コミュ障じゃないボカロPが書いたラノベなんて読まない

ぼを

文字の大きさ
3 / 94
プロローグ

第3話

しおりを挟む
 待ち合わせの時間までにどこかで昼を食べようかと思ったけれど、意外とギリギリの時間になってしまったので、やめた。僕は適当に人の波をかき分けたりしながら、ハチ公像を探した。有名な像だし、よく待ち合わせに使ったりするんだろうけれど、この人の波の所為か、何度も渋谷には来た事がある筈なのに、この像の事は意外と印象に残っていなかったりする。自分だけか。それとも、最近の駅周辺の大規模工事で、皆同じように目印を失っているのかもしれないな。
 ミコはまだ来ていなかった。う~ん。ちょっと来るのが早かったのだろうか。彼女と待ち合わせするのは初めてではないけれど、そういえば前回も結構遅れて来たもんな…。
「…じゃないでしょ!」
 ハチ公像からミコの声がした。そして、像の後ろから、ミコの顔が少しだけ覗いた。僕は苦笑した。
「よくないな」僕はミコに近づきながら言った。「人の考えてる事を勝手に辿るのは」
 僕の言葉に、ミコはまた、べ~だ、と舌を出した。
「そっちこそ、よくないよ」ミコが意地悪そうな表情で言って来た。「一緒に外出するのは慣れてないもんね」
「どういう事?」
「しっ!」ミコは、自分の口の前に人差し指を立てた。「ボクはいいよ。いくら声を出して話しても」
 言われて、僕は、ハッとした。それで、そうだった、外出中、君との会話で声を立てるのは気を付けるよ、と言った。ミコがボクっ娘なのは意味と理由があるが、とりあえず今は触れない。

 僕はミコの手を引きながら、人の波を掻き分けて交差点を渡った。ミコは初めての人混みに、あれっ、あれっ、と小さな声を立てながら狼狽している様子だったが、よくついてきた。

 109の前で一旦立ち止まり、僕はミコに、どこか行きたいところあるか、訊いた。
「おやつの時間だよ? 甘いもの食べたい」ミコが言った。「最近だと、ホットケーキとか?」
 一時のブームはそろそろ去ったかと思うけれど、そういえば表参道あたりでは至る所で行列が出来ていたのを思い出した。どこだったか、専門店ではないから行列はできてないけれど、美味しいパンケーキを出す店だという所を以前誰かに教えて貰ったのを思い出し、スマホでマップを調べた。思った通り、マーキングしてある。

 僕はミコに、まだ時間あるし、表参道まで歩くか、と訊ねた。ミコは笑顔で首肯した。
 公園通りを抜けて神宮前まで歩き、そこから表参道駅の方角に向かって慫慂した。ミコは、普段連れまわさないという事もあってか、目に映る色んな物に興味を持った。始終、うわぁ~、とか、あれは何、とか喧しかった。
 東京に来て初めて表参道を歩いた時は、ちょっとした裏路地にも物凄い長さの行列が出来ていたりして、かなり面食らった。もう慣れたけれど、日本人が熱しやすく冷めやすいってこういうことなんだろうな、って妙に得心した記憶がある。

「お店はどこなの?」ミコが言った。僕は、キディランドの近くだったと思うんだけれど、と返した。ミコは少し地団太を踏むようにして「お腹すいたよ~」と言った。僕はそれに、嘘つけ、と返してやった。

 目的地に辿り着けず、周辺の区画を2往復くらいした。店の外見が完全に道行く人の無意識に溶け込んでいて、気付き様がなかった。真四角で黒くって看板もない、そんな感じ。

 外には確かに行列はなかったけれど、中に入ると備え付けのソファだの椅子だのに、待ち客が何人もいた。カップルが多いが、女性の一人客もいる。僕は、少し安堵して、何名様ですか、と問うてきた女性店員に対して、2名です、と浮ついた声で話しかけるミコを尻目に、指を1本だけ立てた。
「なによぉ」一人用のソファに腰を下ろした僕に向かって、ミコが言った。「2名様じゃん」
 僕は苦笑しながら、無言で体を半身だけずらし、空いたスペースにミコを誘導した。彼女は口を尖らせながら、ソファに座った。長いツインテールの髪がフワリと宙を舞い、僕の頬を撫でた。僕は、故意に機嫌悪そうにしているミコの横顔に向かって、一人席を案内されたら膝に座らせてあげるよ、と声をかけた。それで彼女は、薄く笑みを漏らした。

 幸い、向かいの2人席に案内された。僕は、パスタとパンケーキを注文した。ミコはそれに対しても文句を控えなかったが、僕は適当に、はいはい、とあしらった。
「ボク、パンケーキなら1人前食べられるよ」食べられる物なら食べてみろ、ってんだ。僕が周囲からどんな目で見られているか、ちゃんと考えて欲しいよな。「あれ、ここ、お酒も飲めるんだね」メニューリストに目を落としながら、ミコが呟く様に言った。「ボクも酔っぱらったりするのかなぁ…」
 それは知らない…。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、11人?の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』

まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。 朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。 「ご主人様の笑顔が見たいんです」 その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。 全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!? 甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処理中です...