Fu✕k!F◯ck!Rock!!!

くらえっ!生命保険ビーム!!

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Not Sistar

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「……。」

「…あーー。」

折木豪、おりきごう、ごう、おりき。…ごうりき。

剛力だったな。とは口にしなかった。

どちらとも口を開かなかったので、
一先ずはケースからTLを取り出す。
それに習って、というわけでもないだろうが
シスターも静かに楽器を取り出す。

「…何度見ても、目立つな。」

シスターのギターケースから取り出されたのは
レフトハンドモデルlefty
通常の右利きのそれとは違うギターは、
構える向きがただただ違う。

「そうでしょうとも!
 なにせleftyは奏者が極めて少ないですから!」

希少、少数、珍妙。
leftyの様々な特徴を挙げるにしても
恐らくはを上回る特徴はない。
leftyは、極めて良く目立つ。

「…。」

口を開きかけて、閉じる。
もしや目立つことを理由に左手で習得したのか?
そう聞けば、何気ない顔でイエスと
口にしてきそうだったから。

「さて、チューニングを行いましょう。
 約束の時はすでに眼前ですから。」

落ちついた様子で、
シスターは6弦から鳴らしていく。
その後を追うようにして、
コチラも弦を揺らす。

「以外だな、もっと興奮してるかと思った。」

今度は、素直に口にしてみた。
するとシスターは5弦を鳴らして、静かに微笑む。

「興奮もしてますが、
 今はもっと別のものが強いのでございますよ。」

「別って、なんだよ?」

聞いて、4弦を弾く。少し高い。

「嬉しいのです、ケイとステージに立てるのが。」

3弦はどうにも低いみたいだ。

「あんなに否定的だったケイが、
 今では私とともに音を鳴らしている。
 …素晴らしいではありませんか。」

2弦はちょうど良い。

「ケイは、どうですか?」

1弦はやや低い。ペグを直して、もう一度ならす。

「…どうだろうな。」

心の内で渦を巻くのは、一体。
久しぶりのライブへの緊張、
この瞬間を待ちわびていたような高揚、
シスターに勝ち得るかの不安、
あるいは、もっと言葉から遠い何か。

「けど、そうだな。」

混ざり合ったそれらを統括することはできない。
一概に吐き捨てることもできない。
それは、綯い交ぜになった絵の具のようで
正しさも間違いもあやふやで、
ただ一つを信じることさえ危ういようで、
出来ることはそれしかないような。
それは、それはまるで、

「絶対、負けてやんねーからな。」

まるで、信仰のようだと感じた。

「嗚呼、やはり素晴らしい!」

事前告知チューニングはもう済んだ。
それを知らせるように、鉄扉が
湿った音を2回ならす。

「失礼しまーす。」

ギィィと音を立てて暗闇から現れたのは、
帽子を深くかぶった長髪のスタッフ。

「始めまして、スタッフの墨田すみだです。
 ちょっと確認したいことがあるので、
 …あーそこのシスターさん、よろしいですか?」

帽子からはみ出た前髪と、
一本入った金色のメッシュ。
そして、マスクでほとんど顔が見えないが、
愛想の良いポップな声でそう口にする。

「えぇ、構いません。」

一つ頷いたシスターは椅子を引いて立ち上がる。

「ちなみに僕は?」

尋ねるように、人差し指を自分に向ければ
墨田は掌を前でブンブンと振る。

「代表者お一人だけでいいですか?
 うちのクラブ、通路が狭くって…。」

勿論、お兄さんでも!
と付け加えるが立ち上がった以上シスターは
既に行くつもりだろうし、
必要な事なら2人呼ぶだろう。

「わるいな、頼む。」

「えぇ、お任せください。」

「そんじゃ、少しお借りしますね~。」

墨田に釣られるようにシスターは
鉄扉の先へ向かっていった。

「……ふぅ~~~~。」

ここで、初めて気が抜けたように感じた。
険悪というわけではないが、
流石にライバルと四六時中いるのは疲れる。
もっとも、シスターはその先を見ているのだろうが。

「…。」

雑念を捨てて、ピックたてる。
それを滑らせば、一人きりの空間の中で
音階を駆け上がるような音が響き渡る。
ピックを立てて、弦に擦り付ける
通称、『ピックスクラッチ』。

当時ハマっていた
アーティストが使用していた奏法。
学生時代はとにかく目立ちたく
小手先の技術に注力を注いだものだ。
これは、それらの中で唯一武器にできたもの。
そして『自分の音への手がかり』。

だが、使うとしても大サビだけ。

やり慣れた曲ならまだしも
一月で詰め込んだ付け焼き刃の曲。
無理やりなアレンジは蛇足にしかならない。
なにより「RainCode」は大サビに向けての坂道。
下手に助走で力めば曲全体が破損する。
それは勝負以前の問題だ。
勿論、大サビに入れた結構裏目に出る可能もある。
考え始めればキリがない

「が、ロックはだ。」

六々の言葉を反芻する。
ヒビの割れた神経に注ぎ込まれるように
それはすっと体中を巡って
ついぞ足の震えを止める。

「ケイ、出番ですよ!」

「どわっ!?びっくりしたぁ!」

ドンッと鉄扉を開けて
シスターは興奮気味に声を荒げる。
一気に落ちついた心臓が跳ね上がったが、
机に置かれたleftyを軽く握り、
シスターへ手渡す。

「さぁさ!参りましょう!初陣ですよ!初陣!」

「やっぱり興奮してんじゃねぇか。」

落ちついたと思っていたが
上手く火元を隠されていただけらしい。

「まだ慌てる時間じゃないんで、
 トイレとか済ませました?」

ぴょこっと足を踏み入れた墨田が
気遣うようにマスクをモゴモゴ動かすが、
シスターはもはや聞こえていないのか
グイグイと袖を引っ張ってくる。

「あぁ、行く、トイレ行きます。…お前は?」

「早く済ませてきてくださいね、ケイ。」

袖を掴む手を振り切ってトイレへ向かう。

「ケイ、まだですか!?」

「待っとけ!」

結局、悠長にハンカチで手を拭かず
服の裾で水を吸う羽目になった。

「はい、コチラ舞台袖になりますね。」

口元に人差し指を当てるジェスチャーとともに
引き連れた先で墨田は小さく声を発した。

「…あぁ~、演るしかない。」

跳ねる心臓を押さえつけるように、
胸に拳をあてて、言葉を飲み込む。

「……。」

方やシスターは静かに目をつむり
両手のひらを組んで佇む。
叫んだり、落ち着いたり忙しいやつだな。

「それじゃあ、
 あとはMCの方が呼んでくれますので、
 絶好のタイミングとパフォーマンスで
 答えてあげてくださいね。」

中腰で、親指を立てる墨田は
緊張をほぐすためかどこかいたずらっぽく
ポージングを取る。

「ご案内いたしましたのは、墨田でした~。」

そういうと首にぶら下げた
名札を軽く持ち上げたのち、
一礼して墨田はその場を去っていった。
そうして、一拍置いた後
整った女性の声が響き渡る。

『さて、本日はじめのグループは
 ってあれ?バンド名ない?…え?センスで?』

「うっわ、そうじゃん。」

「…あはっ!」

全く上手く行かないものだ。
出だしで躓いてばかり。
けれどそれは、前に進んでいる証明。
暗闇で隠された空間へ歩を進める。
しゃがみ込んでアンプを差し込み
マイクスタンドの前に立つ。

『えぇ~、えーそれでは、
 ご登場いただきましょう!』

どうせ見た目も存在感も負けてる。
魅せるなら音で魅せるしかない。

『えっとえっと
 …(TenTaTive)(仮)の皆さんですッ!!』

その声とともに、ステージ全体が照らされる。
暗がりから逃れるように現れた世界が
1メートル程浮いたものであることを知覚する。

「…。」

この空気が懐かしい。この光景が懐かしい。
照らされたステージから見る観客の様子は
何年経っても変わらない。
視界を、キラリと何かが遮った。
深い青を基調とした空気の中でそれらは光る。
腕時計が、服のプリントが、ピアスが、目が。
不規則で不定形の塊。
メガネからカラーコンタクトから
黒髪から赤髪から半袖からスーツまで
何一つ重なりのないそれらが、
ステージという一つのピンで打ち止められる。
そのピンの上に、立っている。
その自覚がどっと額に汗を浮かばせる。

『あ、あーーー。』

マイクを介して、シスターの声が響く。
その声音に上ずりはない。

『只今ご紹介にあずかりました、(仮)です。
 演奏前に少々、皆様にご協力して頂きたい
 ことがございます。』

ブレもない真っ直ぐな声が
素直にマイクを通して反響する。

『実は私達は今現在、
 センターを賭けた勝負の最中にございます。』

反響する、つまりは返って、響く。
暗闇に飲まれて行くはずの声が
確かに鼓膜を揺らしている。

『そこで皆様には、演奏が終わった際に
 どちらがセンターに相応しいか、
 その判断をお願いしたいのです。』

微細な違和感は、波を打って広がる。
多かれ少なかれステージに人が立つ。
…こんなにも、静かなことがあるのか?

『差し当たって重要なものですが、
 入場の際に手渡されたましたリストバンド。
 そちら一度叩けば赤、二度叩けば青に光ります。
 ですので、まずは…』

一度知覚した静寂は、不気味で異様な静寂だった。
上がるべきものがネタついた泥に覆われて
沈み込んだように、
黒黒と暗闇に縫い合わされている。
跳ねる心拍と干上がる喉が、
指先を強張らせて、背筋を伝う。

『赤色に、変えてみましょうか。』

ゾッと、肌が波を打つ。
なんでもない声とともに、
意思を持たぬ人々の外郭が各々の手を上げる。
手首に巻かれた赤色の装飾が
闇を照らしあげているのに、
根本的な恐怖が和らがない。

「…お前、まさか」

カンと音を立てて役者が照らされる。
肌を焦がすような光の束が存在を確立させる。
証明される。此処にいるという現実を。
額に滲む汗は熱光線から持たされる物ではない。
変わらない恐怖。
芽吹き、枝葉に別れた恐怖。
それは容易く花を咲かせて膝を貫く。

『おや、ご存知ありませんか?』

光に照らされながら、コイツはいつも陰だった。
ステンドグラス越しに光を受けて佇み、
スポットライトを浴びて尚、
身肌を覆う黒衣は決して色褪せない。
否、その内に包まれるのは身肌などという
生易しいものなんかではない。

『ロックとは、ですよ。』

やはりコイツは、シスターなんかじゃない!


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