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わたしだって、セックスしたい
第3話
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支度、なんてものはない。普段通りの外出。ただ、ヘッドフォンをしながら歩き回るだけだ。それだけ。でも、事前にミコと、何をするかの簡単な相談はしておいた。
まず、カフェに行って食事だ。できるだけお洒落なカフェ飯を頼む事。それから、映画を見る。できるだけ恋愛ものを選ぶ事。そして、ウィンドウショッピングをして、食事をして、夜景を見る。
「これって、どう考えても、ただの罰ゲームだよね?」
僕が駅に向かいながら言った。ミコが、ヘッドフォンから応答した。
「そうかなあ? ボクはうれしいよ!」
嬉しいよ、で片付けられるんだもんなあ…。
「君には体がないからいいけれど、こっちは現実世界の人間なんだぜ」
「いいなあ、体があって」
ミコが冗談めいて言った。僕は、はぐらかされたと思い、それ以上不平をぶつけるのをやめた。
カフェ…。どこにしよう、と思ったけれど、向かう先に汎用性が利く、外苑前に行くことにした。
電車の中、ミコと心の中で会話してみたけれど、全然慣れなかった。どうしても、小声みたいになってしまうし、自分の心の声と、ミコに対して話している声の区別ができなくて、勿論、ミコには全ての声が聞かれている事は解ってはいるのだけれど、なんだか落ち着かなかった。
本当は、独りで外出する時は、美術館とか、庭園とか、気兼ねなく慫慂できる静かな場所が良かったんだけどね。
「そうなら、そんな所でもよかったのに」
ミコが、デートらしいデートしたいって言ったんだろ?
「てへ」ミコがわざとらしく漏らした。「そうでした」
少しでも変質者っぽい行動をしてると感じたら、すぐにデートは中止するからな。
「そうならないように、ボクも不用意な事言わないように気を付けるよ」
是非、そうして欲しいね。
外苑前で降りて、神宮外苑の並木道までゆっくり歩いた。この辺りの通りは、道が広くて歩きやすいし、肩を並べる店舗も様々で楽しく、気に入っている。
「外苑前の店なら、ハンバーガーでもお洒落なカフェだよね?」
「え~? ちょっとイメージ違うよぉ」
「まだ日本に上陸して一年ちょっとの店なんだから、話題の店だよ。入ろう」
開店当初は人集りが多すぎてとても近づけなかったけれど、今は人口からある程度逸れ、並ばなくても入れる様になっていた。まあ、気にしていた店舗なのだ。独りで入るのはちょっと憚られたし、かといって誰か誘うのは得意じゃないし、億劫だったので、この中途半端に存在しているミコとここに来たというのは、ある意味非常にバランスが良かった。僕の中では。
困ったのは、テーブルについてから、ずっとヘッドフォンを装着したまま過ごす訳にはいかなかった事だ。アニメや映画のキャラだと、ヘッドフォンが識別子の役割してたり、赤緑の3Dメガネが性格を示すアクセントになってたりするけれど、僕は現実の人間で、誰もミコの存在を知らないし、認知できないので、止む無く外す事にした。
僕は、ヘッドフォンをテーブルの上に、カップ部を手前に向けて置いた。それから心の中で、ミコ、聞こえる? と呼びかけた。けれども、返答はなかった。
「ミコ、聞こえる?」
小声でヘッドフォンに向かって言った。すると、ヘッドフォンから、微かに声が聞こえた様な気がした。僕は、慌ててヘッドフォンを片耳に当てた。
「ちょっとぉ、酷いよ」ミコが怒った様な口調で言った。「いきなりヘッドフォン外すなんてさ。デートにならないじゃない」
僕は、心の中で、ごめんごめん、と謝った。でも、ヘッドフォンしたまま、こんなところで食事する訳にもいかないだろ?
