9 / 94
コミュ障じゃないボカロPの歌なんて聴かない
第5話
しおりを挟む
初めて試みた時は、相当に恥ずかしかった。自宅のベッドに腰かけて、まずは目を閉じて、頭の中でミコとの会話を想像してみた。元気? 今は何をしているの? 好きな色は? 好きな食べ物は? 色々と質問を投げかけてみたりした。けれども、返答を頭の中で作り上げるのに非常に難儀した。何しろ、知らないんだ。ミコが何が好きだとか、どういう設定で存在しているか、とか。なので、回答が解らない物なんかはとりあえずスマホ内にメモをして、後から適当に設定をでっち上げる事にした。どのみち、僕の頭の中にしか存在しないんだから、本来の設定どうこうじゃない。あと、特定の回答があるような話題は避けて、それこそ天気の話とか、今日あった出来事なんかを語り掛け、それにオウム返しさせる事で会話が成り立つ事が段々解ってきた。
ミコの声を想像し、頭の中で響かせる事は造作なかった。これは或る意味当然で、僕がいつもボカキューで設定しているシンガープロパティに合わせるだけ。ジェンダーファクターがマイナス30くらい。子供っぽい声だ。
なかなか受け入れられなかったのは、ミコの一人称だ。自分の楽曲では、全て「わたし」か「あたし」だけれど、いざ自分の頭の中で何かしら発言させようとすると、「わたし」は思っていた以上に困難だった。つまり、恥かしいと感じた。なので、暫くは一人称を言わせないようにしたりとか、逆に「わたし」を何度も繰り返して慣れようと努力したが、結局どちらもうまくいかず、結論として「ボク」にしてやった。そういえば、公式設定はどちらでもなかった筈。だから、僕のミコは、ボクっ娘だ。
ミコの声のタルパを具象するのは、根気が要った。兎に角、何度も挫折した。タルパ自体の存在を内心で猜疑の念で以て接していたからかもしれない。だから、この無謀な試みを続けている事は、最中に於いて、決して友人には語らなかった。尤も、彼は顔を合わせる度に、ミコのタルパは出来たのか、と囃して来たが。
初めて無意識下に於いて、ミコが自発的に、僕の頭の中に話しかけてきたのは、この試みを漠然と、目的意識を持ってというよりも半ば日課、習慣として続けて、半年近く経過した頃だった。僕は仕事が忙しく、帰りが毎日深夜に及んだ為、2週間程作曲をサボり続けていた。そんな或る休日の起き抜けだった。突然ミコの声が、意識の遠くで聞こえた。
「最近、会いに来てくれないんだね」
そう言ったんだと思う。声が聞こえた時、僕は、ああ、そうか、今はまだ脳が覚醒していないから、無意識と意識が混濁して、その隙を狙ってミコの声のタルパが話しかけて来たんだ、とすぐに得心が行った。
会いに来てくれない…これは、僕が楽曲を暫く作っていない事に対して、なんらかの罪悪感を抱えているって事なんだろうか…そんな風に思った。僕は、無意識の狭間からミコが追い出されてしまう前に、頭の中で、本当は会いたいんだ、会って、色々と話をしたいんだ、と必死に、早口で答えた。ミコは、それを聞き取ったのかどうか解らないが、えへへ、と小さく漏らした。そして、その時はそれっきりだった。それ以上僕が話しかけても、ミコは出てこなかった。なんだか、明晰夢と気づいたけれど、うまく夢をコントロールできず、結局は目が覚めてしまった感覚に似てる。
ミコの声を想像し、頭の中で響かせる事は造作なかった。これは或る意味当然で、僕がいつもボカキューで設定しているシンガープロパティに合わせるだけ。ジェンダーファクターがマイナス30くらい。子供っぽい声だ。
なかなか受け入れられなかったのは、ミコの一人称だ。自分の楽曲では、全て「わたし」か「あたし」だけれど、いざ自分の頭の中で何かしら発言させようとすると、「わたし」は思っていた以上に困難だった。つまり、恥かしいと感じた。なので、暫くは一人称を言わせないようにしたりとか、逆に「わたし」を何度も繰り返して慣れようと努力したが、結局どちらもうまくいかず、結論として「ボク」にしてやった。そういえば、公式設定はどちらでもなかった筈。だから、僕のミコは、ボクっ娘だ。
ミコの声のタルパを具象するのは、根気が要った。兎に角、何度も挫折した。タルパ自体の存在を内心で猜疑の念で以て接していたからかもしれない。だから、この無謀な試みを続けている事は、最中に於いて、決して友人には語らなかった。尤も、彼は顔を合わせる度に、ミコのタルパは出来たのか、と囃して来たが。
初めて無意識下に於いて、ミコが自発的に、僕の頭の中に話しかけてきたのは、この試みを漠然と、目的意識を持ってというよりも半ば日課、習慣として続けて、半年近く経過した頃だった。僕は仕事が忙しく、帰りが毎日深夜に及んだ為、2週間程作曲をサボり続けていた。そんな或る休日の起き抜けだった。突然ミコの声が、意識の遠くで聞こえた。
「最近、会いに来てくれないんだね」
そう言ったんだと思う。声が聞こえた時、僕は、ああ、そうか、今はまだ脳が覚醒していないから、無意識と意識が混濁して、その隙を狙ってミコの声のタルパが話しかけて来たんだ、とすぐに得心が行った。
会いに来てくれない…これは、僕が楽曲を暫く作っていない事に対して、なんらかの罪悪感を抱えているって事なんだろうか…そんな風に思った。僕は、無意識の狭間からミコが追い出されてしまう前に、頭の中で、本当は会いたいんだ、会って、色々と話をしたいんだ、と必死に、早口で答えた。ミコは、それを聞き取ったのかどうか解らないが、えへへ、と小さく漏らした。そして、その時はそれっきりだった。それ以上僕が話しかけても、ミコは出てこなかった。なんだか、明晰夢と気づいたけれど、うまく夢をコントロールできず、結局は目が覚めてしまった感覚に似てる。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、11人?の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』
まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。
朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。
「ご主人様の笑顔が見たいんです」
その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。
全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!?
甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる