Fu✕k!F◯ck!Rock!!!

くらえっ!生命保険ビーム!!

文字の大きさ
6 / 17

ろくろくろくろっく

しおりを挟む
チリン、と子気味のいい鈴の音がした。
扉を押し出し歩を進めれば鼻をつくのは独特な匂い。
新品臭い、それでいて何処かフローラル。
ネイビーに包まれてそれらは成り立っていた。

「…すげぇ。」

目に付くのは、様々な楽器。
物静かに足を伸ばし立ち上がるキーボード。
壁に何本も立てかけられたギター。
小高い場所に一つ鎮座するドラム。
クラシックらしいものもなく、
ただひたすらにロックを行うための品々。
教本や、音楽雑誌、数様々なピックやアンプ。
広いフロアを最大限に活かすように
その楽器群は丁寧に設置されていた。

「あぁ!素晴らしい!」

横を向くまでもなく、シスターの様子がわかる。
感動に打ち震え、少し目が涙ぐんでいる。

「ちょ、あんま叫ぶなって!」

だが此処は他所様の店、今までとは勝手が違う。
感激を全身で体現しようとするシスターを
止めにかかろうと手を伸ばせば、
突如、異音が鼓膜を揺さぶる。

「へ!?」

何かが転がり落ちるような異音に耳を澄ませば
2階へ続く階段から
玉らしき物が転がり落ちてくる。
それはやけに赤色を全面に押し出して、
ネイビーな色彩が強い空間の中で異彩を放っていた。
だが、どうにもその赤玉は玉と呼ぶには
やや不格好な作りであった。
というか、目を凝らせば赤じゃない部分さえ持つ。
真円ではなく、少し間延びした楕円。
赤色でなく、淡桃や紅を含む推定赤色。
それが一体なんなのか、答え合わせはやはり
得体の知れないところで訪れた。

「へいらっしゃい!アンナちゃん!」

転がり落ちる球体は、突如として声を発した。
そのまま球体は、それだけを言い残して、
ようやく階段から地面へと着地する。
否、着弾する。
階段から離れ、見事地に触れたそれは、
一度大きく縮むと、バインと垂直に飛び上がる。

「お元気そうで何よりです。マスター。」

平然と声をかけるシスターの眼前には
何故かバックダブルバイセップスのポーズをとった
赤色フリルを纏う女児の姿があった。

「わっはっは!久しぶりだねえ!
 うちに入ってきてすぐ馬鹿でかい声出すのは
 アンナちゃんだけだからね!すぐ分かったさ!」

くるりとこちらに向き返り
豪快な笑い声を上げる女児。
困惑するこちらの様子をよそに
さらに会話は進んでいく。

「ん!?お連れさんがいるじゃねぇのよ!
 なんだい、なんだい!?
 ついにアンナちゃんにも春が来たってかい!?」

ずいずいっと、覗き込んできたその人は
やはり幼顔であった。

「あ、いや、そういうんじゃなくて。」

どうせシスターとは噛み合わないだろうから
下手に放っておけば誰も幸せにならない。
そんな打算的な義務感がに口を開く。

「えーっと、ロック仲間?みたいな感じで。」

おざなりな言葉使いに
思わず額に手をついてしまいそうになる。
思えば3年ろくに友好関係を気づかなった。
受け身的な生活故に、長くいれば強いが
こんな短絡な出会いでは弱い。

「ほぉ~~~~?
 まぁまぁまぁそういう事にしといたるよ!」

なんか、面倒くさそうな誤解をされた。
助けを求めるように(期待はしていないが)
シスターに目線を向ければ
うるばんだ目と口元を押さえていた。

「バンド仲間ッ!そう、そうですとも!
 ついに私にも仲間ができたのです!
 轆轤ろくろさん!」

だがそんな期待は奇しくも叶った。
目下もっとも信憑性をもつ人物が
赤いフリルを纏った女児の手をがっと掴んだ。
初めてシスターが思い通りに動いた気がする。
歓喜に似た感情が腹奥から湧き上がってきた頃、
脳みそに疑問が直撃する。

「え?ろくろ?」

半ば漏れ出たに等しい言葉。
それを受けてろくろと呼ばれた人物は
ニッと口端を吊り上げる。

「そうさ!あたいは轆轤六々ろくろろくろく
 第第続く轆轤家の六代目当主さね!」

サイドチェストを決める女児は
身長にして150センチはおそらくない。
艶の良い黒髪はサイドでまとめられ、
腰元まで長く伸びたツインテールを構成する。
丸目にはルビーを埋め込んだように真っ赤な瞳
そして程よく日に焼けた小麦色肌から
幼さを感じるが、
身にまとう紅色のドレスがそれら一切を濁す。
腰元がキュとしまったシースのドレス。
長く伸びるそれは、足首程度まで続き、
トーンが少し暗めの赤色のハイヒールにつながる。

「ろくろろくろくって、本名?」

聞いたことのない名前に思わずたじろいでしまう。
もっともそのあまりにもチグハグな雰囲気に
飲み込まれてしまったと言えば首を振れないが。

「あっはっは!良い反応だね!」 

失礼極まりない言葉だと認識したのは
口を開いたあとだったが、
本人はさして気にした様子もなく
足をバンバンと叩いて笑う。

「なぁに、出会う奴先々に聞かれるってもんさ。
 あんただけが悩む必要なんてないんだよ。」

そんなこちらの様子を汲み取ってか
いっそう気持ちの良い笑みを浮かべて
六々は話を続ける。

「家は第第商人の家系でね、
 轆轤家を立ち上げた最初の男…高祖父の父。
 名前を轆轤一楽ろくろいちらくって奴が
 まず最初に焼き物屋を始めたのさ。」

そこで一つ拳を突き出すような格好から
人差し指が一本上がる。

「そんで次が高祖父。
 名前を轆轤二楽ろくろにらくって人が
 その焼き物屋を大繁盛させた。」

そこで、中指が一本上がる。
現在二本。

「お次は曽祖父。
 名前を轆轤三楽ろくろさんらく
 この人は焼き物屋での儲けを元に
 染物屋を始めた人さ。」

そこで、薬指が一本上がる。
現在三本。

「やっとこさ会ったことのある祖母。
 名前を轆轤四楽ろくろしらく
 これがまぁ立派な人でね。
 轆轤家初の女当主でありながら
 浪費家だった先代の借金を返すために
 一念発起で洋品店を始めた人さ。
 今の店の原型にもなってるんだよ。」