「ヘッドフォンなんて、本当は不要なんだよ?」ミコが言った。「ヘッドフォンがないとボクとお話しできないのは、全部キミが、そうしてるだけなんだからね」
うん。それは解ってる。自分ではコントロールできないんだけれど、ヘッドフォンは触媒に過ぎない事は理解している。でも、声だけを虚空で響かせる様な器用な事は出来ないし、かといって、君の姿を具象できる程、タルパについて訓練できていないんだ。
僕の言葉に、ミコは、う~ん、と唸った。
「じゃあ、いいよ」拗ねた様な声を出した。「ボク、黙ってキミが食べてるの見てるから。本当は、ボクの分も注文して欲しかったな…」
ああ、そういう事を気にするんだな、と思った。確かに、彼女は一人の人格として、僕の中では存在をしているのだし、彼女が僕のデート相手として、実在の人間と同じ扱いを受けたい、という気持ちは理解できた。
僕は、ミコにこれ以上拗ねられたら面倒だと思い、味わうのもそこそこに、急いで食事を済まし、店を出た。
僕は敢えて自分から会話を始めなかったが、ヘッドフォンをしていてもミコから声をかけてくる事がなかったので、彼女が臍を曲げているのが理解できた。もう僕には、暫くぶりにお付き合いをしている女性はなかったが、そういえばこんな経験は過去にもあったなあ、としみじみ思いだした。昔の彼女の記憶を辿っているのかもしれないが、少なくともミコの様な性格ではなかったな。
映画を見る為に、六本木まで移動した。
ヘッドフォンの存在は、映画となると、更に面倒な物となった。
まず、カフェに行って食事だ。できるだけお洒落なカフェ飯を頼む事。それから、映画を見る。できるだけ恋愛ものを選ぶ事。そして、ウィンドウショッピングをして、食事をして、夜景を見る。
「これって、どう考えても、ただの罰ゲームだよね?」
僕が駅に向かいながら言った。ミコが、ヘッドフォンから応答した。
「そうかなあ? ボクはうれしいよ!」
嬉しいよ、で片付けられるんだもんなあ…。
「君には体がないからいいけれど、こっちは現実世界の人間なんだぜ」
「いいなあ、体があって」
ミコが冗談めいて言った。僕は、はぐらかされたと思い、それ以上不平をぶつけるのをやめた。
カフェ…。どこにしよう、と思ったけれど、向かう先に汎用性が利く、外苑前に行くことにした。
電車の中、ミコと心の中で会話してみたけれど、全然慣れなかった。どうしても、小声みたいになってしまうし、自分の心の声と、ミコに対して話している声の区別ができなくて、勿論、ミコには全ての声が聞かれている事は解ってはいるのだけれど、なんだか落ち着かなかった。
本当は、独りで外出する時は、美術館とか、庭園とか、気兼ねなく慫慂できる静かな場所が良かったんだけどね。
「そうなら、そんな所でもよかったのに」
ミコが、デートらしいデートしたいって言ったんだろ?
「てへ」ミコがわざとらしく漏らした。「そうでした」
少しでも変質者っぽい行動をしてると感じたら、すぐにデートは中止するからな。
「そうならないように、ボクも不用意な事言わないように気を付けるよ」
是非、そうして欲しいね。
外苑前で降りて、神宮外苑の並木道までゆっくり歩いた。この辺りの通りは、道が広くて歩きやすいし、肩を並べる店舗も様々で楽しく、気に入っている。
「外苑前の店なら、ハンバーガーでもお洒落なカフェだよね?」
「え~? ちょっとイメージ違うよぉ」
「まだ日本に上陸して一年ちょっとの店なんだから、話題の店だよ。入ろう」
開店当初は人集りが多すぎてとても近づけなかったけれど、今は人口からある程度逸れ、並ばなくても入れる様になっていた。まあ、気にしていた店舗なのだ。独りで入るのはちょっと憚られたし、かといって誰か誘うのは得意じゃないし、億劫だったので、この中途半端に存在しているミコとここに来たというのは、ある意味非常にバランスが良かった。僕の中では。
困ったのは、テーブルについてから、ずっとヘッドフォンを装着したまま過ごす訳にはいかなかった事だ。アニメや映画のキャラだと、ヘッドフォンが識別子の役割してたり、赤緑の3Dメガネが性格を示すアクセントになってたりするけれど、僕は現実の人間で、誰もミコの存在を知らないし、認知できないので、止む無く外す事にした。
僕は、ヘッドフォンをテーブルの上に、カップ部を手前に向けて置いた。それから心の中で、ミコ、聞こえる? と呼びかけた。けれども、返答はなかった。
「ミコ、聞こえる?」
小声でヘッドフォンに向かって言った。すると、ヘッドフォンから、微かに声が聞こえた様な気がした。僕は、慌ててヘッドフォンを片耳に当てた。
「ちょっとぉ、酷いよ」ミコが怒った様な口調で言った。「いきなりヘッドフォン外すなんてさ。デートにならないじゃない」
僕は、心の中で、ごめんごめん、と謝った。でも、ヘッドフォンしたまま、こんなところで食事する訳にもいかないだろ?
「ヘッドフォンなんて、本当は不要なんだよ?」ミコが言った。「ヘッドフォンがないとボクとお話しできないのは、全部キミが、そうしてるだけなんだからね」
うん。それは解ってる。自分ではコントロールできないんだけれど、ヘッドフォンは触媒に過ぎない事は理解している。でも、声だけを虚空で響かせる様な器用な事は出来ないし、かといって、君の姿を具象できる程、タルパについて訓練できていないんだ。
僕の言葉に、ミコは、う~ん、と唸った。
「じゃあ、いいよ」拗ねた様な声を出した。「ボク、黙ってキミが食べてるの見てるから。本当は、ボクの分も注文して欲しかったな…」
ああ、そういう事を気にするんだな、と思った。確かに、彼女は一人の人格として、僕の中では存在をしているのだし、彼女が僕のデート相手として、実在の人間と同じ扱いを受けたい、という気持ちは理解できた。
僕は、ミコにこれ以上拗ねられたら面倒だと思い、味わうのもそこそこに、急いで食事を済まし、店を出た。
僕は敢えて自分から会話を始めなかったが、ヘッドフォンをしていてもミコから声をかけてくる事がなかったので、彼女が臍を曲げているのが理解できた。もう僕には、暫くぶりにお付き合いをしている女性はなかったが、そういえばこんな経験は過去にもあったなあ、としみじみ思いだした。昔の彼女の記憶を辿っているのかもしれないが、少なくともミコの様な性格ではなかったな。
映画を見る為に、六本木まで移動した。
ヘッドフォンの存在は、映画となると、更に面倒な物となった。
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