Fu✕k!F◯ck!Rock!!!

くらえっ!生命保険ビーム!!

文字の大きさ
2 / 17

ロック信仰

しおりを挟む
結局、あの音は何だったんだろうか。
アンプもスピーカーも繋がっていないエレキから
あんな音が聞こえるわけがない。
というか、本当に音だったのかさえ怪しい。

「………い?」

疲れ切って見た幻覚か?
けど、そんなのにしてはクリアすぎるし、
何よりも衝撃的すぎる。

「せ…ん…ー?」

結局、アイツはその後
ライブも何もしないですぐ撤収していた。
ただの変人?けど、

「先輩!」

「おわっ!?な、なんだなんだ!?」

急な呼びかけに
思考の波が防波堤でせき止められる。
視覚と聴覚に感覚を割けば
そこにあったのは
心配そうにこちらを覗く朝時の顔。

「大丈夫っすか、先輩?
 今日朝からずっとぼんやりしてません?」

続く言の葉にも心配は募っていた。

「すまんな、ちょっと疲れてて。」

口を開いてから思ったが
こんなにもずさんな返しがあるだろうか。
よほど間の抜けた奴か愚鈍な人間しか
納得しない理由ではないか。

「やっぱり、今日は昼で上がったらどうっすか?
 仕事も全然ないし、昨日も遅かったんすよね?」

勿論、朝時は間の抜けた奴でも愚鈍な人間でもない。
それにそうだな。
こんな状態で点検作業なんてしたら危ない。
一応、整備士の端くれとしてのプライドもあるわけで
職場で大怪我を負うつもりもない。

「そう、だな。
 朝礼で本田さんもそう言ってくれたし
 今日はちょっと帰るわ。」

そう綴れば、
朝時は安堵を示すように笑みを浮かべる。

「確か先輩、明日は休みでしたよね。
 しっかり休んでくださいね!
 それか気分転換になんかやるとか!」


シートベルトを占めて、エンジンをかける。
気分転換、そうだな。
いつまでも引きずってるわけには行かない。
とりわけ今回の悩みのタネは忌避すべきもので
元カノに惨めったらしく想い寄せるようなものだ。
もう捨てた物を拾うつもりはない。

「せっかく明日は休みだし、久しぶりに…」

1日空いていればなんだってできる。
買い物にでも行くか、上手いもんでも食い行くか

「ひさし、ぶりに」

映画でも観るか、風呂屋に行くのでもいい。
そうだ、趣味を満喫しよう。

「あれ?」

あークソ。

「俺の趣味ってなんだっけ?」

考えなきゃ良かったかな。


職場から自宅までは20分もかからない。
まぁ自宅とは言ってもアパートの一室だが。
丁度、この信号を曲がり大通りから逸れれば
コンクリート造りの無機質な長方形が見えてくる。

「ん?」

フロントガラスを介して疑問は瞳に映された。
2階建てのアパート。
それは上下4部屋づつ、計8部屋からなる。
内の、下段。右から数えて3つ目。
少しだけ建付けは悪いが、
防音性はそう悪くはないことが特徴である俺の家だ。
そこに、それがある。真っ黒な塊。
淡水色の扉の前にその塊がいる。
遠目から見ればまるで壁に大穴が空いたようにも
見えるそれは、近づくにつれて
輪郭をより鮮明にさせる。

「え、人?」

そう、人だ。
小柄な人物がしゃがみ込むようにして
扉の前を陣取っている。
真っ黒なのは全身を覆っているロングコートだ。
なぜ、なんで、どうして?
そんな混乱が脳内回路を叩き割るよりも早く
一つの気泡が浮び上がる。

似て、ないか?昨日の奴に。

ドクンと心臓が跳ねる。
疑念は確信へ近づく。
小柄で、真っ黒。
なにより車を降りて、正面から見れば
壁にはギターケースが立てかけられている。
間違いない、あいつだ。

けど、なんで?
気泡はいとも容易く割れて、
脳内回路が叩かれ始める。
なぜ、なんで、どうして?
確信は猜疑に埋もれていく。
理解できるはずがない、手がかりがない。
答えのでない押し問答に手を伸ばして沈んでいく。
そうだ、埋もれた確信を掴むには沈むしかない。

「あの、どうかしましたか?」

気がつけば黒いソイツに声をかけていた。
跳ねる心臓がまるで警鐘のように聞こえ
耳鳴りが不幸を知らせるように脳を軋ませる。

「……僥倖。」

呟かれたその声音は存外高く、細かった。

「これもロックの思し召しでしょう。」

立ち上がる、それを見て初めて気がつく。
修道服だ。
ロングコートに見えるのはローブで、
ニット帽に見えたそれは漆黒のベール。

「失礼、先日金城駅前に居られましたよね。」

「え?あぁ、はい……」

見慣れない存在に狼狽えてしまう。
シスターがエレキギターを引く?
そんなバカなことがあるはずがない。
だが、
そんな生温い考えは瞬きの間にねじ伏せられる。

「そうですか。えぇ、良かった。」

顔を隠すベールが、風に吹かれて乱れる。
神秘の守りにヒビが入り、聖域が外界に晒される。

「失礼、もう一つだけ質問を。」

サファイアを埋め込んだような美しい瞳。
絹糸で編まれたようなきめ細かく色白な肌。
紅色の薄い唇は、劣情よりも感嘆を招く。
スラリとした鼻筋がその顔の耽美さを際立たせる。
そしてなにより

「あなたはロックを信じますか??」

この顔はシスターにできるもんじゃない。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「魔物の討伐で拾われた少年――アイト・グレイモント」

(イェイソン・マヌエル・ジーン)
ファンタジー
魔物の討伐中に見つかった黄金の瞳の少年、アイト・グレイモント。 王宮で育てられながらも、本当の冒険を求める彼は7歳で旅に出る。 風の魔法を操り、師匠と幼なじみの少女リリアと共に世界を巡る中、古代の遺跡で隠された力に触れ——。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

現代社会とダンジョンの共生~華の無いダンジョン生活

シン
ファンタジー
 世界中に色々な歪みを引き起こした第二次世界大戦。  大日本帝国は敗戦国となり、国際的な制約を受けながらも復興に勤しんだ。  GHQの占領統治が終了した直後、高度経済成長に呼応するかのように全国にダンジョンが誕生した。  ダンジョンにはモンスターと呼ばれる魔物が生息しており危険な場所だが、貴重な鉱物やモンスター由来の素材や食材が入手出来る、夢の様な場所でもあった。  そのダンジョンからモンスターと戦い、資源を持ち帰る者を探索者と呼ばれ、当時は一攫千金を目論む卑しい職業と呼ばれていたが、現代では国と国民のお腹とサイフを支える立派な職業に昇華した。  探索者は極稀にダンジョン内で発見されるスキルオーブから特殊な能力を得る者が居たが、基本的には身一つの状態でダンジョン探索をするのが普通だ。  そんなダンジョンの探索や、たまにご飯、たまに揉め事などの、華の無いダンジョン探索者のお話しです。  たまに有り得ない方向に話が飛びます。    一話短めです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...