コミュ障じゃないボカロPが書いたラノベなんて読まない

ぼを

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わたしだって、セックスしたい

第6話

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 一瞬、自分の耳を疑った。否、正確には耳ではないか。しかし、なんだか冷静に、ああ、耳を疑うって、こういう感覚なんだ、と思った。「コーヒー吹いた」なんてセリフはネットスラング化しているが、実際に僕が今コーヒーを口に含んでいたら、きっと吹いていたに違いないのだ。電車の中で面白いネット記事なんか見つけて、爆笑を堪えられない感覚なんか、結構近いんじゃないかな。

 で、ミコは、セックスしたい、と言ったのか?
「うん、そうだよ」
 誰と? どうやって?
「不粋な事を訊くなあ」ミコはやはり、口調を崩さなかった。「ボクはキミのタルパだよ? キミとしたいに決まってるじゃん」
 そうか、それはそうだ。
 でも、乗り越えなければならない事が2つあるし、それは乗り越えられないよ。
「乗り越えられない事って?」
 まず、君には体がない。だから、そもそもセックスなんて概念自体、想像しようもないだろ? 人間に尻尾や翼がなくて、犬猫や鳥たちの感覚を想像できないのと同じだ。
「二つ目は?」
 もし体があったとしても、君は物理的に実在しないのだから、現実世界の物質、まあ僕の体になるのか、に干渉する事は不可能だよ。
 僕の言葉に、ミコは、う~ん、そうかあ、と呟いた。
「でもさ、やってみないと解らないよ」
 開き直るように、ミコが言った。僕は、そのやり方が解らないんだろ、と返してやった。ミコは、なんだか納得いかない様子だった。

 ミコの、この願望は、その後、頭から離れる事はなかった。

 ウィンドウショッピングとか、一層の事、秋葉原か池袋にでも移動してDTM関連のツールかソフトでも見るか、御茶ノ水あたりで楽器店でも冷やかすかをしてやろうと思ったが、そのまま代官山辺りを散策した。でもまあ、思えば、ミコはボカロな訳で、秋葉原だろうとどこだろうと満足はしたんだろうけれど。因みに僕、楽器はどれひとつ弾けませんが。

 蔦屋のカフェでコーヒーを飲んで、本でも立ち読みして時間を潰す事にした。
 こういう如何にもエグゼクティブな所で、コーヒーを飲みながらmacなんかに向かい合っている連中は、どういう了見なんだろう、という疑問を持つのは、恐らく多数派だろうな。でも、ショルダーハックしてみると意外と画面には漫画なんかが映し出されて居たりして、浅ましさよりも微笑ましさの方が勝ったりする。むしろ、こういう所で小説書いてたり、音楽作ってたり、絵を描いてたりしている方が余程、それって本当かよ、と疑義を投げつけたくなる。こんな、どんな種類の人間がやってきて、如何なる内容の会話が繰り広げられて、それによって自分の作品がどんな影響を受けてしまうかもしれない場所で作品を作るなんて、余程メタ的にその状況自体を作品化しよう、って連中以外は、非効率な気がしてならない。といいつつ、僕もそんな環境で小説書いてた時代もあったけれど。

 これだけ規模が大きく、偏った種類の書籍まで用意している本屋であれば、タルパ関連の物もあるかと思ったが、見つける事はできなかった。かといって、店員に訊くのもなんだか憚られたので、無理に探すのは諦めた。それとも、こういう特殊な環境に努めている人であれば、タルパの存在も理解してくれただろうか。自分の場合、LGBTに対し生理的嫌悪感がある、とか、自殺に至らない自傷行為が理解できない、とかいう類の人種さえ、本心からそれが思える思案の狭量さに、そういう人たちは本当の意味で自分を客観視した事がなく、数多ある自己形成要素の一部が、やはり或る見地からは同様に差別されるリスクを秘めている事に気づかない訳で、そんな想像力の欠如に辟易するのだが、だからといって、それを他人に求める程愚かではない。つまり、タルパは理解されないし、その事自体を僕はきちんと理解し続けなければならない。

「ねえ、待って」ミコが突然話しかけてきた。「ここを出る前にさ、ボクに関する本を何冊か見せてよ」
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