を投げ、家の外へと飛び出した。
 向かった先は村にある巣だ。今ならフデが滞在しているはずである。

 ――――

「なんでこんなことになってるんだ!?」
 いざなわれるまま件の寝室へとやって来たフデだったか、眼に映る惨状を見て愕然とする。
 これまでの生涯においても、これほどの血は見たことが無い。
 
「オレのせいだ」
 ケンがぼそっと呟く。
「お前がやったのか!? まさかお前アイのことが諦めきれず……」
「それは違う!」
 ぞっとする見解に思わず声を張り上げた。
「アイだ。こいつのことが邪魔だと思ったらしい」
「まさかそこまで……」
 アイを幼い頃から知るフデである。当時より嫉妬深く、激情しやすい性格であることは認識していたが、刃物まで持ち出すとは思っていなかった。
 なによりカラとの鴛鴦の契りが成立した際には心から喜んでいたはずだった。それを見て、アイはもう大丈夫だろうとすら考えていた。
 ケンとの出会いがそれほどまでにアイの心をかき乱したのだろうか。
 
「なあフデ。こいつのことトミサの医術院にいれてやれねえかな」
「……確かにこのままじゃ命が危ない。そうするべきだろう。しかし……」
 トミサの医術院に入院させられる条件は、鳩の不埒によって傷を負った場合である。
 アイの凶刃によって現在のカラの惨状が生み出されているとなれば、それは一般住民同士での諍いとして取り扱われ、トミサで門前払いとなる。
 
「オレがやったも同然だ。そういうことなら話も聞いてもらえるだろうよ」
「お前!? それじゃ烏の烙印を……」
「ああ、免れないだろうな」
 ケンは飽くまでも達観したような口ぶりだ。
「だが、遅かれ早かれこれはこうなる運命だった。アイと不義密通を交わした時からな」
「そうか……。いいだろう。お前の覚悟を受け止めてやる。お前が一方的に悪い訳じゃないだろうが、アイもお前と出会わなければここまで狂うことは無かっただろうしな」
 誰よりも美しく生まれたアイ。
 フデにとっても、彼女にどんな輝かしい未来が待っているのだろうと楽しみにしていたところはある。
 理不尽だろうと感じながらも、ケンのことを責めてしまうのは仕方のないことだった。
 
「だがアイはどうする? このまま見過ごすのか?」
 フデに残された良心が、そう問いかけていた。
「ラシノに置いていく。オレの居なくなることがアイにとっての罰なんだろう」
 ケンはアイを見下ろしながら、下唇を噛む。

「フ、デさん……。僕からもお願い……します……」
 アイに向けた視線の先。その隣に横たえた体から、絞り出すような声が聞こえてくる。
「カラ! 無理をするな!」
 ケンは眼を皿のようにして制止を促す。
「キリは……、アイから、愛を受けたがっていました……」
 しかしカラは止まらない。
「ケ、ン……。キリのことを頼む……」
「あ、ああ。これからガキのことはオレが守ってやる。次にオレと会うことがあればの話だが……」
 これからのケンは、烙印を負い、ナガレへ送られることになる。次にキリと会うことなど、考えにくい状況だ。
 頼りのないケンの返事であったが、カラは満足したようだった。
 
 最後の力を振り絞るように、カラはその場を這う。そして体を横たえるキリへと近づき、顔を覗きこんだ。
「ご、めんなキリ……。アイと、仲良く……」
 言い終えるとその場に顔を突っ伏し、動かなくなってしまった。

「フデ、担架はあるか?」
 ケンは冷静になっていた。
「ああ」
「トミサまで運ぶぞ。くれぐれも安静にな」

 ケンも我が子のためできることはやったのだと自負していたところがある。
 しかしカラを前にして、この男が子を思う気持ちには、到底かなうはずもないと畏怖の念さえ覚えていた。
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