Fu✕k!F◯ck!Rock!!!

くらえっ!生命保険ビーム!!

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決戦本昼

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「あぁ!待ち遠しい!」

声を上げずには居られなかった。
12の頃に国境を跨いだその日から苦節7年。
ロックバンドに命を捧げてからやはり7年。
どれだけこの日を待ちわびたことが。

Rockよ!私は嬉しいのです!
 ついぞ御身へと真に仕えられるその日が!」

膝をついて、祈る。
技術も技量も手に入れた。
質を求めて量をこなし続けた。
最後に欠けていたのは、仲間だけ。

「どうか、どうか祝福を!
 我が身をどうか!あぁ、どうか!」

「それ俺がいない時にやってくんねぇ?」

怖いんだよ。とケイがぼやいた。

「失礼、昂りを抑えることができなくて。」

ペットボトルのキャップをねじあけ、
レモンティーを軽くあおるが
やはり口にした以上に興奮は冷め得ない。

「楽しみですね!今夜!今夜ですよ!」

普段は滅多に使わないスマートフォンを
今日だけで何度手に取ったことか。
町中で狂ったように画面を見つめる人々を
理解出来る気はしなかったが、
なるほどロックよりも大切なのではなく
皆ロックに関するものを眺めていたのか。
己の浅はかさはまだまだ尽きることがない。

「いえ、それだけRockの懐が深いのでしょう。」

「…文脈は?」

不満気に唇を尖らせているケイ。
それは私という個の種に対してのものであり、
やはり寛大なロックへの不信不満ではない。
現に、彼の足は興奮で小刻みに震えている。

「…なんか勘違いしてるだろ、お前。」

「いえいえ、全てわかっておりますとも。」

そんな和気あいあいとした会話の折り、
静かにドアが押し開かれた。

「一段落したってところかい?」

いつも愛着していた赤色の系統から外れ
今回は青味の深いエンパイアドレスに身を包んで
六々ちゃんが現れた。

「そうですね、丁度さっき終わった所です。」

軽くタオルで額を拭うケイは
どこか口惜しげに応答する。

「まぁまぁ、詰め込みすぎも良くないさ!
 これくらいが丁度良い。
 元プロが保証するんだから、安心しな。」

そんなケイの心情を汲み取ってか、
六々ちゃんはいつもと変わらない態度で
力強くケイを励ます。

「…そうですね。腹括るしかないか。」

そうして、触発されるように
ケイもまた力強く頷く。

「…なんだかお二人、親睦が深まりました?」

六々ちゃんは昔から人の心情を
読み解くのが上手い。
ケイは、どこか隠しがちというか
上手く表現できていない節がある。
確かに相性は良いのだろうが、
何故だか、六々ちゃんの方が信頼されている。
そんなふうに感じてならない。

「お!アンナちゃんがそう感じるかい?
 きっと圭が他人行儀をやめてくれたからだね!」

「他人行儀だなんて、そんな。
 辞めてくださいよ。」

弄るような六々ちゃんと、
それをわかったうえで乗っかるケイ。
…釈然と行かないわけではないが、
六々ちゃんは私の姉で、
ケイは私のバンドメンバーなのですが。

「ふふふっ、少しお手洗いに。」

そんな胸焼けを冷ますべく
もう一度レモンティーを大きく仰いで
六々ちゃんと入れ替わるように
スタジオのドアをあとにする。

「ありゃあ、拗ねたね。
 全く可愛いところしかないねぇ、あの子は!」

ゆったりと外に出たシスターが
ドアを閉め切った頃、六々は心底嬉しそうに
そう口にした。

「拗ねる…なんで?」

一月ほど付き合っているが、
拗ねるような姿や考えは見えてこない。
しかし家族として認知し合う仲の六々が
そう断を下したのなら間違いないのだろうが。

「年頃の女の子なのさ、アンナちゃんもね。
 …それより、どうだい?自信のほどは。」

ずいっと、大股に一歩近づいて
六々はまたも意地悪げな顔をする。

「正直、演れば演るほどって感じですよ。
 …まぁ強がって6:4。現実は7:3って感じです。」

拭ったはずの額にまたもじんわり汗が滲む。

「あっはっは!凄いだろう?アンナちゃんは。」

全く、その言葉に返せない。
何度も何度も練習を繰り返す度に
シスターは決して下にぶれない。
必ず、例外なく、前回よりも上達していく。
殊更曲があればその特徴は顕著だ。
明らかに理解度が鮮明になっていく。
いや、

「けど、圭だってってわけじゃないだろ?」

「まぁ、そりゃそうですけど。」

少なくとも手がかりを得る前からは脱去した。
勝ち目のない戦いから、
もしかしたらと思える戦いになった。
まぁ、毛色が変わった程度だが。

「結構な博打ですよ。
 本番で披露したって
 悪目立ちするだけかもしれない。」

怖気づいている。
情けない話だが、何度前を向こうと
遠くなっていくシスターの背中しか見えてこない。
その事実に怖気づいて、
自分一人では立ち直れなくなる。

「…なんだい、知らないのかい?圭。」

だが、うれしい話。
手を差し伸べてくれる人がいる。
或いは、手を引いていく奴がいる。

「ロックってのは、さ。」

鍵屋圭は、座り込まない。


「…やっぱりケイは六々ちゃんと
 仲良くなりましたよね?」

「いつまで言ってんだよその話。」

長針が、2度目の6を過ぎた頃
太陽は沈み、静かに月が顔を出す。

「あ、ほら。見えてきたぞ。」

目に映ったのは夜色を全面に押し出した建造物。
紫のネオンライトに、金文字の看板。
わかりやすいことこの上ないが、
同時に俗っぽさも上がっていく。

「ついに!始まるのですね!」

感心したように呟くシスター。
外で大声をだすのは辞めてほしいのだが、
流石は都会、流石はそちら側と言ったところか
奇人変人に視線を向ける者はすくない。

「受付でチケットを見せればいいらしいけど、
 …とりあえずこっから入るか。」

黒色の自動扉が一人でに開けば、
眼前に現れたのは、重厚な手押し扉。
シック調で、木製。
無駄な装飾は一切なく、
ただ静かに佇んでいた。

格式が高いか?もしかして。

ドレスコードのような類は
ライブハウスにはない、と聞いていたが
もしかしたらと考えると少し怖い。

「さぁさ、参りましょう!」

そんな思惑をよそに、
シスターは勢い良く扉を押し開ける。
頼もしいのか、考えなしなのか、
どちらにせよシスターのお手柄で
扉の先の世界を知れる。

「……。」

そこにいたのは、筋骨隆々とした浅黒の男。
何かの置物とさえ思える身長で佇み
丸太のような腕で黙々と
見たことのないサイズのダンベルを
持ち上げ、下げてを繰り返している。

「……。」

スーツ調のはずのズボンは、
隆起した太腿に引き伸ばされているのか
格式張った形を崩されて、
ただ皮膚に張り付いているようにも感じる。

「……。」

もはや熊とさえ見紛うほどの上半身を
包むワイシャツとベストもまた
隠すはずの身体をより強調させている。

「…ま、間違えました。」

どうにか掠りだした声とともに、
シスターは一礼して、扉を閉めようとする。
が、顔を握りつぶされてもおかしくない
右手が、重厚なドアを掴む。
逃がすことを許さないように。

「…ご要件は?」

あまりにも存在感にあふれた声が、
静かに鼓膜を揺らす。

「ら、ライブハウスに行きたくてぇ……。」

震える膝を必死にごまかして
財布から貰ったチケット2枚を
おずおずと差し出す。

「…あ~~~~ッ!轆轤さんのッ!」

「え?」

「へ?」

チケットを2枚つまみ上げた男は
甲高い声を上げてブンブンと頷く。

「いやいやいやいや!すいませんね!
 修道服着てらっしゃるじゃないですか!!
 いや~てっきり宗教勧誘だと思って僕!
 すいません!すいません!
 はいはいはいはい!聞いてますよ!
 連絡いただいてます!轆轤さんから!」

滅茶苦茶喋る。
先程までの緊張感が嘘のように
筋骨隆々の男はまくし立てるように喋る。
しかし、表情は一切険しいままかわらない。

「岩見さんに、鍵谷さん!
 七時からの部ですよね!
 ああっ!名乗り遅れました!
 僕、折木っていいます。折木豪おりきごう
 よろしくお願いしますね!」

姿勢正しく差し出された名刺は
SSS代表取締役、と銘打たれていた。

「あ、えっ~と鍵谷圭です。
 よろしくお願いします。
 …すいません、仕事柄名刺は必要なくって…」

「私は岩見杏奈です。名刺はコチラを。
 どうぞ、よろしくお願いします。」

裾奥から名刺を取り出したシスターは
丁重に折木と名刺を交換する。
無職のシスターがなぜ名刺を持ってるのか、
問い詰める気は俄然起きない。

「いやいやいや、お話には聞いてましたけど
 お若いですね~!流石に!
 控室、用意させていただきましたよ!
 一旦入られます?
 担ぎっぱなしってのも大変でしょうし!」

「す、すいません。じゃあお言葉に甘えて。」

そう一言口にすれば
やはり険しい顔つきのまま
折木はくるりと踵を返して歩き出す。

「コチラです!あ!階段暗いんで、
 転ばないように注意してくださいね!」

上品な作りから外れた
味気のない鉄扉を折木が押し上げると、
言葉の通り薄暗い階段が短く続いていた。

「ちなみに、六ろ…轆轤さんとは、
 どのようなご関係なのでしょうか?」

隣を歩くシスターは
もう折木という存在感に慣れたのか
人当たりの良い顔で質問を投げかける。

「筋トレ仲間ですよ!
 たまたま同じジムに通ってまして!
 物怖じしない、気持ちの良い方でしょう!
 こんななりの僕にも話しかけてくれまして!!」

広い背中は階段に注意しているのか、
一切捻れることはない。

「まぁ!そうでございましたか!
 確かに轆轤さんは、
 健康に気を使って居られますから。」

ぱちんと両手で軽く打ち鳴らすシスターは
嬉しげに折木と会話を続ける。
もっとも、この視点から見れば
シスターが壁に話しかけているようにか見えないが。

「こちら、控室になりますよ!」

またも鉄扉を押し開けたのか、
ギィィと何かがこすれるような音ともに
広大なその隙間から光がこもれ出る。
灰色、とまでは行かないクリーム色にも似た空間。
4脚の丸椅子と、そこそこの机が一脚置かれ
壁際にはライトに囲まれた鏡と
何脚か積み上げられた丸椅子の山。
まさしく控室と称するにふさわしい場であった。

「時間になったらスタッフが呼びに来ますよ!
 あちら側の扉からでて、まっすぐ行けば
 すぐにステージです!!
 お手洗いは、でたら右手側にお進みください!
 僭越ながら、この折木!
 応援させていただきます!!」

ペコリと規則正しい一礼の後に
折木は鉄扉を閉めて、闇の中に消え入った。

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