そこで、小指が一本上がる。
現在四本。

「さぁさ、近づいてきたね!次は父。
 名前を轆轤五楽ろくろごらく
 趣味が転じて洋品店を今の楽器屋にした人さ!
 おかげで娘もどっぷり染まっちまってね。
 それでも轆轤家を支え抜いた大黒柱さ。」

そこで、親指が上がる。
現在五本。

「そんでお待ちかね、一人娘。
 名前はびっくり轆轤六々ろくろろくろく
 現在この店、6Rろくろっくの店主で
 言った通り轆轤家の現当主さ!」

そうして、左手の人差し指が
開いた手のひらに付け加えられ
ニコッと快い笑みを浮かべる。

「その流れで六楽ろくらくじゃなかったんですか?」

何処か江戸っ子のような雰囲気に
遠慮という壁が薄くなっていくのを感じた。
いや遠慮がなくなったというよりは、
関わることを恐れなくなったに近いかもしれない。

「そうそう!その反応も正解さ!
 まぁ、別に大した理由じゃないんだけどねぇ。」

実際、ペースに飲まれているとはいえ
不快な感覚を抱くことはない。
むしろ、そうなるようにコントールされている
そんな感覚がする、それも気遣いによって。

「ほら、言いづらいだろ?ロクラクって。
 それに、うちの親は自由主義でね、
 先祖代々名前を継ぐと要らない
 プレッシャーをかけちまうんじゃないっかって。
 かと言って家を嫌ってたわけでもなく
 名残くらいは残したいってなことで
 六々に収まったって話さ。」

まさしくこれを話術というのだろう。
長い説明もすんなりと頭に入ったし
何よりそれ以上に、
説明以上に人となりを理解できた気がする。

「僕は、鍵谷圭っていいます。
 家の鍵に谷、土2つ重ねて圭です。」

ひどく安心している。
ここ最近は話が通じない奴とサシを張っていたから。

「鍵谷圭ね、いい名前じゃないか!
 よろしく頼むよ、圭!」

小さな手のひらが差し出され、
それを片手で包み込む。
すると、存外がっしりと手は握り返してきて
ブンブンと軽く上下に揺れる。

「ところで、現当主って仰ってましたけど
 ……失礼ながら今、何歳なんですか?」

「ん?えーっと今年で32さね。
 まぁ、まだ誕生日は来てないから
 厳密には31だけどね。」

細身な腕で自分の肩や首を労るように
さするその様子をみて、当然我慢はできなかった。

「31って、そんなわけないじゃないですか。
 だってえ?ねぇ?」

耳打ちをするようにシスターアンナへ
声をかければ、一度パチクリと瞬きをして
くるりとこちらに顔を向けてくる。

「そうですね。轆轤さんは今年で31歳。
 誕生日はまだ来てないので今は30歳です。」

「あり?そうかい?あっはっは!
 ボケるにはまだ早いはずなんだけどね!」

コミカルな雰囲気に飲まれる。
此処までくれば間違えているのは俺なのかも知れない
一度浮かび上がったそれは
思考回路をねじ曲げて確信へと近づく。
そうだとも、身長が150ないほどの、
若々しく艶がいい黒髪とハリのある肌。
くりくりとした丸目に、
ニッと笑うと見える幼さを孕んだ表情。

「…楽器、選ぼ。」

言い聞かせるように、呟いた。

    
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クロワッサン物語

コダーマ
歴史・時代
 1683年、城塞都市ウィーンはオスマン帝国の大軍に包囲されていた。  第二次ウィーン包囲である。  戦況厳しいウィーンからは皇帝も逃げ出し、市壁の中には守備隊の兵士と市民軍、避難できなかった市民ら一万人弱が立て籠もった。  彼らをまとめ、指揮するウィーン防衛司令官、その名をシュターレンベルクという。  敵の数は三十万。  戦況は絶望的に想えるものの、シュターレンベルクには策があった。  ドナウ河の水運に恵まれたウィーンは、ドナウ艦隊を蔵している。  内陸に位置するオーストリア唯一の海軍だ。  彼らをウィーンの切り札とするのだ。  戦闘には参加させず、外界との唯一の道として、連絡も補給も彼等に依る。  そのうち、ウィーンには厳しい冬が訪れる。  オスマン帝国軍は野営には耐えられまい。  そんなシュターレンベルクの元に届いた報は『ドナウ艦隊の全滅』であった。  もはや、市壁の中にこもって救援を待つしかないウィーンだが、敵軍のシャーヒー砲は、連日、市に降り注いだ。  戦闘、策略、裏切り、絶望──。  シュターレンベルクはウィーンを守り抜けるのか。  第二次ウィーン包囲の二か月間を描いた歴史小説です。

ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中

あ、まん。@田中子樹
ファンタジー
仕事一筋40年。 結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。 定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。 だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。 唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。 化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。 彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。 現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。 これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

処理中です...