Fu✕k!F◯ck!Rock!!!

くらえっ!生命保険ビーム!!

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ロック信仰

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結局、あの音は何だったんだろうか。
アンプもスピーカーも繋がっていないエレキから
あんな音が聞こえるわけがない。
というか、本当に音だったのかさえ怪しい。

「………い?」

疲れ切って見た幻覚か?
けど、そんなのにしてはクリアすぎるし、
何よりも衝撃的すぎる。

「せ…ん…ー?」

結局、アイツはその後
ライブも何もしないですぐ撤収していた。
ただの変人?けど、

「先輩!」

「おわっ!?な、なんだなんだ!?」

急な呼びかけに
思考の波が防波堤でせき止められる。
視覚と聴覚に感覚を割けば
そこにあったのは
心配そうにこちらを覗く朝時の顔。

「大丈夫っすか、先輩?
 今日朝からずっとぼんやりしてません?」

続く言の葉にも心配は募っていた。

「すまんな、ちょっと疲れてて。」

口を開いてから思ったが
こんなにもずさんな返しがあるだろうか。
よほど間の抜けた奴か愚鈍な人間しか
納得しない理由ではないか。

「やっぱり、今日は昼で上がったらどうっすか?
 仕事も全然ないし、昨日も遅かったんすよね?」

勿論、朝時は間の抜けた奴でも愚鈍な人間でもない。
それにそうだな。
こんな状態で点検作業なんてしたら危ない。
一応、整備士の端くれとしてのプライドもあるわけで
職場で大怪我を負うつもりもない。

「そう、だな。
 朝礼で本田さんもそう言ってくれたし
 今日はちょっと帰るわ。」

そう綴れば、
朝時は安堵を示すように笑みを浮かべる。

「確か先輩、明日は休みでしたよね。
 しっかり休んでくださいね!
 それか気分転換になんかやるとか!」


シートベルトを占めて、エンジンをかける。
気分転換、そうだな。
いつまでも引きずってるわけには行かない。
とりわけ今回の悩みのタネは忌避すべきもので
元カノに惨めったらしく想い寄せるようなものだ。
もう捨てた物を拾うつもりはない。

「せっかく明日は休みだし、久しぶりに…」

1日空いていればなんだってできる。
買い物にでも行くか、上手いもんでも食い行くか

「ひさし、ぶりに」

映画でも観るか、風呂屋に行くのでもいい。
そうだ、趣味を満喫しよう。

「あれ?」

あークソ。

「俺の趣味ってなんだっけ?」

考えなきゃ良かったかな。


職場から自宅までは20分もかからない。
まぁ自宅とは言ってもアパートの一室だが。
丁度、この信号を曲がり大通りから逸れれば
コンクリート造りの無機質な長方形が見えてくる。

「ん?」

フロントガラスを介して疑問は瞳に映された。
2階建てのアパート。
それは上下4部屋づつ、計8部屋からなる。
内の、下段。右から数えて3つ目。
少しだけ建付けは悪いが、
防音性はそう悪くはないことが特徴である俺の家だ。
そこに、それがある。真っ黒な塊。
淡水色の扉の前にその塊がいる。
遠目から見ればまるで壁に大穴が空いたようにも
見えるそれは、近づくにつれて
輪郭をより鮮明にさせる。

「え、人?」

そう、人だ。
小柄な人物がしゃがみ込むようにして
扉の前を陣取っている。
真っ黒なのは全身を覆っているロングコートだ。
なぜ、なんで、どうして?
そんな混乱が脳内回路を叩き割るよりも早く
一つの気泡が浮び上がる。

似て、ないか?昨日の奴に。

ドクンと心臓が跳ねる。
疑念は確信へ近づく。
小柄で、真っ黒。
なにより車を降りて、正面から見れば
壁にはギターケースが立てかけられている。
間違いない、あいつだ。

けど、なんで?
気泡はいとも容易く割れて、
脳内回路が叩かれ始める。
なぜ、なんで、どうして?
確信は猜疑に埋もれていく。
理解できるはずがない、手がかりがない。
答えのでない押し問答に手を伸ばして沈んでいく。
そうだ、埋もれた確信を掴むには沈むしかない。

「あの、どうかしましたか?」

気がつけば黒いソイツに声をかけていた。
跳ねる心臓がまるで警鐘のように聞こえ
耳鳴りが不幸を知らせるように脳を軋ませる。

「……僥倖。」

呟かれたその声音は存外高く、細かった。

「これもロックの思し召しでしょう。」

立ち上がる、それを見て初めて気がつく。
修道服だ。
ロングコートに見えるのはローブで、
ニット帽に見えたそれは漆黒のベール。

「失礼、先日金城駅前に居られましたよね。」

「え?あぁ、はい……」

見慣れない存在に狼狽えてしまう。
シスターがエレキギターを引く?
そんなバカなことがあるはずがない。
だが、
そんな生温い考えは瞬きの間にねじ伏せられる。

「そうですか。えぇ、良かった。」

顔を隠すベールが、風に吹かれて乱れる。
神秘の守りにヒビが入り、聖域が外界に晒される。

「失礼、もう一つだけ質問を。」

サファイアを埋め込んだような美しい瞳。
絹糸で編まれたようなきめ細かく色白な肌。
紅色の薄い唇は、劣情よりも感嘆を招く。
スラリとした鼻筋がその顔の耽美さを際立たせる。
そしてなにより

「あなたはロックを信じますか??」

この顔はシスターにできるもんじゃない。


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